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魔導書製造者  作者: 樹
獣人族の攻防
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故人

 僕の前から創造主が消え、残ったのは僕とフェルだけ。フェルはずっと顔を伏せたままで言い訳することなくじっとしている。

 僕に伝えなかったことに罪の意識でも感じているのだろう。そういうのは土屋が慰めたと思っていたが…人間、そう簡単に変わるものでもないか。


「それにしても…」


 僕が土屋たちのためにそこまでやるか?………いや、やるだろうな。本当にあいつらのことを思っているのなら世界を創りなおすことぐらいやるだろう。


「これが前の世界での僕たちの結末か」


 僕は壁画に触れる。壁画に描かれている絵を見て僕は何とも言えない不快感を覚える。

 本当に、くだらない。こんな結末が分かってしまっている未来なんてつまらない。物語は、結末が分からないからこそ面白いんだ。奇想天外な展開が面白い。意外な伏線が面白い。だからラストが分かった物語なんて、だれも読まない。


「こんな結末、壊れるべきだ」


 ウィンドスピアを五本ほど出して壁画を壊す。


「時間だ。帰るぞ」

「はい」


 フェルと一緒に遺跡から出る。街が燃えておりおそらく陽動作戦は成功したのだろう。まずは凪川と合流するべきだな。


 あっちはうまくやったのだろうか。



 俺たちの前から凪川勇也が消える。俺はギアトさんが持っていた刀を拾って握りしめる。

 大丈夫…なんとかなる。俺が死ぬ気で誰よりも強くなればいいんだ…あの凪川勇也よりも圧倒的に。


「次の行き先はどこ?」

「…ここ」


 俺は悠子に凪川勇也から手渡された紙を渡す。悠子ちゃんは紙を見て「あぁ」と呟いた。紙に書いてあるのは地図だった。まるで宝物の在り処を示すように×が書いてある。


「ホーメウス帝国。魔族の国なぁ…」


 悠子ちゃんが自嘲するように呟く。おそらく魔王を頼れということなのだろう。

 元々は魔王を倒すために修行してきたはずなんだけど…人生は何があるかわからないものだなぁ…


「…時間だ。戻ろうか」

「ギアトさんのこと、ちゃんと説明せんとね」

「分かってるよ」


 刀をもって階段を上がる。上に出てみると王様も兵士ももういなかった。俺たちは閑散とした城を出て燃え盛る城下町をみる。

 ギアトさん…お疲れ様でした。べリアのことはしっかり、守ります。

 あの光が昇ったほうに礼をして城を出た。



 僕たちが集合場所に到着してから五分ほど後に凪川たちが到着した。集合場所に指定した貧民街の一角に集まった僕たちは移動しつつ互いの戦果を報告しあう。


「…そうか。ギアトが死んだのか」

「うん…」

「そうか…」


 なんとも言えない虚無感に襲われる。そしてタマモの言ったとこが脳裏によみがえった。


 もし死人が出たら、その責任が取れるの?


 タマモの言葉が脳に響く。僕はその言葉をかみしめる。


「僕のせいだな」

「いやそんな……」

「僕のせいなんだよ」


 凪川は僕に慰めの言葉をかけようとするが僕がそれを制す。

 そう。僕のせいだ。僕の責任だ。でもギアトのやろうとしたことは、べリアを守るということは凪川しかできない。結局、僕一人で責任を取ることなんてできない。


 責任を軽視していたわけではない。だが覚悟は足らなかった。


 今回の作戦、創造主の思い通りに動いたとはいえ完全に、僕の敗北だった。



 土屋たちのことろに戻る。トーレイたちはもう戻ってきていて、ギアトが死んだことを知ったであろうべリアが目にいっぱいの涙を浮かべながら僕たちのほうを見た。


「…おかえり」

「あぁ」

「…ギアトさんのこと、トーレイさんから聞いた」


 土屋も目に涙を浮かべている。そして僕の手を取った。


「帰って来て…よかった…!」


 涙交じりのそう言いい、土屋は目に浮かべた涙で頬を濡らす。

 …土屋にも話すべきだろうが、今はやめておいたほうがいいか。周りにたくさんいるし。

 僕は凪川のほうに目を向ける。べリアが凪川の胸の中で泣いていた。


「彼女は、強い子だな」

「トーレイ」

「誰も恨まないそうだ…」


 トーレイは畏敬の眼差しでべリアを見る。

 小さくても一国を束ねることになったから、強がっているのだろうか。それとも戦乱の世界に生まれたからか。どちらにせよ凄いことだ。


 …あの浅守燈義も土屋美月が死んだときこんな感じだったのだろうか。


「…辛いね」


 土屋が呟いた。僕はただ頷いた。



 帰りの馬車で寝てしまったべリアちゃんをみて俺はため息をつく。

 結局、実に三割が死んだ。作戦は成功したし、俺たちは作戦の目的以上の情報を得たし、作戦的には大成功だ。


 でも、俺や浅守個人としては敗北だった。


「…浅守たちはどこに?」

「コーホジーク。電脳種の国だ」

「そう…俺たちはホーメウス帝国。魔族の国だよ」


 本来ならば魔王を倒すために行く予定だったんだけど…

 浅守は「そうか」と言って何も言わなくなった。彼なりに思うことがあるのだろう。

 …凪川勇也もこんな虚無感や悲壮感を味わったのだろうか。


「ぅ…」


 べリアちゃんが小さく嗚咽をもらす。その度に俺は自らの無力を呪う。

 強くならなくちゃ。そのためには…情報が必要だ。デュランダルとエクスカリバ―の情報が。地球の神話に基づいているのならべリアや王様たちが知らないことがあるのかもしれない。それを知っていそうなのは、浅守しかいない。


「浅守」

「なんだ」

「神話について教えてくれ。デュランダルとエクスカリバーについて、詳しく」

「…あぁ」


 浅守は返事をして窓の外を見る。

 俺にできることをやるんだ。もう誰も失わないために。

 ギアトさんの形見である刀を握りしめ、俺は静かに決意する。


 もう誰も死なせない。意地でも死なせてやるものか。

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