表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導書製造者  作者: 樹
獣人族の攻防
87/258

誠実

 城に戻り戦果を報告したところで僕と凪川はタマモに呼び出された。天守閣にあがった僕たちを待ち構えていたのは代表者たちだった。

 そういえばこいつら、誰がどこまで知っているんだろう。フェルと一緒にいたであろうタマモは大体知っているのだろうけれど他の奴らはどうなのだろう。


「座って」


 タマモに言われて僕たちは座布団の上に座る。全員が深刻そうな顔をしつつもなぜか穏やかに見える。何があったのだろう。


「先ほど、侵攻していた破壊の勇者の軍が引き返した」

「引き返した?」

「あぁ。お前らがスレイクに乗り込み戦果を挙げたことで破壊の勇者の軍は予定を狂わされたんだ。そして再調整のために引き返した」

「再調整?必要なんですか?」

「例え一国を占領した軍とはいえ小妖精に伝わる伝説の剣や我々四つの国を相手取るにはそれ相応の予定が必要だ。わずかな予定の狂いが敗戦を招くことも十分にありうる。向こうもギリギリなのだろう」


 成程。そういう風に処理したのか。岡浦は教皇の言いなりというか助言をしっかりと聞き入れているのだろう。だから何かしらの理屈を並べて軍を引かせたんだろう。

 一年後にラグナロクが起こる。つまり後一年は進軍してこないだろう。しかし後一年で僕たちは神々の戦いに参戦できるようにしなければいけない。


「犠牲も考えうる限り最小限だった。結果的には勝利どころか大勝利と言っても過言ではないわ」


 タマモがそう言うが、僕たちは素直に喜べない。所詮、これも創造主に仕組まれた事態なのだ。別に僕たちがあの時スレイクに攻め込んでいなくても創造主は軍を退かせただろうしギアトも死んでいただろう。

 いや、もしかしたらギアトはもっと生きられたのかもしれない。最終的にトーレイと協力して海光を殺すというのなら最大であと一年は生きられたのかもしれない。


「…ッ!」


 パンッと僕は自分の頬を打つ。全員が驚いた顔で僕を見ているが僕は無言を貫く。

 ダメだ。結果は変えられない。こんなことは考えるべきじゃない。前を向け、後悔も懺悔もすべてが終わった後で十分だ。それに今回の作戦の立案者は僕だ。そんなウジウジしているようじゃギアトに申し訳が立たないぞ。


「ともかく、今は部屋に戻って休みなさい。明日から移動をするのだから」

「移動?」

「何で疑問形なのよ。ユウヤたちはホーメウスに、トーギたちはコーホジークに行くんでしょ?」

「へっ?」

「あぁ。そうだ。先に休ませてもらう」


 そういうことになっているのか。

 凪川も遅まきながら事態を悟ったようで僕に続いて天守閣から出る。

 どういう記憶が植えつけられているのか知らないがお膳立てはできているってことか。


「今夜はもう休むよ」

「今夜、というよりもう夜明けだけれど」


 気づけばもう朝日が昇り始めていた。一夜の作戦はおわり次の戦いが始まる。僕たちはそれぞれの寝室に戻った。



 寝室ではフェルと土屋がまだ起きていて土屋の目は真っ赤に腫れている。先ほどまで泣いていたのだろう。僕は土屋の前に座る。

 話さなければいけないな。


「土屋、話がある」

「うん」


 土屋と僕は向かい合う。僕は土屋に創造主の正体や改変前の世界で起きた出来事、そして僕たちのこれからの行き先について話した。土屋は僕の話を黙って聞き、驚くようなそぶりは見せず真剣に聞いていた。

 話を終え、土屋は口を開く。


「この世界に来てからね、ずっと違和感があったの」

「違和感?」

「うん。懐かしいっていうか、前にも来たことがある気がしてた。気のせいだと思っていたけど…その前の世界と関係あるのかな」


 …どうだろう。前の世界の土屋は死んだはずだ。でなければこの世界は作られていないはず。でもあの夜、土屋の記憶にないあの夜に土屋が言った「百年間ずっと好きだった」という言葉がある限り信憑性は高い。

 しかし、これ以上土屋を混乱させても利点はない。覚えていないのなら質問に答えることもできない。


「多分、気のせいだ」

「そうだよね…」


 僕はごまかした。そして布団に入り、土屋とフェルも布団に入る音がした。

 この世界に来て一番濃い一日だった。

 そう思いつつ僕は目を閉じた。



 俺の膝の上でべリアちゃんが泣いている。やはり自分を支えてくれていたギアトさんの死は相当ショックだったようで悠子が呼びかけても全く返事をしない。俺はただべリアの頭をなで続けた。


 十分ほどたった後、泣き疲れて寝てしまったべリアちゃんをそっと布団に寝かせて俺も自分の布団に入る。自然と瞼が落ちてきて気づいたら眠っていた。



 ………ここは、どこだろう。

 気が付くと俺は真っ暗な空間に一人浮いていた。無重力の空間で俺は微妙にはっきりしない意識のままふわふわ浮いている。

 すると突然、目の前が光った。その光で俺は目を覚まし、暗い空間に現れた光を凝視する。光はどんどんと人の形を成していきやがてあのよく見知った人が現れた。


「ギアトさん!」


 半透明のギアトさんは俺に何かを言おうとして口を動かしているが俺はそれを聞き取ることができない。耳を澄ましたり大きな声で話してほしいと言ってみてもどうやら向こうにも聞こえていないようだ。

 するとギアトさんは俺の腰にさしてある剣、デュランダルを指さした。俺はデュランダルを抜いて見せる。ギアトさんはそれを振るように指示した。


 言われるがままデュランダルを振ると、空間が裂けたように斬れ光が漏れる。それを見たギアトさんは満足そうに消えていった。


「後は、任せた」


 そんな言葉が聞こえた気がして俺は意識失った。



 窓から入ってくる日差しで目が覚めた。

 …デュランダル…

 俺は立ち上がってデュランダルを取り出し、一振りする。しかし夢のように空間を切り裂くなんてことはできなかった。

 …夢は夢?……いや、違う。

 確証があるわけではないが俺はそう直感し、デュランダルについて調べるために書庫へと足を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