道標
創造主の話を聞き終え僕はため息をつく。
思った以上に面倒な世界だなここは。でも確かに僕の記憶をもとにしたらこの世界に生きている魔物や神々、植物に至るまで再現できるだろう。多分HPが消えたら死体が消えるのはこの創られた世界にいられなくなるからか。
「質問だ。消えた魂はどこにいく?」
「世界から外れ次元の狭間にあり続ける」
成程。あの世とこの世の境目で停滞しているってことか。だとすればなんとかすればこの世に呼び戻すことも…いや、世界を元に戻せば死んだ人間もなかったことになるのか?死んだのはこの世界だから元の世界では死んだことにはなるのか?
「世界を元に戻しても死んだ人間は戻らない。元の世界を基盤としているこの世界で死ねば元の世界で死んでだのと同じだ」
僕も質問を読んだ創造主が僕の質問に答える。
死んだ人間は戻らない、か。
僕は考え込むがどうしていいのか答えが見つからない。
「答えは簡単だ。というよりもう課題は出しただろう?」
「創造主を、お前を倒せ。か」
「そう。僕を倒せば願いが叶う」
そういえばそんなものがあったな。確か、アトランティスにある世界樹だ。成程、創造主の話に出てきた光の塊は世界樹としてこの世界に君臨しているのか。確かに世界を支えている存在ではあるんだろうな。
「それで、浅守燈義は僕をどう導きたいんだ?このままじゃラグナロクが起きておそらく僕たちは死ぬぞ?」
「いや、ラグナロクは起こす。だからお前らには強くなってもらう」
「強く?」
「あぁ。これが次の道標だ」
そう言って創造主が僕に渡したのは虹色に輝く綺麗な石だった。石には魔力が封じられているが魔力を解放することはできそうにない。
これは魔導具?見たことないが……あぁ、そういうことか。
「電脳種か」
「その通り」
創造主から言い渡された次なる目的地は電脳種の国、コーホジークだった。
「それで、お前はゴールした僕たちに何をさせるつもりなんだ?」
僕は創造主に質問する。創造主は質問に答えた。
凪川勇也から話を聞き、俺は愕然とする。
創りなおされた世界?俺たちが失敗をなかったことにするための?
そんな俺を見て凪川勇也は一枚の折りたたまれた紙を渡す。
「これは…?」
「道標。次の行き先だよ」
俺は紙を広げそこに書かれている行先を見る。
…そうか。ここに行けばいいのか。
「一年だ」
「…何が?」
「一年後に破壊の勇者が動き、ラグナロクが始まる」
―!?
ラグナロク。浅守くんから聞いてはいたが実際に始まるとなると恐怖が湧いてくる。ただでさえ先の戦と今回の作戦でたくさんの人間が死んだのを見た俺は体が強張るのを感じた。
…落ち着け。一年後なら、まだ手はあるはずだ。
「君はこの世界で、俺たちが誰も欠けることなく旅を終えることを望んでいるんだよね」
「あぁ」
「だったらそもそも俺たちを召喚しなかったらいいんじゃ?」
「そうはいかないんだ」
凪川勇也は悲しそうに言った。
「俺たちの存在は改変前の世界に影響を与えすぎた。この世界を創るうえで基盤となった元の世界から外れたことによって生じた俺たちの穴を埋めるには俺たちしかいない」
「だから、王様に召喚をさせた」
「そう。正直、元の王様からかなり違う性格になったことは驚いたけれどそれでも俺たちを、勇者『凪川裕也』と魔導書製造者『浅守燈義』そして二人と運命を共にする仲間の存在は必要不可欠だった」
凪川勇也はとても悲しそうに、やりきれない思いを暴露するように呟いた。そんな凪川勇也を見て勇也はなんとか慰めようと言葉をかけたくなるが思いとどまる。
無責任な言葉はかけるべきじゃない。この凪川裕也は最後に俺と戦うべき存在なんだ。
「…どうして、ギアトさんを殺した」
「……時計が、あるんだよ。人間領の遺跡に」
「…時計?」
「世界終末時計。世界が壊れるまでの時間を表す運命の時計だよ」
「さっきの時計を進めるわけにはいかないって…でもギアトさんは!」
「人は時として思いもよらない運命を創ってしまう」
凪川裕也は顔を伏せる。
「ギアトさんとトーレイさんはその運命の分岐点なんだ。どちらかが死ななければラグナロクが早まる」
「どうして!]
「殺すんだよ。ギアトさんとトーレイさんが、恵梨香さんを」
凪川裕也は涙をこぼしながらそう言った。
殺す…いや、あの人たちならやりそうだ。あの人たちは充分に強い。美鈴ならともかく恵梨香さんは前線で戦う二人でかかれば多分、殺せるのだろう。
「恵梨香さんが死ねばその分ラグナロクでの勝率が致命的なまでに減る。それに、そんな結末は望まない」
「でも!」
「仕方ないだろ!」
勇也が叫ぶのを凪川裕也が制す。涙を流しながら諭すように叫ぶ。
「確かに凪川裕也は勇者だ!それでも人間だ!」
「人間にはできないことをするのが勇者だ!」
勇也と凪川裕也は対峙する。互いの主張を譲らず、譲ることができず言葉をぶつけあう。
「はい、そこまで」
「「―ッ!?」」
二人の頭を悠子が杖で叩く。悠子は憮然とそこに立っていた。
全く…この二人同一人物なのに考えてることがかみ合わなさすぎる!ちょっとは落ち着いて話し合おうよ!
「死んだ人間は戻らないけれど、世界を創りかえれば一時的にだけど存在できるんだよね」
「そ、そうだよ。でもこのままじゃラグナロクで世界が滅ぶし元の世界に戻してもこの世界で死んだ人間は戻らない」
「でももし世界が戻ってもあたしたちは生きていられるんやよね」
「その通り。だって勇者はこの世界にはいないイレギュラーな存在だから、この世界を創りなおすときに組み込まなかったから」
そうか。創りなおしてからまた召喚したから、世界が変わっても影響がないんやね。それなら話が早い。
「だったら、もう一度世界を創りなおして一つの世界として確立すればいいんやないの?」
「…それは最初に考えた。でも叶えられるのは一つだけ。世界を創りなおすのと世界を確立させるのは両立できない」
「でも、その願いも魔法で叶えられるものなんやよね」
「そうだけど……まさか!?」
「……本気!?」
二人とも思い至ったみたいであたしのほうを見る。
そう。二つの願いを叶える代替案。
「美月と燈義くんなら、可能やない?」
創造主の代替案を聞いた僕は頭の中で考えを巡らせる。
美月の解析で願いを叶える魔法を解析し、僕の魔導書にそれを写し取り行使する。そうすれば願いを二つ叶えることができるのかもしれない。理論的には可能だ。
「どうだ?」
「やるしかないんだろ?」
僕は創造主の意見を聞き入れた。
どれだけできるかわからない。というより死ぬ可能性のほうが多いんだろうけど、これ以外方法がないんだったらやるしかない。
僕の心に、偽りであるはずの心に何か決意みたいなものが到来した気がした。