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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
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赤糸

 次期魔王候補であるディスベル=デクシーさんのある種驚きな登場をした後俺たちは近くの街で一泊することになった。そして俺たちは宿屋にチェックインした後夕食をとるために酒場へと赴いた。酒場は仕事終わりの労働者で賑わっており俺たちは人にもまれながらテーブルに着く。

 これだけうるさい場所で食事するのって久しぶりだな。今まで城の中か森の中か洞窟の中くらいだったから。


「酒。あと適当につまみ」

「俺はルービーフのステーキを」

「あたしはクスズキの塩焼き」

「ミックスサラダを」

「ビーハッピースープ。それとパン」


 それぞれ注文を終え話題は馬車で発したあの発言へとうつる。


「オレの友人に占い屋というやつがいるのだが、そいつのスキルは『ラブフェイト』と言って運命が見えるんだ」

「運命?」

「それほど大それたものじゃない。見えるのはその人の運命の相手。将来結婚するであろう相手だ」

「それが、あたし?」

「あぁ。お前」


 改めて言われるとかなりすごいことだよね。次期魔王候補の結婚候補っていうのは俺が予想した以上の事態なんだけど…最終的には悠子の気持ち次第だけど、こういう時どういう反応をすればいいんだろう。


「だとしてもお一人で来られるのは」

「仕方ないだろ。気になったんだから」

「だとしてもあなた様は武芸は得意ではないのですから…」

「え?そうなの?」


 魔王と言えば強大な魔力を行使して人間を苦しめるイメージがあったし、魔王が悪い人じゃないと分かった今でも強大な力はあると思っていたけれど…


「オレは剣を振るうより部隊を指揮するほうが得意なんだ」

「へぇー」


 なんか意外。でもまぁこの世界に俺たちの常識は通用しないし、今更か。


「それで、あたしと結婚したいの?」

「したい」


 真正面からまた言われてさすがの悠子も顔を赤くしていた。

 悠子が顔を赤くすること初めて見た。今まで笑い流したり冗談を言ってごまかしたりしてたけどここまで直球で言われるとさすがに照れるんだ。


「結婚ね…」

「ユーヤの世界ではそんなに珍しいこと?」

「高校生の結婚はね。まぁできないでもないんだけど」

「ふぅん。政略結婚なんてよくあることだけど」


 確かにこの世界ではそうかもしれない。べリアだってデュランダルの所持者と結婚することになっていたからそういう事にはなれているんだろう。

 というか、俺はべリアちゃんの婚約者なんだよね…ギアトさんが居なくなってべリアちゃんを守るって決めたけど婚約のほうも何とかしなくちゃね。


「ちなみにオレは政略結婚なんて考えてない。これは純粋な愛情だ」

「あ、あはは…そうなんや」


 おぉ悠子がたじろいてる。

 やがて食事が運ばれてきて俺たちはそれぞれ食事を始める。そして世間話などをしていると柄の悪そうな男が五人ほど俺たちを囲むように立っていた。

 なんだろう。なんとなく予想はつくけれど。


「おい、ここは俺たちの席なんだが?」

「いや、俺たちの席ですよ。他の席に行ってください」

「ほほぉ。そういう態度か」


 男の中の一人、リーダーらしき男が俺たちのテーブルを叩く。しかし俺たちは男の拳がテーブルを叩く前に自分の皿を上に持ち上げていて料理がこぼれることはなかった。しかしその行動が男たちを怒らせる。

 こういう事は初めてだけど…何とかなるかな。


「どうします?」

「任せた」


 俺に一任されてしまった。俺はため息をつきつつ近くにいた男の鳩尾を殴る。男はいきなりの攻撃に反応できず俺のパンチをくらいその場に倒れる。

 戦いの基本、むやみやたらに攻撃するのではなく相手の弱点を的確に突くべし。ギアトさんの教えだ。


「て、てめ!」


 男たちが一斉に殺気立つが俺は気にすることなく近くの男に殴りかかる。顔面を狙う俺のパンチに両腕でガードするが、俺はパンチを止めてすかさずがら空きになった腹を蹴る。

 勇者の身体強化能力で蹴ると結構痛いんだろうな。でも容赦はしないけど。


「魔法使ったら罰金ね」

「えぇ!?」

「一回使うごとに誰かの飯をおごる、で」

「ちょ!?悠子!?」


 まさかの味方から思わぬ攻撃が来た。しかも男たちは魔法を使おうとしている。


「こっちに攻撃が来たら全員分おごりな」

「ディスベルさんまで!?」


 素手で魔法をやりあうのは結構きついよ!?エクスカリバーとかデュランダルとか使ったらこの人たち死んじゃいそうだし!

 そんなことを思っている間にも男たちはファイアボールやウィンドボールをこっちに向かって発射してきた。俺はとっさに椅子をもってぶつけ防ぐものの防ぎきれるはずもなくとっさに右腕で受け止めてしまった。

 って、あれ?痛くない。


「あ、レベル差か…」


 どうやらこの人たちと俺の間に埋めがたいレベルの差があるらしい。しかも俺はただでさえ力が強くなっているからこの人たちくらいの魔法なら普通に弾けるんだ。

 ここは俺たちの世界よりも強さが顕著に出るんだな…


「えっと…まだやります?」

「きょ、今日はこれくらいにしといてやる!」


 お決まりのセリフを吐いて男たちは倒れている仲間を抱えて走って行った。俺はため息をつきテーブルに着く。そして周りから起きる拍手。


「それで、俺がうまくやった場合は誰かがおごってくれるんですか?」

「女におごらせるな」

「…はい。そうですね」


 なんだか納得いかないが俺たちは食事を再開した。ディスベルさんは男だが次期魔王候補の人におごってくれとは言えないのでそれ以上話題を広げるのはやめておいた。

 ただ俺を見るディスベルさんの目線が厳しくなった気がする。


「どうしたんですか?」

「いや、なんでもない」


 そう言ってディスベルさんは目をそらしてしまった。

 なんだろう。この目、前にも見たことがある気がする。

 そして世間話をし、食事を終えたころまたディアベルさんが爆弾発言をした。


「お前、入国禁止な」

「なんで!?」


 酒に酔っていたようで、ディスベルさんはリュートさんになだめられ不機嫌そうな顔をするまで機嫌が戻った。いや機嫌はまだ悪いままなんだけどね。

 思い出した。この目線、学校の男子が俺に向ける目線。前に女生徒と仲良くしていた時に美鈴がしてたあの目だ。今ならわかる。

 これは、嫉妬の目だ。


「面倒なことになったね」

「あ、あはは…」


 なんだか嬉しそうなべリアに言われ、俺は苦笑いを浮かべる。ちなみに悠子もディスベルさんの視線の意味に気づいたらしく顔を赤くしていた。


 なんというか…予想外の方向からピンチがやってきたんだけど…

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