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輪廻の血  作者: 赤羽
4/8

第二章前編

〜二章:血の狩人〜


(ピピピピ・・・・)

 まどろむ意識の中、やかましい電子音が鳴り響く。

 いまだ睡眠を求める頭を、不快にしか聞こえない音が無理矢理覚醒させようとする。

 それを意識的に無視するが、音は自己主張するかのようにその音量を増していく。

 たまらず音源に手を伸ばし、音を根絶しようとスイッチを押す。

 音が止み静寂が支配する中で、ゆっくりと朝美は体を起こした。

 普段、目覚ましは保険で大抵その前に目覚めるのだが、昨日の一軒のせいか今日の目覚めは最悪の一言である。

 昨日は、フギンクロスと呼ばれる怪しげな組織の人に追いかけられ、買出しはし直しになりと散々な出来事があり、部屋に戻ってそのまま寝てしまったのだろう。荷物は床に置いたまま、制服は着たままとひどい状態である。

 とりあえず学校に行かなくてはと思い、荷物を部屋の端にやるとそのまま洗面所へと向かう。

 部屋はそれほど広くない、そこそこの広さのキッチン兼リビングと洗面所と浴室のみという簡素な作りになっているが、学生寮としては色々とそろっている方だろう。洗面所は玄関から入ってすぐ左手にあって、その奥に浴室が続いている。

 洗面所に入ると歯を磨き、顔を荒い、髪を整えて最低限の身支度をする。

 そのまま今度はキッチンに向かい、冷蔵庫からお茶を取り出す。パンを口に入れてお茶でそのまま流し込む。

 そうして朝食をささっと終わらせると、鞄をもって部屋を出た。

 学校についたら色々と澪から聞かなければならない、そんなことを考えながら、朝美は新たな学校生活の二日目を迎えた。



(どうする?映画でも見にいこっか。いいねぇ行く行く〜)

(ねぇねぇ今朝のニュース見た?見た見た!どっかのお屋敷が放火されたってやつでしょ?)

 今日は土曜日で授業は午前の三限で終了し、その後は教室で雑談したり何処かへ行く予定を組んだりと、わいわいにぎわっていた。

(ガラガラッ)

「やぁ諸君、まったかね?」

 しばらくすると澪がいつもの如く教室にやってきた。

 しかし、扉を開けた澪を出迎えたのは、今まさに部活に行こうと扉に向かって走り出していた隼人だった。

「うぉっと!」

 慌てて隼人が右足で踏ん張ってブレーキを掛ける。

 何とか衝突を避けることに成功した隼人だったが、そこに右からの鋭い裏拳が迫る。

「うぉい!!」

 それを非難の声と共に、身を屈めてきわどく回避するあたりは、さすが運動部所属の隼人であるが、いかんせん相手が悪かった。

「えぇい、邪魔だ!」

 そう吐き捨てると、澪は身を屈めた隼人に右足で踏みつけるような蹴りを放つ。

「どわぁ〜!」

(ドシンッ)

 悲鳴と鈍い音が教室に響き渡り、そこには無残にも床に転がる隼人の姿が。両手で蹴りは防いだものの反動は殺しきれなかったのか、仰向けに転がっている。

 すぐにガバッと起き上がると、早速怒声をぶつける。

「てめぇ!入室早々なんてことしやがる!」

 だが怒鳴られた方はまったく悪びれる様子も無い。

 それどころか、冷ややかな視線を隼人に向けると、

「ふんっ、黙れ変体。そもそも突進してきたのはそっちで、私は自己防衛をしただけだ、文句を言われる筋合いはビタ一門ない!」

「何が自己防衛だ!ちゃんとぶつかる前に止まっただろうが!」

「何を言っている、貴様が私に近付いた時点で十分に正当防衛が成り立つわ!だいたい入室早々貴様のアップ顔を拝まされた私の心が、どれほど深く傷ついたか貴様には分からんのか!」

