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魔導書製造者  作者: 樹
獣人族の攻防
79/258

人間

 ヤマタノオロチの情報を知ろうとタマモたちを探すことにした。どうやら天岩戸にはロキは封じられていなかったようだがそれでも安心できる訳じゃない。むしろロキの封印まで解かれたら打つ手がなくなる。


「トーギ」

「ギアトか」


 そうだ。ギアトなら何か知っているかもしれない。


「ギアト、ヤマタノオロチについてだが」

「やはり気づいたか」

「じゃぁお前も?」

「これから会議じゃよ」


 僕は頷きギアトとともに会議場へ向かう。



 会議場にはタマモとフォーラスしかいなかった。タマモが巻物を読んでいてフォーラスは何もせずに正座している。

 タマモは僕たちのほうをちらっと見てすぐに巻物に目線を戻した。その目線は真剣なものでどうやらヤマタノオロチについて調べているらしい。


「すまない。遅れた」


 すぐにリュートも合流して会議が始まった。


「議題はヤマタノオロチの対抗策、そしてロキの封印についてよ」


 タマモは僕たちに自分が読んでいた巻物を見せた。巻物には地図のようなものが書かれていて各所に丸が付けられている。


「これは魔物の封印されている場所」

「全部で五つか…」


 そのうち一つが破られて今は四つ。この中のどこかにロキが封じられているのだろうか。

 タマモはさらに僕たちに巻物を見るように言って渡してきた。そこにはラグナロクの時の神々の戦いや魔物との攻防戦について描かれていた。

 しかしロキについての記述がないな…


「ご覧のとおりロキについての記述はありません」

「どうして?」

「ロキはラグナロクの首謀者。ロキが復活すればラグナロクが起きる可能性がかなり上がるからよ」


 つまりロキを復活させればこの世界が滅んでしまうかもしれないという事か。だからどの巻物にも載っていないのか…いやちょっと待て。巻物に載っていないのはロキだけじゃない。


 人間についても、全く載ってない。


「なぁ、タマモ」

「何?」

「人間は神との交信を遮断する前、どんな神と交信していたんだ?」


 タマモは少し考え、思い出したように言った。


「確か…オーディンだったな」

「確定かよ…!」


 オーディン。北欧神話の主神。確かフェンリルに飲み込まれて死んだはずだ。そしてそのフェンリルを従えさせていたのが、ロキ。

 もし人間がロキ復活のカギを握っているのだとすれば納得できる。どんな神話でも必ず生き残っているのは人間なのだから。


「トーギ?どうした?」

「…お前らは地球の神話を知らないよな」

「チキュウ?」


 そうだ。知るはずがない。こいつらはそもそもこの世界が地球を基準に創られていること自体知らないんだ。だったらオーディンがロキと同じ神話に登場しているなんて知るはずがない。


「多分、ロキについてのヒントは人間領にある」

「まさか。だって人間だぞ?」


 全員が半信半疑の目を向けてくる。

 その疑問はもっともだ。今まで散々下に見てきて散々面倒なことをやらかしてきた人間がそんな重要な鍵を握っているとは思えないのだろう。


「皆、少し静かに」


 タマモがざわついている三人を制し、僕のほうに歩いてくる。タマモは僕の前で止まって僕に目線を合わせた。するとタマモの目が金色になり、僕の目をじっと見ている。

 これがタマモのスキルか。


「…どうやら本当みたいね」


 まるで見透かしたようにタマモは僕の意見を肯定して立ち上がり、自分の座っていた場所に戻った。


「このスキルは真眼と言って、相手の過去が見えるの。まぁ相手の名前が分からなければ使えないのだけれど」


 成程。だからこいつはフェルの観察眼で見抜いた敵の正体を確かめることができたのか。

 タマモのスキルはどうやら全員、信じているようで騒ぐのをやめた。それと同時にかなり不味い状況にいると考え込む。


 ついさっきまで戦争をしていたんだ。だとすれば人間との和平交渉は無理だろう。

 つまり、情報を手に入れる手段はたった一つ。


「占領ですね」


 フォーラスが機械的に僕たち全員が考えていたことを口に出す。その意見に反対意見は出ず、僕たちの人間への攻撃が決まった。



 一つ議題が終わり、次はヤマタノオロチについての会議へと移る。ヤマタノオロチの強さは分からないが油断しないためにもアペピと同等のレベルだと思っておこう。


「ヤマタノオロチは酒に酔わせて封印したんだよな」

「そうよ」


 文献にもそう書かれている。美人の娘をささげて酒に酔わせて眠らせ、その隙に切り刻んで草薙の剣を取り出し、バラバラのまま封印したらしい。その封印が解け、バラバラになった体がくっつくまで憎しみなどを与えなければいけない。


「どれくらい復活したんだろうな」

「大体、一万五千人が戦死したとしたら六、七割は復活しているとみて間違いないでしょう」


 僕の質問にフォーラスが答える。

 七割か…残り三割をどうやって集めるのかを知っておきたいが、なにせ情報がない。今はロキのこともあるし、二ついっぺんに片付ける方法なんて―


「三割…」

「?どうしたのじゃ?」

「別に憎しみさえ集められれば人を多く殺す必要ないんじゃ…」


 人が抱いている憎しみなんて人それぞれ。全く人を憎まない人間もいればちょっとしたことで憎しみを覚える人間もいる。だから一番効率がいいのはより憎しみの深い奴を殺すことで、その最大の要因は…貧困だ。


「人間領の貧層民か…!」


 僕の言葉に全員がハッとなる。

 人間領の貧層民はこの世の理不尽を嘆き、恨んでいるはず。そんな奴らを殺せばかなりの憎しみが集まるはずだ。


 まさか愚王のくだらない政策がこんなところに響いて来るとは…これも創造主の策略か?


「援軍到着までどれくらいかかる!?」

「早くて後一日よ!総員、戦争の準備をしておくように!」


 タマモの言葉に僕たち全員が頷く。

 案外早く、破壊の勇者と一戦交えることになるかもしれない。

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