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輪廻の血  作者: 赤羽
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第三章後編

 ジルゼノクは主である厚樹に視線を向ける。

「主よ、これよりいかがなさるか?」

「う〜ん、どうしよっか。今までは父さんと母さんが帰るまでに普通の子にって努力したんだけど・・・これじゃ帰ってきそうにないしねぇ。むしろ帰ってきてもこんなバケモノじゃすぐにまた逃げちゃうよね・・・」

 ハハハ・・・っと厚樹が乾いた笑いをこぼす。

 厚樹は途方に暮れていた。

 今までは自分が不出来なばっかりに、親に捨てられたのだと思っていた。

 母親に言われた、『普通の子だったらよかったのに』という言葉は今でも鮮明に覚えている。

 その言葉のために自分なりに色々と努力をしてきた。

 自分が普通のいい子になれば両親が迎えに来てくれる。

 そう信じて。

 が、それはすべて無駄だった。

 母親の言う『普通』とは純粋な血と言う意味だったのだ。

 いかに努力しようとも自分の血を変えることはできない。

 つまりは母親の訴えは実現不可能なものだったのだ。

 もう自分には何もできない。

 今まで支えにしてきたものが一気に崩れ、生きる目的を失った。

 まさにそんな気分だった。

 そして厚樹の頬を一滴の涙が流れる。

 しかしここで、予想外の声が掛けられた。

「私たちじゃだめなの?」

 厚樹が伏せていた顔を、声の方向に顔を上げる。

 顔を上げた先にいたのは、目を潤ませ今にも泣きそうな顔をした朝美だった。

「たしかに、山城君のご両親は、もう迎えに来ることは無いかもしれないけど・・・でも山城君には、山城君が異血者と分かっていても、親しくしてくれる人がいるじゃない!水薙君は厚樹君を心配してくれてるし、それに昶ちゃんなんて、さっきまで厚樹君のために涙まで流してくれてたんだよ?だから自分をバケモノだなんて言って壁を作らないで・・・そうやって一人になろうとしないで・・・」

 一人って結構つらいんだよ?そう最後に付け足して、朝美は自嘲気味に苦笑いを浮かべる。

 そんな朝美の表情を見て、厚樹は先の話が朝美の経験からの話だろうと、漠然と思った。

 そう思うと、不思議とその言葉がストンと、心に収まった気がした。

 するとその横にいた昶からも声が上がる。

「俺を拾ったのはお前だからな!最後までちゃんと責任もってくれよ!!」

「ふん、事情を知る人間が聞けばかなりの問題発言だな。すまないな厚樹、私はお前が異血者だと知っていて隠していた・・・だが、だからこそ私は厚樹に対して今さら何も思わんよ。だいたい厚樹がバケモノなら私も、いや、ここにいる全員がバケモノだぞ?」

