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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
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特訓

 百年前の魔王、フォールと遭遇した翌朝。俺は魔族の部隊の人たちとともにリュートさんのもとで訓練を受けていた。

 訓練の内容は乱捕り。十人の兵士が襲い掛かってくるので倒されず全員を倒す。もしくは三十分逃げ切れば勝ち。だが三十分も逃げることは不可能なので倒そうと試みるのだが…


「そこまで」


 さすがはリュートさんが教えている部隊なだけあって戦術の組み立てや攻撃の方法などかなり高度に訓練されていて三人までならともかく十人ともなるとさすがにうまくいかない。


「三人をあしらえること自体驚きなのだがな」

「ありがとうございます…でもこれじゃダメなんです」

「そうか…では、相手をしよう」


 そう言ってリュートさんは剣を取り、それを抜いた。あれはリュートさんに与えられた魔族に伝わる剣『狂穿』のはずだ。グングニルをどではないが破壊特化した剣。

 俺は自分の頬を叩いて気合を入れ、エクスカリバーを抜き、リュートさんに斬りかかる。

 あの時、フォールに言われたことを思い出しながら。



 フォールは俺の部屋で優雅に紅茶を飲んでおり、俺とべリアちゃんは警戒しつつベッドの上に座っている。

 何がしたいんだろう…俺は敵のはずなのに。さっさと殺せばいいのに。


「そう睨まないでよ。ぼくは今あんまり派手に動きたくないんだよね」

「どうして」

「どうしても何も、ぼくが動けば創造主であるトーギがぼくの存在に気づくだろう?そうなれば今のぼくじゃ相手にならないだろうからね。できるだけ力を使いたくないんだよ」

「でも、お前のせいで!」

「違うよ?」


 フォールはそう言って腕から黒い塊らしきものを出して見せた。それはどんどんと形を変え、中から宝石のようなものが出てきた。宝石は黒く、闇のようなものが渦巻いている。


「これは核闇。これを受け継いだものが魔王になる。だからぼくは魔王という職業に就いただけで本質的な『魔王』というのならこれだよ」

「それを壊せば魔王は消えるの?」

「別に壊しても構わないが、不可能だよ」

「どうして」

「今は固形だけどこれは何にでもなれる。気体にだって液体にだってね」


 そういうと核闇は空中に霧散した。そのまま空気に溶けた核闇を見て俺が反射的に口を押えるとフォールはケラケラと笑って「君たちの体に入ることはないよ」と言った。

 でも安心はできないよな。


「さてと事情も分かったし、そろそろ君がすべきことを教えてあげようか」

「え?」

「なに?教えてほしくない?じゃぁこのままいなくなるけど」


 そう言って窓から出て行こうとするフォールを呼び止める。

 話は聞いておかなくちゃね。フォールは百年前の勇也と闘っているわけだし。相手のことは知っておかないと。


「君がトーギに勝つ条件はただ一つ。ぼくと同じ魔法を使えるようになること」

「魔法?」

「そう。魔王の闇のように勇者の光のみが持つ魔法をね」


 光だけが使える魔法…それはさっきの暗い空間のような特異魔法のことなのだろう。俺にも使えるのだろうか。あんなすごい魔法が。


「こればかりはぼくが教えるわけにはいかないからね。せいぜい頑張ってくれよ」

「…言っておくけど、浅守を倒しても俺はフォールに負けるつもりはないから」


 俺の反応を見てフォールは嬉しそうに、心底嬉しそうに笑って窓から身を乗り出した。そして指をパチンと鳴らし暗闇に消えた。

 あ、嵐のような人だった…


「ユウヤ…」

「…やるべきことは分かったんだ」


 俺はふぅ…とため息をつき、エクスカリバーとデュランダルを取り出した。この二つの伝説で伝説になった存在を斬らなければいけない。

 そういえば、なんで斬らなくちゃいけないんだっけ。


「べリアちゃん。できるだけ教えてくれない?このデュランダルのこと。まだ何か隠してるよね」

「…そんなこと…」

「ごめん。ここで退くことはできないんだ。教えて」


 渋るべリアちゃんを説得しデュランダルのもう一つの使い方を聞き出した。



 ゴメン。

 聞いた後にできるだけしないでほしいとべリアちゃんに言われたのだが、リュートさんと闘う以上手を抜くことはできない。手を抜けば多分、死ぬ。

 俺はデュランダルを振り上げ、


 自分の胸に突き刺した。


「お、お前!?」


 リュートさんが驚きの声を上げる。しかし俺は痛みなど感じず、むしろ自分の体が強化されているのが分かる。デュランダルのように鋭く、強く、残酷になっていく。

 これがデュランダルのもう一つの能力『英雄進化』。デュランダルの能力を自分の体に宿す能力。ただしこれはデュランダルとの相性が良くないと成功せず、失敗したら普通に体を貫かれて死ぬ。


 俺はそのままエクスカリバーをもって斬りかかる。


 リュートさんの後ろにいるフォールに。


「フォォォォォォォルゥゥゥゥゥ!」

「あはっ」


 フォールは嬉しそうに笑い、俺の一撃を両手で受け止めた。しかし刃はしっかりと切込みを入れており両手から血が出ている。


「驚いた!まさかこんなに早くデュランダルを取り込むとはね!驚きだよ!」

「それじゃ驚いたまま死んで!」

「それはできないなぁ…!」


 フォールは後ろに跳び、その両手に真っ黒な剣を二つ出した。


「双剣黒々!」


 闇のようなその剣を振りかざし、フォールは突進してきた。俺はそれをエクスカリバーで受け止め、黒々は霧散する。


「忘れた?エクスカリバーの特性は、魔を滅ぼすことだよ!」

「知ってる」


 俺はフォールの余裕の笑みに危険を感じ、とっさに後ろに跳んだ。そしてさっきまで俺がいたところには無数の黒い剣が刺さっていた。


「黒々剣術、死斬」


 俺の頬に汗が流れる。

 これは…さすがに無鉄砲すぎた?


「まったく…!」


 俺の後ろから剣が二本飛んできてフォールに突き刺さった。振り返るとリュートさんが新しい剣を構えている。


「全員退避。これから全力で戦う」


 リュートさんは俺の隣に並び、兵士は全員遠くに避難する。


「ふ、ふはは…あははははは!」

「どうした?壊れたか?」

「いやいや今のは凄かった見えなかった面白い!いいねいいねもっと闘おう死合おう殺しあおう斬りあおう!全身全霊全力全開一切の容赦なく残酷に、惨殺しようじゃないか!」


 心底楽しそうに笑うフォールに俺たちは目くばせをしたわけでもなく、同時に斬りかかった。

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