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魔導書製造者  作者: 樹
獣人族の攻防
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決行

 僕たちは人間領の門の前にいる。部隊は三つに分かれ、僕と土屋とフェル、凪川と谷川、ギアトとトーレイをリーダーに義勇軍のエルフが均等に分かれている。土屋とべリアは後衛で破壊の勇者軍が来ないか見張ってもらう。

 破壊の勇者の軍は来ていない。大丈夫だ。


「十二時です」


 フェルが僕たちに時間を告げる。僕は一つ息を吐いて、右手を上げる。


「作戦、開始」


 三つの部隊が動き出した。



 それぞれ部隊にはもちろん役割がある。ギアトとトーレイは思う存分暴れて部隊を混乱させ、凪川と谷川は城の中を捜索し、僕とフェルは街中を捜索する。単純な作戦だがこれがおそらく一番効率的だ。


「ユウヤ」

「はい」

「死んだら、許さない」


 ギアトが凪川に重い声で告げ、凪川はしっかりと頷く。トーレイも僕たちのほうを見て一つ頷き、僕たちも頷き返した。

 トーレイとギアトが富裕層の住む場所に行って暴れるため、僕たちと別れる。しばらくして富裕層住んでいる地域のほうで火の手が上がった。僕たちはその混乱に乗じて別れる。


 僕とフェルは街を駆け抜ける。貧民街には相変わらず飢えた人々が呻いている。

 …あれ?こんなに人、多かったか?

 富裕層から貧層民に転落した人間がいたとしても目の前で飢えている人間の数が多すぎる。前に奇襲を仕掛けた時はこんなにいなかった。


 思い出されるのは、あの時創造主が貧民街のほうに起こした光。


 まさか、人間を創りだした?


「創造主か…」


 神々を創りだしたのなら人間も創れるってことか?久々に驚いたぞ。


「創造主に勝たなければいけないんだよな」

「そうですね」


 眼前の光景に冷や汗をかきつつ貧民街を駆け抜ける。貧民は大多数が鉱山で働いていて、少数人は遺跡の発掘をしている。遺跡には宝が眠っている可能性があるので一獲千金を狙って遺跡を掘り返す人間がいる。

 遺跡になら、何か証拠があるかもしれない。


「見えました」

「あぁ」


 鉱山を超え、遺跡が目に入った。遺跡はトンネルのようになっており、山一つそのものが遺跡となっている。

 トーレイの家の地下にあった管理室のこともある。正直あんな思いはこりごりだがそうなっても仕方がない。


「行こう」


 僕たちは遺跡へと入って行った。



 俺、凪川裕也は城の中に侵入した。今まで住んでいた場所に侵入するというのはなんだか違和感がある。

 ついてきてくれたエルフの人たちを散開させて、俺たちは城の中をかける。


「勇者だ!勇者がいたぞ!」

「殺せ!」


 城の警備をしている兵士たちが僕たちを殺そうと襲い掛かってくる。兵士たちの目は焦点があっておらず、おそらく麻薬でも使用しているのだろう。

 本当に、イライラする。

 あのままここにいたら俺もこうなっていたのかもしれない。そんな恐怖を覚えつつも俺はエクスカリバーを振り下ろした。


「見知った顔も多いね」

「仕方がないさ」


 目の前で粒子となって消える兵士に黙とうをささげつつ、俺たちは前に向かう。

 きっと、浅守はこんなことをしてきたのだ。自分を殺し、相手を殺してきたのだ。だったらその咎を、浅守だけに負わせるわけにはいかない。


「気分、大丈夫?」


 悠子が心配そうに聞いてくる。俺はため息交じりに答えた。


「最悪だよ」



 城の中にある書庫の中の本を調べる。やはりそう簡単に情報は見つからず、俺は持っていた本を棚に戻した。

 …どうすればいい?

 どうすればより効率がいいだろうか。俺は今まで得た情報を合わせて考えてみる。


 あ、そうだ。


「悠子。行くよ」

「どこに?」

「王様のところ。人間が神と交信していたのなら装置があるはずだし、その装置のことを知っているのはきっと王様だ」


 俺は書庫を飛び出し、王様を探す。王の間にいるのだろうか。


「おい!いたぞ!」


 兵士に見つかった。相手をしているのは面倒なので逃げることにした。どんどんと集まってくる兵士たちから逃げるために俺たちは城を走る。


「喰らえぇ!」

「ぐ…!」


 廊下に出たところで、五人の兵士がエルフの男性を串刺しにしているのが見えた。エルフの男性は悔しさと苦痛で顔をゆがめ、粒子となって消えていく。

 前線でも散々見た。これが戦争なんだ。


「悠子」

「…うん。うん。大丈夫」


 悠子は自分に言い聞かせるように呟く。俺たちの存在に気が付いた兵士たちが怒声を上げて俺たちに襲い掛かってくる。

 俺はエクスカリバーを振りかぶった。



 フードは人間領で、燈義が仕掛けた奇襲を眺めていた。

 もうここまで来たのか。

 フードは遠い目をして富裕層で暴れているトーレイとギアトを見る。


「…行こう」


 フードは富裕層へ転移する。富裕層の住民が住んでいた豪華絢爛な家は燃えていて住民は逃げ惑ってる。


 毎度、嫌になるような光景だ。


 金をやるから見逃せだの、自分は軍の最高権力者の弟だの言って命乞いをしている富裕民を見捨て、フードはトーレイとギアトの前に姿を現した。トーレイとギアトは姿を現したフードのただならぬ存在感に迷うことなく襲い掛かる。

 しかし、二人の攻撃が当たる前にフードは二人の腹を殴っていた。何が起きたのかわからないと悶絶しながら考え、立ち上がる二人とフードは相対する。


 本当に嫌になる。


 自分の役割とはいえ、まさか殺すことになるなんて……

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