 そう言って澪は肩をすくめて見せた。

 ククク・・・っと、どこからか忍び笑いが聞こえる。

 振り向くとそこには口元を緩めた虎がいた。

「どうやら主は良いお仲間をお持ちのようだ。主よ、私がいてはご不満かな?」

「君の事何も考えて無かったね、ごめん。僕が拾ったわけじゃないけど、飼いだした生き物は最後までめんどうみるよ」

 そう言って厚樹はいつもの和やかな笑顔を浮かべた。

 そんな厚樹に虎も笑い返す。

「主にかかれば我も猫同然か、これは頼もしいことよ」

「さて話が落ち着いたところで、しっかりと自己紹介しておこうか。小僧にはまだ何も話していないのでね」

 そう澪が切り出すと、そういえばそうだったと、朝美も未だ名を告げていないことに思いいたる。

「私は厚樹の親友の水薙 澪だ。とりあえず今は、小僧ということにしておいてやる」

「?」

 澪の言葉に厚樹が首をかしげる。

 それに気が付いた朝美が、ごまかすように慌てて自分の紹介を始める。

「私は神道 朝美、山城君のクラースメート、っていってもまだ転校してきて二日目なんだけどね」

「俺も改めて自己紹介をしておく、竜門寺 昶だ。よろしくな」

 そう昶が続けると今度は厚樹がそれに続こうとする。

「僕は・・・」

「厚樹、いまさらお前が自己紹介をする必要は無いと思うぞ」

「・・・」

 また自己紹介させてもらえなかったことに、少しムスッとした厚樹を尻目に、澪は厚樹の横に身を伏せる虎に話しかけた。

「ジルゼノクといったか、先ほどの事から察するに風か何かの能力か?」

「ふん、主でもないものに答える義理はない」

「言うではないか、この飼い猫風情が」

「なっ!飼い猫とは、誇り高き神獣に向かってなんと無礼な!!」

「猫同然と言ったのは貴様であろう、最近の神獣は記憶力が乏しいようだな!!」

「言わせておけば調子に乗りおって、この小童が!!」

 ジルゼノクは伏せていた身を起こすと、凄まじい形相で澪を睨み付ける。

 まさに一触即発のこの状況で、緊張感の無い声が間に割ってはいる。

「まぁまぁジルもそんなに怒らないで、ジルの方が遥かに年上なんだから、ここはひとつ穏便にね。それに僕もジルのこと知りたいし」

「む、主がそう言うのであらば、時にそのジルというのは・・・」

「あぁジルゼノクじゃ呼びにくいから、頭をとってジルにしたんだけど嫌かな?」

「滅相も無い!主に名を与えられるとは喜ばしきこと、ぜひその名で及びくだされ」

 そう言うジルは本当に嬉しそうな顔をしている。

 そんなジルに澪が再び質問を投げかける。

「ではジル、先ほどの質問の答えはどうなのだ?」

「き、貴様!主に与えられし名を易々と!!」

「ジル、普通名前は呼んでもらうためにあるんだよ?」

「そ、それはそうなのですが・・・」

「さぁ答えたまえジル君!」

「むぅ、今に見ておれ小童め・・・」

 そうジルが苦々しく呟く。

「なんかこの三人(二人と一匹)いいコンビだね」

 朝美が能天気にそんな感想をのべる。

「そう?いつか流血ものの喧嘩になりそうな気がするけど・・・」

 そう昶が後に続けた。

 そしてジルは、少し居住まいを正すと質問に答えた。

「我の能力は風とは似て非なるもの、それは大気だ」

「大気・・・」

 厚樹が転がすようにその言葉を転がした。

「つまりは、空気そのものを操作する能力?」

「さすがは我が主、お察しの通りで」

 そこで朝美が、そういえばと昶を見る。

「昶ちゃんたちのいた所に、植物の竜みたいなのがいたけど、あれは昶ちゃんが出したんだよね?」

「そのちゃんっての、どうにかならないかな」

「あ、ごめん昶君だね」

 昶はすこし決まりが悪そうな顔をしながらも、質問に答える。

「あれは砲閃花、他に7種で合計八匹の竜を召喚できる。だから『八大竜王』」

「それであの竜はジルさんみたいに喋らないの?」

 それには当のジルが答えた。

「召喚獣というのは神獣とは異なる。中には神獣の召喚獣もいるが、召喚というのは術者が、呼び出すための力を負担しなければならない。そのため神獣は召喚には力の負担が大きく不向きなのだ。よって喋る召喚獣は殆どおらぬ」