「むぅ〜、言わせておけば調子に乗りやがってぇ」

 そう言って怒りに口をぐっと引き結ぶと、それをどう解釈したのか、澪が勝ち誇ったように笑顔を浮かべる。

「ほう、どうやら言い訳のネタが尽きたようだな。やはり私の方が正当性が高いという事か・・・私の勝ちだな!」

 クククッと澪は細く笑った。

「何でそうなるんだよ!ジャンケンもしてねぇんだぞ!勝手に勝敗をきめんな!!」

 なぜジャンケンが出てくるのかは不明だが、額に青筋を浮かべながら隼人が講義をする。が、それも一瞬で切り捨てられた。

「黙れ、私がルールだ!」

「キーッ!!あぁもういい、時間がもったいない!」

 隼人は頭を掻き毟りながら、そう言い残してさっさと教室を出て行った。

 隼人を見送った澪が、一言

「食えん男だ」

 と周りに聞こえない程度の声で呟くと、クルッと厚樹たちの方を向き、何事も無かったように再び挨拶の言葉を投げかける。

「やぁ諸君、まったかね?」



 結局話をするのは学校ではまずいだろうという事で、一度解散し、町で再び合流する事になった。

 待ち合わせ場所は昨日の事件のあった通りに決まった。

 正直あそこにはあまり近寄りたくなかったが、人目につかない場所ということでしぶしぶ了承した。

 朝美は寮の自室に戻ると、青地でジーンズ生地のロングスカートと薄い水色で薄手の半そでブラウスを取り出し、素早く着替える。

 戸口に向かう途中、白い小さめのポシェットを拾い肩に掛けると、そのまま戸口を出て待ち合わせの場所に向かった。



 通りに着くと、すでに制服姿のままの澪が、通りの壁に背を預けて待っていた。

 どうやら厚樹はまだ来ていないらしい。

「水薙君、お待たせ」

 声を掛けると、澪はこちらに気がついて顔をこちらに向けた。

「来たか、厚樹はまだ来ていないがそのうち来るだろう。先に話を始めようかね。」

 そう言って澪は、少し考え込む素振りを見せてから話始めた。

「まずは・・・神道君はどこまで異血者について知っているのかね?」

 そう言われて朝美は少し考える。

「ん〜、不思議な力があって、人から疎まれてる。くらいかなぁ・・・」

 ふむ、っと澪は一度頷くと、

「どうやらほとんど何も知らないようだな。まぁ無理も無いが・・・」

 そう無理もないのである。

 実際異血者は自分が異血者と分かると、その正体を隠してしまう。そのため他の異血者と関係を持つこと無く、何も知らないまま生涯を終えることが多い。

 朝美とて昨日の出来事が無ければ、こうして澪から話を聞く事も無かっただろう。

「異血者とは名前の通り、その血に異なるものが流れる者という意味だ。それは特殊な血であったり、魔物であったりとさまざまだ。」

 そういって澪は、おもむろに鞄からペットボトルを取り出した。

 右手で取り出したそれの中身を左手にたらす。

 ペットボトルからこぼれたのは水、しかしそれは左手を濡らすことは無かった。

 澪の左手の上には水が球体となって浮かんでいた。

「私の場合は特殊な血のほうだな、簡単に説明するとこのように水を操作する能力がある。」

 そう説明すると、今度は水球がペットボトルの中へと戻っていった。

「私のも血の方なのかな?」

 朝美が自分の胸に手を当てて問うと、澪は難しい表情をした。

「残念だがそれは分からん、血に住まう魔物は休眠している場合が多くてね、今は魔物の気配が無くても後に出てくる場合もある。私の場合は一族が全員そうだからまず間違いないだろうが、まぁ今は君の異血に関しては置いておくとしよう。」

 と話を一度区切ると、澪は少し表情を引き締める。

 朝美は息を呑んで姿勢を正す。

「さて、それで本題のフギンクロスについてだが、すでに承知の事実だが異血者は迫害されている。そして当然として異血者の中には協力し合うものが現われ、いくつもの組織じみたものが作られた。そしてその三大勢力といわれるものが、ゾディアックナイツ、付喪(つくも)、そしてフギンクロスだ。」

「三大勢力・・・」

 朝美はオウム返しに繰り返した。

 自分の口で言うと、改めて自分がとんでもないものに目をつけられたと、実感が湧いて不安がよぎる。

「フギンクロスは特に大所帯の組織として有名だ。構成はトップにフギン、その下に大天使(アークエンジェル)と呼ばれる4人の幹部、更にその下に各幹部が率いる直属の部隊があり、あとには下級異血者と一般人の構成員が存在する。昨日の奴は一般人の構成員だな。おおかた神道君の能力が殺傷能力の無いものだから、それで十分と思っていたのだろうな。」

 そう言うと澪は一人納得したようにうんうんと頷いた。

 しかし朝美はそれを聞いて一つ疑問を持った。

「何で異血者の組織に一般人が?」

「ふむ、いい質問だ。それはフギンクロスの掲げる理念にある。フギンの理念は共存、つまり異血者と人との共同生活だ。ゆえに一般人が混ざっている。」

「じゃぁフギンクロスって案外いい組織なの?」

 朝美がそう聞くと澪は首を横に振る。

「一概にはそうとも言えん。共存を歌う一方で、逆に反旗を翻す者には異血者一般人区別無く徹底的な武力でもって排除するのがフギンクロスだ」

 排除、つまりは皆殺しということだ。

 それを聞いて朝美は思わずぞっとした。

 少しの間沈黙が続く。

 すると朝美の後ろからのんびりとした声が聞こえた。

「おまたせ〜、待った?」

 澪と朝美が声の方に振り向くと、そこにはいつものごとくにこやかな笑みを浮かべた厚樹が、こちらに向かってゆっくり歩いてくるところだった。

「遅かったな、なにあったの・・・」

 か、と続けようとしたところで、澪は厚樹の後ろに誰かが付いてきている事に気が付いて、眉を寄せる。

「厚樹、その後ろのは?」

 澪が問いかけると、厚樹は照れたようにヘヘヘ〜っと笑みをいっそう深める。

 そしてまるで犬か猫のように、

「拾っちゃった」

 そう言って厚樹が横にどくと、そこにいたのは黒のハーフパンツに白の半袖Tシャツ、その上に深緑の半袖ジャケットを着込んだ小学生くらいの少年だった。髪は黒の少し前髪が長いショートヘアで、美少年と言っても過言ではない整った顔つきをしていた。

