悲報
二人は目の前に現れたフードを見て一瞬で勝てないと悟った。おそらくこいつがトーギの言っていた創造主やあの教皇の仲間なのだろう。そして自分たちに向けられる全身が強張るような殺気。
死んだな。と二人が思い、二人がどちらかを逃がそうと考える。
先に動いたのはギアトだった。ギアトは素早く転送魔法をトーレイに向かって発動し、身近な場所に飛ばした。
彼も戦士だ。助太刀に来るようなことはしないだろう。
聞けば、トーレイには娘がいるらしい。立派な後継者が見つかった自分にはもう心配はほとんどない。
「行く末は、見たかったのぉ」
ギアトはため息交じりにつぶやき、刀を抜いた。フードの男も剣を抜く。
「お主…その剣は…!」
「行きます」
フードの男は静かに宣言し、一瞬でギアトの目の前に迫った。ギアトは浮かんだ疑問を振りほどいて反射的に後ろに回避する。
フードの剣が胸板をかすめ、血がにじむ。
「…そういう…」
ギアトは「理解できた」と呟きフードの男に向き直る。
出し惜しみなし。全力で相手せねば。失礼じゃ。
「―っ!」
ギアトはスキル『過速』を発動させ一気にフードの眼前に迫る。過速は文字通り音速で相手に迫ることができるスキルで、一騎打ちの時には大体このスキルで片が付く。
今回ばかりはそうもいかんか。
ギアトの刀はフードの剣に止められていた。
「何故斬らん」
「成長のほどを、ね」
優しい限りじゃ。
ギアトは嬉しそうに刀を構えなおす。再び二人の剣と刀がぶつかった。
ギアトに飛ばされたトーレイは自分のいた場所を見て悔しそうに口元をゆがめる。
二人でかかっても勝てないのなら片方を逃がす…分かっていたことだ。
それでも悔しい。だがやらなければいけないことがある。
「…武運を」
トーレイはギアトに向かって呟き、その場を離れた。
ギアトがフードと斬りあって数分。ギアトの体は数十か所の切り傷があり、息も荒い。対してフードは無傷で、息も上がっていない。
「ここまでか…」
自分とフードとの間にある戦力差に笑いがこみあげてくる。
人は、ここまで強くなれるものなのか。嬉しくさえ思うぞ。
「…ありがとうございました」
フードは涙交じりにつぶやき、剣をもう一本抜いた。その剣を見てギアトは嬉しそうに笑みを浮かべる。
ワシは、幸せなんだろうな。
そんな感情さえ湧いてきたギアトは自分の使える全力を刀に集め、フードに突っ込む。フードもそれに応えるように両手の剣に莫大な魔力を集め迎え撃つ。
「護国斬敵!」
「弐式、剣聖」
二人がぶつかり辺りが吹き飛ぶ。巨大な光の柱が天に向かって上り、消えた。
私とべリアちゃんは街中から出現した光を見てなぜが不安に襲われた。
なんだろう…すごく嫌な予感がする。
「ミツキ…」
「…大丈夫…大丈夫だよ」
自分に言い聞かせるようにべリアちゃんに向かってなるべく笑顔で言った。べリアちゃんは不安げな表情を見せつつも自分の仕事をするために街の外に目を向ける。
大丈夫…だよね…?
街中から上った光を見て俺は足を止める。
一瞬すごい魔力を感じたけど…何があったんだろう。何事もない、よな。
不安に襲われつつも俺は自分の仕事を果たすために廊下を駆け抜ける。
「もうすぐ王宮の間やよ!」
「あぁ!」
気を引き締めて走り、王宮の間の前で止まる。目の前には豪華絢爛な装飾がしてある巨大な扉がそびえたっている。
見慣れたものだけど…さすがに今回は緊張するな。
俺は意を決して扉に手をかけ、力を込めた。扉はゆっくりと開き、王宮の間が眼前に出現する。
「おぉ!勇者よ!」
「王様…」
王宮の間にいた王は両手を広げて俺たちを歓迎しているかのようなポーズをとった。俺はため息をつき、剣を王様に向ける。
全く…嫌悪すら覚える。
「すいません。急いでるんで手短に答えてください」
剣を向けられた王様は憎らしそうに俺のほうを見て歯ぎしりをする。
そこまで自分の思い通りにならないことが気に入らないのか…嫌悪を通り越してもはや呆れる。
「ロキの封印の在り処。もしくは神と交信する装置か何かの場所を」
「…恥知らずが!」
王様は叫び、それに反応するように兵士たちが俺たちを囲むように出てきた。数は五十くらい。それも騎士ばかりだ。
「今なら許してやるぞぉ!」
王様は圧倒的有利な状況に自らの勝ちを確信したのか俺たちを見下すように嘲笑っている。しかし俺は冷静で、むしろこの程度か、と冷静に戦略を立てる。
先の戦争に比べればまだまだ軽いものだ。
「勇也くん!」
「あぁ!切り抜けるよ!」
フラッシュを使って目を潰され悶絶している人間から斬っていく。しかしさすがは騎士。すぐに回復するか最初から防御していて効果がなかった騎士たちが俺に斬りかかってくる。
「させへんわ!」
悠子ちゃんが自分と俺にガーディアンを発動させて防御してくれる。俺は突っ込んできた騎士にデュランダルで斬りかかる。騎士はデュランダルを剣で受け止めようとして剣が斬れ、胴体が二つに分かれ粒子となって消える。
「バカな!?騎士の剣をバター同然に!?」
「あの剣、なんなんだ!?」
目の前の光景が信じられない騎士たちに動揺が走る。俺は一つため息をついて慌てている騎士に斬りかかった。