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入学式

 彼は手伝いをしてくれる一方で、要求してくることも多かった。参考書を求めたりするのだ。しかも、彼女の事情も問わず、「あれを買え、これを買って」である。時にはカラオケに引っ張りまわされたことだってある。いい加減、温厚な彼女も鬱陶しく感じるようだ。しかし、いろいろ助けてもらっている立場でありながら彼の要望を一蹴するわけにもいかない。要求にこたえている時点で、完全な対等な立場である。こうなれば、彼女はこんなやつに遠慮もいらないと、ため口で話すようになっていた。

 入学式の日。彼女は彼と共に学校に来ていた。彼女は彼が学校についてくるのに驚いていたが、彼にとってはそれこそついていくものと考えていたらしい。


「俺は学校の教室も把握してるし、むしろお前は何もわからないだろ。というか今更だな、バイトでは俺にも動かせておきながら学校には行かせない魂胆だったか。なんか面白くない話だ」


 彼女は慌てて、悪意がなかったことを説明した。そこで彼はこれからの一連の流れを説明する。


「要綱みして。二組ね。そこの棟の二階。席は決まってるからな。俺は教室が分からなくなったうえに、席まで間違えて他人の席に座ってしまったという苦い思いでがある。おかげでクラスから悪い意味で印象づいた。お前も気をつけろよ。あと、間違っても俺に話しかけんなよ。どうしてもの時は、いつもみたいに携帯電話を持って話そうな」


 今は誰も周りにいなかったが、彼は普段、ほかの人には見えないのだ。彼女は声を出さずに頷いた。




 入学式が終わる。これから教室に移動するというのに、先導してくれるような先生はいない。体育館の出入り口近くにあるボードに張り付けられているクラス分けの票を見て、各自で移動しろということである。


「な? 不親切だろ?」と彼は笑った。


 これが一人であるならば、随分心細い事だろう。しかし、彼女の隣には彼がいた。随分このことに救われた。彼女は安堵するが、それでも友達グループのいない人も存在するわけだ。否が応でも目に留まる。


「なあ。頼みがある。そこできょどっている名も知らぬ生徒に声をかけてやってくんねえかな? 昔の俺を見ているようで辛いんだ。頼むよ」


 彼の頼みとなればどうも断りにくい。彼女はしょうがなく声をかけた。

「大丈夫ですか? ボードの前、人だかりできていますね。あなたは何組ですか?」


 男子生徒は要綱を持っていなかったらしく、自分のクラスもわからなかったらしい。


「俺の携帯見せてやって。クラス分け表の写メ撮った」


 そういって彼は彼女に携帯電話を渡した。彼が携帯電話を持っていることなどいろいろ彼女は聞きたかったが、それを我慢して表示された画面を男子生徒に見せた。


「私、写メ撮っておいたんです。貴方の名前が載ってるといいんですが」


「え? タッチ式携帯? すごい! あ、ぼく一組だ」


「一組でしたらあの棟の4階ですよ西の方にある部屋ですよ」


「本当だ教室も載ってる。というか進学クラスだけ二年生の棟にあるんだね。危うくほかの人についていくとこだった。ありがとう」


 男子生徒は理解が気持ち悪い程早いらしく、そのまま一人で移動を開始した。

 そんな男子生徒との話を聞いていたのか、近くに居た女子生徒も見せてくれないかと聞いてくる。それがかわぎりになってしまい、別の女子グループがハイエナのようにたかってきた。


「あ。こういう輩はかかわらない方がいいとみた。とっとと教室行こうや」


 彼が彼女に言う。彼女はそれに応じようと、女子グループに彼の携帯電話を返すように求めた。聞こえていないのか、はたまた聞こえないふりをしているのか、返す気配は無い。

「携帯ごときいらねえや。とにかく嫌な奴は無視だ。早く行こう」

 戸惑ったが、彼女は彼に手を引かれて強引に離れることになった。教室に行く途中、進学クラスの何名かはこちらに来ている者もおり、彼女は彼の願いもあって説明してあげていた。


 生徒が二組の教室に集まり、自己紹介などを一通り行い、今日はそれで終わった。

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