 そして少年は憮然とした態度で言い放った。

「拾ってもらった、(あきら)だ、よろしくな!」

 朝美はその光景を見て呆然としていた。

 隣では澪が右手を顔に当てて、ため息と共に呟いた。

「また拾ってきたのか・・・」

「ま、また?」

 朝美は思わず声を漏らした。

 そして澪は渋い顔をして答えた。

「厚樹は落ちているものは何でも拾う性質でね、前に猫を拾ってきたときに、拾った生き物はどうするものかと尋ねてきたので、つい責任をもって飼うものだと言ったら、それからというもの拾った猫を次々と持ってきてね、おかげで我が家には猫が5匹いる。寮生活になってからは拾ってこなかったが、まさか今度は人の子を拾ってこようとは・・・」

 その話を聞いて朝美はぎょっとした。その話が真実なら厚樹はまさに、あの少年を『飼う』つもりでいるという事だ。

 ここは人として止めなければと思うと、既に言葉が出ていた。

「ちょ、ちょっとまって!いくらなんでも人の子なんだから、交番にいって迷子として預けるべきじゃ!」

 しかし朝美の説得も厚樹にはどこまで通じているのか、

「え?でも迷子じゃないらしいし、ちゃんとダンボールに入ってたよ?」

 それを聞いて朝美は一つの可能性に行き着いて、愕然とした。

(ま、まさかホームレス!?)

 本人の目の前という事もあって口には出さなかったが、一度思いついてしまうとそれ以外には考えられなかった。

 何とか考え直してくれるように説得を試みる。

「でもやっぱり警察とかに保護してもらった方が・・・」

 しかし今度は、事の当事者からの返答が帰ってきた。

「大丈夫、俺も拾われることを了承した。」

「で、でも・・・」

 と、なおも食い下がろうとした朝美の肩に澪がポンッと手をのせる。

「諦めろ、あれで厚樹は意外と頑固だ。説得が通じるくらいなら、我が家に猫が5匹もいる事態にはならんよ」

 ガクッと顔を伏せた朝美だったが、すぐにまた顔を上げた。

「でも、ほら!山城君寮生なんだよ!?」

 それは厚樹も考慮の内だったらしく、そうなんだよね〜と呟くと澪に視線を送る。

「澪、お願い」

 そう言ってやんわりと厚樹が微笑むと、厚樹にあまい澪の反応は即答だった。

「厚樹の頼みとあっては仕方ないな、任せたまえ!」

 おもむろに懐から携帯を取り出すと、澪は早速電話を掛け始める。

「あぁ、川原君、すまないが頼みがあってね」

 そう言って澪は誰かに何事かを頼んでいる様子だった。

 そして最後に、電話に向かって眼鏡の奥の瞳をキラリと光らせてサラッと一言。

「問題ない、首を立てに振らなければアレが全校中に知れ渡るぞ、と水薙澪が言っていたと言ってやれ、うむ、頼んだぞ」

 そう言って電話を切ると澪はまぶしいほどの笑顔を厚樹に向ける。

「話は通しておいた、問題ないぞ」

 もうだめだ、朝美はそう深く感じさせられた。

 この二人を朝美一人でとめられるはずも無く、かくして昶の寮生活が確定した。

「それじゃぁ僕は色々と買う物があるから、今日は失礼するよ〜」

「そういうことだ、厚樹は借りてくぜ!」

 厚樹に続いて昶がそう言うと二人は歩き出した。

 しかし澪は少し眉間にしわを寄せながら、

「くっ、早速厚樹を呼び捨てとは生意気なガキだ・・・上の名は何というのだ」

 ため息混じりにそう問うと、昶はこちらをちらと見ながら、

竜門寺(りゅうもんじ)だ。機会があったら兄ちゃんの名前も聞いてやるよ!じゃぁな〜」

そっちの姉ちゃんもな、と付け加えて二人は去っていった。

「なんだかんだで結構かわいい子だったね」

 一度諦めてしまえばあとはなるようになれ、とそう思って朝美が話かけると、そこで澪が何か考え込んでいるのに気が付いた。

「どうかしたの?」

 不審に思って朝美が問いかけると、澪がゆっくりと口を開いた。

「竜門寺、たしか今朝のニュースでやっていた放火された屋敷の家名だ・・・」

「えっ・・・・」

 思わず朝美は二人が去っていった通りを見るが、すでに二人の姿は無かった。

 朝美はひどく嫌な予感がした。

 そしてその予感は見事に当たる事となる。


さぁいよいよ第二章のスタートです。

今回は新たな主要人物を加え、異血者を取り巻く世界情勢を書いた感じになっています。

では次は第二章後編(ひょっとしたら中編になるかも・・・)でお会いできることを。

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