恋心
到来機関に乗り込んで一週間、僕たちがすることは福音にいた時とほとんど変わらないものだった。僕やフェルはアーキアを発見するため資料を読み解き、土屋は他の女性とともに到来機関の子供の相手をしている。ここには親に売り飛ばされた人間の子供もいるので僕たちが混じっても特に目立つことはない。
だが、正直のこ革命は早めに終わらせないといけない。身寄りのない子供はどこにも行けず到来機関にとどまることになる。そして到来機関の資源は無限ではない。つまりこの革命を何とかして終わらせないといけない。
そのためのアーキアなのだろうが、どうもおかしい。アーキアなんて伝承の中にしか登場しない、今までどんな知識人にも見つからなかった古代技術を切り札として使おうとするのはどうも納得いかない。
「キトル」
「なんだい?」
「お前、何者だ?」
僕の質問にキトルは笑って「ただの革命家だよ」と流された。どうもキトルはは飄々としてつかみどころがない。
嘘をついているわけではないが、何か隠しているのは間違いない。
「それにしても…」
よくこんな情報を集められたものだ。とキトルから渡された資料を見て思う。キトルがまとめた資料はフォーラスが持ってきた資料にも載っていない情報が大量にあった。おかげでかなり選択肢が絞られたが。
救済と言われているアーキアはどうも乗り物らしい。しかも巨大な。電脳種が空にあがったのは八十年前だから百年前に造られたとすれば地上を行く平気なのだろう。
「少し休みなよ」
「…そうだな」
キトルに言われて僕たちは煮詰まった頭を冷やすため外に出ることにした。土屋の様子を見に行こうと子供たちが遊んでいる公園へと向かう。今日は下では乱気流が発生しているらしいが船から出ない限り被害に晒されることはないので飛行中だというのに子供たちは暢気なものだ。
公園には十数人ほどの子供がいて、楽しそうに走り回っている。
「あ、燈義くん」
子供の相手をしていた土屋が僕に気づいて駆け寄ってきた。
「どう?進展した?」
「どうだろうな。新しい推論を立てては却下しているからな。進んでいるのか停滞しているのか」
「大変そうだね…」
土屋が心配そうにこっちを見ている。僕は「そうでもない」と答えてベンチに座った。土屋とフェルが左右にそれぞれ座る。
「楽しそうだな」
「楽しいよ。元々子供好きだし」
土屋は嬉しそうに子供たちを見る。
「燈義くんは?子供好き?」
「どうだろうな。特に苦手意識はない」
土屋は僕の答えに嬉しそうに笑った。僕は何か話題を振ろうとして口を開けかけたその時、船内に警報が鳴り響いた。これは、敵襲か。
「ゴメン!子供たちを避難させなくちゃいけないから!」
「あぁ。僕も様子を見に行く」
「では後ほど」
僕は子供を誘導する女性たちの横を通り過ぎ甲板に出る。そこにはもうたくさんの戦闘要員が武装していた。目の前には、船。
「戦艦『時計』か」
コーホジークが持つ戦艦の中の一つで一番小さく、一番速い船だ。
「揃ってるね!」
ルーが出てきた。時計からは先ほどから警告音が鳴り響いている。投降しろと言う事なのだろう。
「どうする?」
「落とす」
「できるのか?」
「あっちのほうが速いからね。逃げきれないなら落とすさ」
成程。戦うしかなさそうだ。
到来は徐々に速度を落とし時計に合わせる。時計は速さ重視で外装はこっちのほうが上だ。真正面から戦えば勝てるだろう。
だが落とすのはもったいない。
「ルー、あの船を奪ったとして、運転できるか?」
「へ?」
「できるか?」
僕の質問にルーは首を縦に振った。よしそれならいい。遠慮なく占拠させてもらおう。
「全員、戦闘用意!」
ルーの掛け声で戦闘要員全員が武装する。僕も魔導書を出して戦闘準備に入る。
そして、船が真横に並んだ瞬間先手を取るために全員で時計に乗り込んだ。
「死ねぇ!」
「お前がな」
船に乗った瞬間に斬りかかってきた電脳種を船外に落とし僕はフェルとともに戦闘が一番多い場所へ行く。このままでは面倒な戦いは避けられない。
だが面倒なので一網打尽にしてしまおう。
「フェル、後ろに何人いる?」
「五人です」
前には誰もない。僕たちは適当な場所に隠れる。もちろんこのままここで過ごせると思うほど楽観視していない。
僕は魔法が発動するのを待ち、ルーズマジックを使って発動を遅らせる。まだ発動させるわけにはいかない。ここには一応助けなければ後々文句言われるかもしれない。
「どうだ?」
「いけそうです」
どうやら戦闘が劣勢になり到来に避難しようとしているらしい。それもそうだろう。元奴隷たちでは戦闘に限界がある。
だからそろそろ僕の出番だろう。
「フェル」
「はい」
到来に乗り移ろうとしている時計の傭兵の目の前が壊れた。驚いてこちらを見る傭兵は僕たちの姿を捕え何人かが殺しにかかってくる。しかし僕はその前にルーズマジックの効果が切れ、魔法が発動する。転送魔法がいくつもの転送魔法が組み合わさった大規模連続転送魔法が。
「さすがにこれだけの転送魔法が合わさると疲れるな」
「大丈夫ですか?」
「体力的には限界だが…」
後はあいつらに任せよう。下へ落ちていく電脳種の叫び声を聞きつつ僕はゆっくりと到来へと戻る。飛んであがってくることを懸念したが船の下は乱気流。多分、全員落ちて死んだな。
「ルー、これで乗っ取れるだろ」
「…君たち、何者?」
「キトルに聞け」
ルーは少し考えたがとにかく目の前の敵を倒そうと戦闘要員とともに時計に乗り込んでいく。
しかし、当たり前だが全員が落ちたわけではない。
「危ない!」
誰かが叫び、僕がそちらを見てみると傭兵の一人がルーに斬りかかっていた。奇襲だったようでルーは何も反応できないでいる。
しかし、傭兵の攻撃は当たることなく横からの衝撃で船外へと落ちて行った。
「大丈夫!?」
「キトル!」
「よかった…無事だね?」
キトルが驚いているルーに傷がないことを確認して安堵する。そんなキトルを見てルーは顔を赤くしていた。
あぁ。成程。
「好きなのか?」
キトルがいなくなってからルーに話しかける。ルーは顔を真っ赤にしたまま慌てている。分かりやすいな。
「と、というか!トーギに言われたくないよ!?」
「は?」
ルーの言葉に僕は困惑する。
何言ってんだこいつ。
「だってトーギ、ミツキのこと好きなんだろ?」
「…は?違うぞ」
僕の言葉にルーが驚いている。僕はため息をつき立ち去ろうと後ろを向くとフェルが呆れた顔をしていた。
こいつ表情豊かになったな。というかなんだその顔は。
「トーギさん。自分の気持ちに気づいておられませんか?」
「は?」
「「はぁ…」」
ため息が二重になった。
…は?