「私の時に比べてやけに素直ではないかね?」

「ふん、このお嬢は貴様と違って、礼儀というものをよく理解しているようだったのでな」

「なんとも心の狭い神獣様だな」

「ぬぬぬ・・・」

 厚樹の前とあって、何も言い返せないジルを置いて、澪は話に幕を下ろしにかかった。

「さてそろそろ帰らないと寮の門が閉まるぞ。小僧のことは話を通してあるから、表から堂々と行っても問題あるまい」

「そうだね、そろそろ帰らないと夕飯が、あ、澪ごめんね、壁・・・」

「あぁあれか、まぁ父のことだ、厚樹がやったと言えば笑顔で許してくれるだろう。気にするな」

「うん、ありがと。それじゃ時間ないし、お先に失礼するね」

 厚樹がそう告げるとジルが厚樹の前に進みでる。

「時間が無いのであろう?背に乗られよ、人気の無いところまでならお送りする」

「昶も一緒だけど良いの?」

「一人増えたところで変わりはせん、さぁ急がれよ」

「ありがと。昶行くよ〜」

 そう言って、ジルの背に飛び乗る厚樹に、昶も戸惑いながらも後に続く。

「それじゃまた月曜日に学校でね、おやすみ〜」

「では、確と捕まっていられよ」

 そして次の瞬間には、家の廊下を駆け抜け庭に飛び出すと、三本の尾をなびかせて、ジルは二人を乗せて空高く舞い上がった。

 後には疾走の余波が残り、朝美はなびく髪を手で押さえて、厚樹たちが消えた空を見やる。

「私も乗ってみたかったかな・・・」

 行き先は、男女の違いはあるものの同じ寮なのに、そんなことを思っていた。

 そしてふと、隣で澪が固まっているのに気が付いた。

「水薙君?・・・どうかしたの?」

「今、背に乗っていたな」

「うん、気持ちよさそうだったね」

「そうではない!」

「え!?」

 急に大声をだした澪に、朝美はたじろいだ。

「潜妖というのは本来背後霊のようなものだ。術者の血に住み着いて異能を与えるが、実体が無いため出来ても会話をするくらいだ!」

「え、じゃあ水薙君が平気でジルさんを煽ってたのって・・・」

「そうだ、実体がないから怒ったところで何もされない、いや、何も出来ないと高をくくっていたからだ!だが奴には実体がある。潜妖としてありえないことだ」

 朝美はその事実に驚きながらも、反論を試みる。

「でも、昶君の竜は普通に戦闘してたじゃない」

「召喚獣は別物だ。あれは生きた妖獣を門を開いて呼び出すものだ。潜妖は小僧が言っていたように、昔話に出ていたような神獣が死後、人の血に魂のようなものが宿ってできるものだ。つまり潜妖は、基本的にすでに死んだ神獣だ」

 そこまで澪は一気に言い切ると、厚樹たちが消えた空をじっと睨む。

「じゃぁジルさんは・・・」

「・・・おそらく、生きた神獣だ。明日、あの化け猫を問い詰めねばならんな・・・」

 朝美には異血に関する知識が無いため、どの程度のことなのかは分からないが、澪の表情を見れば、かなり有得ないことだということは理解できた。



 その夜、昶は厚樹の寮室に入り、厚樹の普通症候群を目の当たりにする羽目になったのだった。

「なんかすごく普通の部屋だね・・・」

 その言葉の意味が決して『一般的な部屋』という意味でないのは言うまでも無い。



 そして記憶にありながら、誰もが触れなかったことが一つ・・・

(プルルル・・・)

 鳴り響く電子音、男はその音を聞いて顔をしかめる。

 彼は二つの電話を持っていた。

 こちらの電話が鳴るときは、決まって仕事が来た時だった。

 乗り気はしないが、出ないわけにも行かず渋々通話のボタンを押す。

(ピッ)

 この電話は一方通行で、相手が話すだけで彼自身は何も答えなくてよかった。

 彼はいつものごとく無言で耳を傾ける。

「一人の狩人のことでトラブルが起こりました。問題があったのは竜門寺家を個人襲撃した狩人です」

 彼はそれを聞いてうんざりした。

 竜門寺家はたしか有害指定されていない、おそらく一部の過激派の断血者が手を出したのだろう。

 今朝のニュースから、襲撃が成功しているのは間違いない。

 仕事はおそらくその過激派の捕縛あたりだろうかと予想した。

 しかし電話の内容は予想外のものだった。

「今日、その狩人が死亡しました」

 彼はその報告に目をむいた。

「犯人の候補は二人、一人は竜門寺家の生き残りの竜門寺 昶、もう一人は竜門寺 昶と共に行動していたと思われる山城 厚樹、両名とも異血者と確認されています。本部はこの二人を有害指定とし、両名の断血が今回の任務となります。ではご検討を」

 そう言って電話はプツリと切れた。

 彼は電話が切れてもそのままの格好で固まっていた。

(ギリギリ・・・)

 彼が電話を握る手に力を込め、電話が軋み悲鳴をあげる。

「何でお前が・・・くそっ!」

 そうはき捨てて、彼は燃えるような赤髪を掻き毟った。


さぁついに第三章終幕です。

今回は厚樹の異血者としての立場が確りとしたものに成りました。

ここからいよいよ異血者としての厚樹を中心物語が回り始めます。

では次回第四章前編でまたお会いでいることを

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