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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
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罪人

 大会場をセットした使用人の数が多すぎて特定はできなかった。俺はディスベルさんの部屋で今回のことについて二人で話し合うことにした。べリアちゃんを一人にしておくことは心配なので悠子にみてもらっている。リュートさんには伝えなかった。

 ホトさんたちとあんなに楽しそうに話してたからな…


「だが、本当に内部に裏切り者が?」

「ありえない話ではないです」

「しかしジューダスの臣下は全員チェックしているし、この城も身体検査をしっかりしている。もちろん今回もしたぞ?ジューダスにもな」

「それは知っています。もちろんジューダスさんもそれを承知しているはずです。だから、おそらく別の何かが動いています」

「…なるほど」


 ディスベルさんはため息をついた。自分の命を狙っているのがジューダスさんだけではないと知って疲れが出てきたんだろう。

 それにしても今回の事件もかなり複雑になってきたね…これも試練ってやつなのかな。


「でも誰にもばれずに爆弾を設置するなんて…あっ」

「何か心当たりが!?」

「あるといえばあるが…確認するか」


 ディスベルさんが立ち上がり外に出る。俺も一緒についていく。


 ディスベルさんが向かったのは、巨大な扉の前。確かこの扉の先には地下牢である『ニヴルヘイム』がある。

 オリハルコン製の扉にミスリル銀製の鉄格子がある史上最堅の牢屋。今まで脱獄に成功したことはないらしく、一度入った者は二度と日の光を拝めない。


「ここの最下層にいる罪人を知ってるか?」

「確か…街一つを滅ぼした最強の魔族でしたね」

「あぁ。あまりの強さに殺すことができずやむおえずニヴルヘイムに封印された始めにして最古の罪人だ。ここはそいつのために造られたといっても過言じゃない」


 そんなに…と俺は絶句する。伝説の素材を惜しみなく使ったこの牢がまさか一人の罪人のためにできていたなんて…一体どんな人物なんだ。


「一応言うが、確認するだけだ。できるだけ扉にも近づくな」

「分かりました」


 尋常じゃない緊張が伝わってくる。地の底まで続いているのではないかという螺旋階段をおりて最下層の部屋を遠目から確認する。

 特に異常はないように見えるけど…


「…嘘だろ…!?」


 ディスベルさんが全力疾走する。俺もそのあとに続いて走って扉を確認する。やはり特に変わったところはないように思えるけど…


「ない!」

「何がですか?」

「封印が、ない!」


 ディスベルさんに言われて扉を見直してみると確かに封印してあった痕跡があった。

 跡があるってことは今はないってことで…でもこの格子を破ることはそう簡単にできることじゃないはずじゃ…


「アレはこの格子だけじゃダメなんだ!封印まで施してようやく…!クソ!」


 扉を開けて中を確認する。中は他と同じような造りで、唯一違うのは壁が血で染まっていたことだ。そして罪人の姿はない。


 ディスベルさんは大急ぎで地上に戻る。見張りに扉を閉めるように言って大急ぎで全員を集めた。


 三十分後、この城にいる全員を集め、城下町に住む住民全員に最下層の罪人が逃げたことが知らされた。



 脱獄について散々質問され、戻ったのは深夜だった。部屋ではべリアちゃんが心配そうに俺を見ている。俺はべリアちゃんの頭をなで、ベッドに寝転がった。


「トーギさん」

「なに?」

「大丈夫、だよね」

「もちろん」


 べリアちゃんは安心したように笑って目を閉じた。

 そうだ。安心させなくちゃいけないんだ。ギアトさんのためにも。そのためにはまずリュートさんに訓練をして……もう眠くなって……


 ………ここはどこだろう。俺は星空のような空間に浮いていた。その空間にはいくつもの光があってその光は絶えず動いていた。

 …どこだろう。


「ようこそ。君とぼくの場所へ」

「!?」


 声が聞こえたことにより完全に覚醒した俺は戦闘状態に入る。目の前には男の子が立っている。多分この子が俺をこの空間に呼んだんだろう。魔法も剣も使えないようだが体術だけで乗り越えられるように訓練してもらった。そう簡単にやられはしない。


「いい反応だね」

「…誰だ」

「誰だと思う?」


 分かるものか。


「ま、ネタバレするとぼくこそが最初の罪人。ナイト=フォールだよ」

「―ッ!」


 俺はフォールに殴りかかった。この無重力空間になれるために少しずつ体を動かしていたから体は慣れ始めていた。


「おっと」


 しかしフォールはそれを少し体を横に動かして避け「凄いね~」と笑っている。俺は焦りを覚えつつも対処するために対抗策を考える。


「落ち着きなよ。ぼくは君と争うつもりはない」

「…信用できるとでも?」

「できないのなら、大変なことになるよ?」


 パチンとフォールが指を鳴らすと俺の体が裂けた。右肩から腹にかけて体が裂け、尋常じゃない痛みが俺を襲う。

 あ、あぁぁぁ!あぁぁぁぁぁああぁあ!落ち着け落ち着け落ち着け!違う違うこれは違う!冷静になれこの空間は違う!

 薄れゆく意識を必死に保ち、俺は自分の左手を思いっきり噛んだ。

 やっぱり…血は出てない!


「な、め、る、なぁぁぁぁ!」

「うわ!?」


 空間が破裂し光が俺の視界を覆った。



 俺は目覚めて飛び起きる。息を荒くしたまま体を確認する。

 大丈夫。異常はない。

 となりではべリアちゃんが心配そうに俺を見ていた。


「大丈夫!?すごいうなされてたよ!?」

「…大丈夫…それより「ぼくをお探しかな?」


 俺の言葉にかぶせるように言葉が降ってきた。俺は反射的にエクスカリバーを天井に突き立てる。

 外れた!

 天井から降りたフォールは俺たちを嬉しそうに見る。


「夢の中からこんばんは。どこにでもいてどこにもいない最古の罪人、ナイト=フォールでございます」

「べリアちゃん!後ろに!」


 べリアちゃんを後ろに隠しフォールと向き合う。フォールは飄々とした様子でこちらを楽しそうに見ている。

 助けは…


「助けはこないよ。つか呼ばせない」


 パチンと指を鳴らし、俺たちを黒い空間に引きずり込む。

 またあの空間か…!俺は大丈夫だけどべリアちゃんは…!


「そんなに睨まないでよ~君たちが何もしなければ何もしないから」

「…分かった」


 今はフォールの言う事を信じるしかない。俺が戦闘態勢を解くとフォールは満足そうにうなずいて俺たちの前に立った。


「それじゃ、話そうか」

「…何の用?」

「いやほら、百年も寝てたら世界が面白いことになってるからさ。現状の確認をね」


 百年…まさか、フォールって百年前の世界の住人!?


「ねぇ、教えてよ。この世界はどうなってるの?」


 子供のような無邪気な笑顔でフォールが聞いてくる。俺は少し悩んで、フォールの質問に答えた。


「へぇ、なるほど」


 フォールは楽しそうに笑う。


「いいね。いい感じに面白い」

「…君は、なんなの?百年前は何を…?」

「ん?あぁ、あれ。魔王。百年前に君たちに倒された魔王様だよ」


 フォールは当たり前のように、当たり前じゃない答えを返してきた。

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