不思議な青年
少女が部屋に入ったそこには、先客がいた。彼女のベッドに図々しく座りこんだ青年だ。
青年はこともあろうか、のんきに挨拶をするのだ。彼女は意味も分からず、その場で声も出せずに立ち尽くしてしまう。
「うーん。二人きりで話をしたいことがあるんだ。まあ座ってよ」
そう言って座っているベッドをポンポンと叩き、座るように促した。青年は話を進めようとしているのだ。
彼女は知りもしない男の隣に座るわけもない。恐怖心からか、無意識に後ずさりしてしまう。
「ああ。そうだな。話をしなくてもいい。とにかく俺のことを知ってほしいんだ。よし! リビングに下りよう! 父さんがいたよね!」
「は、はい。一階に父が居ますが……」
彼は勢いよく立ち上がり、彼女を横切って部屋を出た。彼が立ち上がって初めて気が付いたが、身長が高かった。一方で、無邪気と言える表情が印象的に思えた。
「ほら。一緒についてきてくれよ」
棒立ちとなる彼女に彼が言った。彼女は、父親の知り合いだったのか、と思って後に続いた。
「俺はね、ほかの人には見えないんだ」
そう言いながら彼はリビングにいく。そこでは彼女の父親がソファーでくつろぎ、テレビを眺めていた。そこに彼が迫った。
しかし、彼はそのまま彼女の父親をすり抜けたのだ。彼は彼女に見せつけるように、手を何度もすり抜けさせて見た。それから、冷蔵庫をあけて、勝手に飲み物を取り出して言う。
「ということ。ほら。ジュースでも飲みながら部屋で話そう」
「お、お父さん!」
「やめとけって。頭がおかしいと思われるぞ」
彼女は、父親が本当に何も見えていなかったことを感じ取って、「ううん、呼んでみただけ」と彼からペットボトルを受け取りながら父親を誤魔化した。そのまま二階に逃げたのだ。
部屋に戻った二人。
「あの、貴方なんなんですか?」
「うん。魔法で召喚された存在。言うなれば使い魔なんだ」
「つ、使い魔? 私にですか?」
使い魔とは、精霊などと契約することによって、色々力をもたらしてくれる存在だ。ただ、割合で言えば数百人に一人だとか二人だとか言われている。そんな稀な存在だ。
小説でもよく出てくる存在で、「駄目な主人公に強力なドラゴンなんかが使い魔となって、主人公の人生が一変する」という話もよくあるのだ。おとぎ話のようだ。
「あ。期待すんなよ。そんな都合のいい話は無いんだって」
「ど、どいうことですか?」
「簡単な話。俺の正体よ! 俺、もとはお前なのさ」
「よくわからないのですが」
彼はしばらく黙り込んだ。うまく説明しようと言葉を考えているようだ。そして彼は口を開く。
「妄想したことはある? もし、自分が女として生まれたら、どうなったか。じゃなかった。男として生まれたらどんな人間になったか。一人っ子なら、なおさらイメージもできないよな。そこで俺がいるわけだ。俺は、お前の、俺の、可能性の一部の一つなんよ。おーけい?」
「貴方は、わたし?」
彼はそういうこと、と言った。そして彼は雑誌を一つ取り出した。彼は話を進めたかったようだ。
「俺はお前に助言をしていく。俺らの行動方針。しばらくはこれ」
雑誌には、大学生デビューと載っているコラムがあった。