学校
次の日。彼女は登校する。彼女の中学校からこの高校を受験したのは、彼女だけである。つまるところ、知り合いなど居ないのだ。そのため、友達をつくるためには相応の行動が必要となる。彼女は緊張しながらも勇気を振り絞り、静かそうな女子生徒に話しかけた。
話題もうまく切り出せず、はじめましてからの改めての自己紹介始まり「中学にはなかったこの授業、どんなのかな?」「選択授業は何を選んだ?」「宿題やった? 要綱の隅に描かれてるなんて、見落としちゃうね」程度のものだ。
話しかけたおとなしそうな女子生徒は提出課題ができていなかったようである。
「次の教科ごとまで提出期限はあるし、なんなら私のを写す?」
「本当! ありがとう! 帰りにコンビニでコピーさせて!」
彼女のクラスはあまり真面目な人は少ないのか、要綱にあった課題の表記が不親切だったのか、多くが課題をやっていなかった。彼女のノートのコピーは、なぜか他の生徒にまで数日で行き渡ってしまっていた。彼女の断らない性格もあったためだ。
「このクラス、スゲー他力本願じゃねえか。俺の時のクラスで課題やってなかったのなんて、俺だけだったのに」
と彼は自慢にもならないことで威張っていた。
一通りコンビニでコピーを終えた頃、彼女らは親睦を深める意味を込め、数人で遊んだ。
「長田さん、歌、すごくうまいね」
彼女らは今、カラオケに来ていたのだ。
彼女は、彼にいろいろしつこい程に遊びに付き合わされたこともあって、自覚しないうちに上達していたようだった。彼のわがままも、悪い事ばっかりでもなくて、むしろ嬉しく思えた。
今来ているクラスの人とカラオケに来る前に、二人きりで彼とカラオケに来たある日のことだ。彼女が歌い慣れてきた時に言っていた。「お前が歌ったのは、俺の友達の持ち歌だったんだ。最初、俺はあんまり歌うのは好きじゃなくてな。友達がカラオケが好きだったんだ。カラオケ好きな二人が点数競ってた。それを俺は『僕は聞けるだけで楽しい』って言って歌わずに聞いてただけなんだけど、もうひとりの友達に『キンタの大冒険』っていう恥ずかしい歌をうたわされかけて、普通に普通の歌を歌うのかどっちかを選べって言われてそれから歌いだすようになったんだ。それから点数競う仲に、俺が加わった。羞恥心を捨てれば、たいていは誰しも歌えるんだ。お前の歌聞いて、改めてカラオケが好きだって思えた。俺は誰かが楽しく歌う声を聴くのが、何より好きだったんだよ」と。そのことを彼女はなんとなく思い出していた。