プロローグ 謎の男
少女が家のリビングのソファーに座っている。
くつろいでいる筈なのだが、彼女の瞳はどこか憂鬱だ。というのも、彼女はもうすぐ高校生になるのだ。彼女は新しい環境に馴染めるのか不安でたまらないのだ。
彼女は中学生時代は、少なくとも友達というものはいなかった。せっかくなので、高校生デビューというものをしてみたいと思っている。だが、彼女は自分の顔にコンプレックスを持っていた。
なんとなく彼女は洗面台に移動して、自分の髪をあげた。彼女の目はどこか威圧感があり、わずかに吊り上る瞳が彼女自身をにらんだ。彼女は鏡を見るたびに睨んでくる自分の顔が嫌いだった。しかしそれは紛れもなく父親から受け継いだ特徴だ。
家族をそれなりに好いている彼女にとっては、このコンプレックスを母親に打ち明けることもできずにいた。
――こんな私が、高校で受け入れてくれるものか。無理をしたところできっと滑稽なだけだ。
彼女はあきらめなのか自嘲なのかわからない思いを心で呟いた。
彼女はとりあえず入学までのこの休日を満喫しようと思い、階段を上って自室に戻った。
自室に彼女が踏み込んだとき、異常に気が付いた。部屋が片付いているのだ。
そしてきれいに整えられた彼女のベッドに腰掛けた人物が居た。
今度入学するはずの学校の制服を着た青年だ。彼は部屋のあらぬ方向を見ており、彼女の存在には気づいていないようだ。しかし、その黄昏た雰囲気が様になっており、格好よく見えた。
「あ、あの」
彼女が青年に声を掛けた。そこでようやく彼女に気が付いた。彼は顔を向け、彼女に微笑みかけた。そして優しい声で言ったのだ。
「やあ、はじめまして」