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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
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古代

 コーホジークの一部である船『福音』に乗り込み三日。部屋で古代技術に関しての資料を読みつつ僕は土屋が淹れた紅茶を飲む。

 しかし本当に面倒だな。神話に登場する武器なのか魔法なのかそれとも魔物なのか様々な推論がありすぎて特定できないな。神話の武器の中で考えられるものとしては不敗の剣『クラウ・ソラス』、不戦の神剣『タンキエム』、反逆殺しの槍『ロン』、天落の弓『ヌディ・ムバ』など。それらに共通するのは戦争に対する勝利のみ。


「どう?分かりそう?」

「選択肢が多すぎて困る。ここは神と交信してないから神話の特定ができない」


 せめて神々が使っている武器ならば特定は容易いだろうが造ったのはリマスターと呼ばれる始まりの電脳種。神かどうかも分からない存在だ。


「トーギさん」

「どうした?」

「これを見てください」


 同じく資料に埋もれていたフェルが僕にある資料を見せる。その資料には古代の電脳種が記した魔法事典だった。僕はそれを手に取りフェルの言ったページを読む。

 …これは…


「どうやらリマスターには弟子がいたそうです。その弟子たちが開発した魔法が『リライト』」

「存在回帰の魔法…狭間に漂う魂の回収か」


 要するに蘇生魔法だ。別に蘇生魔法自体の理論は珍しいわけじゃない。この世界の人々だって死は恐れる。

 だから、問題なのはこの魔法が狭間から魂を呼び戻そうとしていることだ。

 確かにこの世界で死ねば魂はあの世とこの世の境で停滞していると創造主が言っていた。でもその境はどうやっても確認でいない。


 じゃぁ、どうやってこいつらはこの境を確認したんだ?そんなもの決まっている。

あの創造主が関わったに違いない。


「創造主が関わってるってことは僕が知っているもののはずだが…僕のことだ。どこかに答えを隠しているのだろうけど」


 改めて自分の性格を考えてみてもどこに隠そうとしているかなど考え付かない。まぁ創造主は僕とは違うしな。隠し場所を考えるだけ無駄か。

 ただ、僕の性格としては灯台下暗し。答えは最初から提示されているのに気が付かせない場合が多いな。例えばこの世界の名前の時とか。


「この資料は役に立ちませんか」

「そうだな。一通り目を通したし返却してもらおう」


 夕方にはフォーラスが来る。資料は数百冊にのぼりさすがにじっくり見ていたら三日ほどかかってしまったが全部覚えられた。できればもう一度読んでみたいが時間があるかどうかも分からないので今はやめておくことにした。


 僕たちは外に出る。三日ぶりの外の空気を吸い僕は大きく背伸びをした。天気は晴れ。福音は針路を西に向けて航行しており、あと三日ほどでコーホジークの一部の船たちが集まりコーホジークという国となる『合国』と呼ばれる行事が行われるらしい。敵が狙ってくるとしたらまず間違いなくそのタイミングだろうが電脳種の船長たちは「そんなに早くアーキアが見つかるはずがない」と思っているらしい。


「これからどうする?」

「そうだな…船の様子でも見ておくか」


 家にこもってばかりで船の様子を見ていなかった僕たちは船の中を見に行くことにした。大通りを歩き出ている店を見る。

 日用品の店しかないな。もともと電脳種は船の上で生活しているから貿易以外で他種族と関わることはあんまりないみたいだ。現にこの船に乗っているのはほとんどが電脳種。雑用係として多少他種族が乗っているくらいだ。


「これ一つ下さーい」

「はいよ」


 さっそく土屋が日常品を買っていた。家の生活のことは土屋に任せてあるので日用品の買い出しは僕たちは何も言わない。僕は一人暮らしだったから生活はできるけれど土屋に任せておけるのならそうしておいた。

 土屋は生活スキル高いし。


「洗剤が半額だったよ!」

「そうか」


 なんだか主婦みたいだった。

 福音の街並みはテレビでよく見る村々のようなのどかなものだ。田畑もあり大通りには店もある。基本自給自足しているし、田舎暮らしというのはこんなものなのだろう。


「あ、ごめんなさい」


 人ごみの中土屋が誰かにぶつかっていた。ぶつかった相手をみて土屋は面倒そうな顔をして僕の後ろに隠れた。土屋の反応をみて僕も相手を見る。

 いかにもガラの悪い女性だった。


「へぇ…」


 僕は小さく呟く。

 反社会精神かどうかは知らないがこの女性の格好はよく見るヤンキーとかそういうのだった。しかもあからさまに不機嫌そうな顔をしている。

 今までフォーラスと動物型の電脳種しか見たことなかったから分からなかったけど電脳種にも感情と言うものがあるらしい。本当に意外だ。


「ちょっと~ぶつかっておいて謝るだけ?おかしくない?」

「大丈夫だ。お前の存在よりはおかしくない」


 とはいえ電脳種でも絡んでくるのは同じようだ。

 僕は見下したように言って女をあおる。女はいきなり頭に来たのか指を変形させて僕のほうに向けてくる。これはあれか。よく映画とかである指が銃に変形するあれか。

 ただ素直にくらってやるわけがない。

 僕は素早く魔導書と土屋が買った紙を取りだしウィンドスピアの要領で紙を圧縮して発射し、女の腕を切り落とす。痛覚はないようだがいきなり腕が斬られた女は驚き後ろに下がる。その隙を見逃さず僕は女の腹を蹴り、倒れた女の顔面を踏む。

 あっけないものだな。


「フェル、どうだ?」

「周辺にいた仲間は倒しました」


 フェルの周りには倒れている電脳種がいる。人数は女と合わせて二人か。しかも両方女。


「それで、これはどうすれば―」

「動くな!」


 ドン!と上空から降りてきた電脳種たちに槍を向けられる。


「奴隷の分際で電脳種にはむかうとは、いい度胸だ」

「奴隷?あぁ…」


 成程。電脳種以外でこの船に乗っているやつは奴隷なのか。つまり僕たちは奴隷と間違えられているわけだ。

 さて、どうする。フォーラスを呼んでもらうのが一番だがここで暴れたらこいつらの長が出てきてくれるだろうか。


「…試してみるか」


 僕はフェルに目くばせをしてその場から離脱した。

 さぁ、鬼ごっこの始まりだ。

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