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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
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移乗

 僕たちは街中を駆け回る。土屋が何か文句を言っているが無視して走る。

 止まったら死ぬかもな。

 警察組織の長を出すために逃げているわけだが、予想外の者が釣れてしまった。


「オォォォォォ!」

「ちっ」


 家々の屋根の上を走ってくる巨大な犬のような機械の獣を見つつ舌打ちをし走る。

 いくらなんでも大きすぎるだろ。このままじゃ捕まるな…いや、捕まるのならまだしもその場で殺される可能性も充分にある。


「どうするの!?」

「これ以上犯罪は犯したくないが…仕方がない」

「やりますか」

「やっちゃダメだよ!?」


 戦闘に入ろうとした僕たちを土屋が制する。

 …確かに相手の実力が分からない以上戦いは避けたほうがいいかもしれない。だがこのままでは捕まるのはおそらく時間の問題。何か逆転できる手は…


「やりましょうか」

「だな」

「フェルちゃん!確かに自分の意見を言ってとは言ったけど今は遠慮してほしかった!」


 そうこうしているうちにドシンと僕たちの前にあの獣が降り立った。しまった。追いつめられてしまった。

 獣は僕たちを機械的な目で見つめ、肩のあたりから銃らしきものを出した。どこの近未来映画だ。


「さて、これで戦う以外なくなったな」

「みたいですね」

「うぅ…なんでこんなことに…」


 獣が僕たちに向かって銃を撃つ準備をし僕が魔法を発動させようとしたその時、船全体が揺れた。何事かと原因となった右方向を見てみると煙が上がっている。

 事故…いや、敵か?どちらにせよただ事じゃない。

 僕がそう思っていると獣は僕たちから目を離し一目散に煙が上がっているほうに走っていった。


「な、なんだろう…」

「行ってみるか」


 僕たちも煙の上がっているほうに向かって走る。


 煙が上がっている地点にはもう何人かが戦闘をしていた。乗り込んでくる敵を防ごうと隊列を組んで防御に徹している。敵の船はすぐ目の前にあり、そこには大きく『到来』と書かれてあった。

 あれが到来機関か。なんか他種族が多いな。


「加勢する!?」

「下手に入り込むとこっちまで攻撃されそうだからな。フォーラスが到着するまで待つほうがいい」


 僕たちは物陰に隠れて経過を見守ることにした。戦闘は激化していき双方かなりの被害が出ている。そろそろ僕たちが隠れているところも戦闘に巻き込まれそうになったというとき、僕たちの前に誰かが躍り出てきた。


「君たち!奴隷か!?」

「…誰だ」


 飛び出してきたのは銃を持った獣人族の女性だった。女性は僕たちを見るなりどこかに連絡をする。


「付いてきな!」

「えっ?あなたは?」

「到来機関だよ!目的は奴隷解放!どうだい!?」

「よし、行こう」


 即答した僕に驚く土屋を無視して僕たちは女性についていく。激戦の中をくぐり僕たちは到来機関に乗り込んだ。到来機関の中には既にたくさんの他種族、おそらく奴隷がいて船はすぐに福音を離れた。


「何人やられた!?」

「三割だ。でもあの船の物資と奴隷はあらかた乗せられた」

「…そうか」


 遠くで話していた男性がこっちを向く。あの男性は電脳種のようだ。


「急に乗り込んでもらってすまない。我らは到来機関。義賊だ」


 義賊…なるほど。奴隷制度に反対する奴が徒党を組んだのが到来機関か。フォーラスの奴情報を捻じ曲げやがったな。

 男性は奴隷を元の土地に戻すこと、もしくは新天地に送ること。もしくはこの船に残る場合には戦闘に参加してもらうことを約束し、約束してもらった。そのあとで僕たちはそれぞれの部屋に案内される。

 部屋は急ごしらえでそろえたような場所であの福音を家とは天と地ほどの差があるが到来機関に潜り込めたので良しとしよう。


「それで、これからどうするの?」

「しばらくこの船に乗る。いろいろと調べなくちゃな」


 例えばこの到来機関ができた理由。主に金銭面の援助を誰がしているのか、とか。さすがにこれだけの人数を養うには自給自足だけでは足りないだろう。だとすれば何かしらの財源があるはずだ。


「誰かきます」


 フェルの言葉通りすぐに部屋のドアがノックされた。そして入ってきたのはあの僕たちを連れてきた女性だった。

 女性は僕たちのほうを見て安心したように息を吐いた。


「あんたらは大丈夫そうだね」

「あんたらはって、他は?」

「ひどいもんさ。もう死んだ奴もいる」


 早いな。どれだけ酷使したんだよ。

 死んだという言葉に土屋が小さく息をのむ。


「アタシはルー。ルー=ヒュー」

「浅守燈義」

「土屋美月です」

「フェルです」

「トーギにミツキにフェルか。よろしく」


 ルーは僕たちに挨拶をして部屋から出て行った。僕たちも散策のため外に出る。

 外は所々荒れているもののそれなりの生活感があった。老人の何人かが畑仕事に従事している。子供もけが人の手当てをしているのか忙しそうに走り回っている。


「やぁ」


 後ろから声をかけられ僕たちが振り向くと、あの指示を出していた男性がいた。どことなく凪川と同じ雰囲気を漂わせる青年だ。


「僕は到来機関の機関長。キトル=キトリっていうんだ。君たちのことはルーから聞いているよ」


 キトルが前に手を出す。僕はキトルの手を握り握手をした。キトルは「場所を変えよう」と言って僕たちを連れてある家に入っていく。そこはキトルの家のようで、いくつもの資料が几帳面に並んでいる。


「それで、君たちは何者だい?」

「奴隷ではないな」

「素直に認めてくれてうれしいよ。ッ―」


 そう言ってキトルは背中から抜いた槍で僕の胸を突こうとする。しかし槍はフェルの力で折れ、僕はウィンドボールでキトルの顎を撃つ。キトルは後ろに倒れかけるが何とか持ちこたえた。


「不意打ちは無理、か」

「そうだ。で、お前は僕たちを殺したいのか?だったら僕たちはお前を殺すが?」


 いきなりのことで動けなかったらしい土屋も正気に戻り、素早く僕とフェルの後ろに隠れスキルを発動させる。しかしキトルは折れた槍を捨て両手を上げた。


「降参」

「力を計ったつもりか?」

「いや、本気で殺すつもりだったよ。でも僕じゃ君たちを殺せそうにない」

「だったらどうする?」

「味方になってもらう」


 能天気野郎。と罵りつつ僕はキトルの話を聞くことにした。キトルは僕たちを部屋の一番奥に招き入れ、そこに僕たちを座らせる。


「それで、僕たちをどう仲間にするつもりなんだ?」

「君たちにとって有益な情報を与える」

「ほう?有益?」

「あぁ。有益さ」


 キトルはそう言って一冊のファイルを取り出した。


「電脳種に伝わる最強のアーキア。救済のヒントさ。どう?」


 そう言って渡されたファイルを見て、僕は首を縦に振った。

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