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魔導書製造者  作者: 樹
獣人族の攻防
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事情

 戦争が終わり、被害の報告や次の戦争に備えている間、僕は土屋とともにフェルに話を聞くことにした。

 僕たちの部屋に三人で集まり、それぞれ向かい合って座る。


「すみません」


 フェルは僕たちが話し始める前に素直に謝った。どんな罰でも受けるなんて言っていたけれど僕は罰を与えるつもりはなかった。むしろ、褒めてやりたいくらいだ。


「フェル、創造主の正体は僕たちに知られるとまずいのか?」

「はい。おそらく最悪の展開になるでしょう」

「じゃぁ、破壊の勇者について聞かせてもらってもいいか?」

「答えるまでもありません。全てトーギさんのお考えの通りです」


 ということは破壊の勇者は岡浦美鈴でいいのか…だとしたら原因は凪川を巡る痴話げんかってところだな。おそらく光海と岡浦だな。

 恋愛がらみで世界を滅ぼすのは地球でも異世界でも同じか。


「それで、創造主は何かさせたいんだ?」

「分かりません。ですが道は我々が導く、と」

「なるほど」


 何を考えているのか知らないが僕たちを思い通りに動かすことで何かを成し遂げたいらしい。だからこそ、この事件の遭遇率か。思い返せば森に飛ばされたときたまたま一体しかモンスターとエンカウントせずたまたまエルフの子供を拾ってエルフに保護してもらったらたまたま悪神が攻めてきたなんて、できすぎている。おそらく召喚魔法を愚王に教えたのも創造主なんだろうな。


「フェルちゃん」

「なんですか?」

「お疲れ様」


 そう言って土屋はフェルの頭をなでる。フェルは理解できないと僕に説明を求めるが僕は首を横に振った。

 土屋の行動の意味が僕にわかるはずないだろう。


「ちょっと歩いてくる」


 いてもしょうがないので僕は外に出た。



 燈義くんが出て行って、私はフェルちゃんの頭から手をどける。フェルちゃんは私たちに隠し事をしていたのが気がかりだったらしく落ち込んでいる。

 気にすることはないけど…フェルちゃん、気にしちゃうしな…


「ねぇ、フェルちゃん」

「はい。なんでしょう」

「罰を与えます」


 私から罰を与えられると思っていなかったのかフェルちゃんは少し驚いて、でもすぐに真剣な顔になって私を見る。

 本当に真面目だなぁ。


「今度から悩みは何でも相談すること」

「えっ…ですが」

「反対はなし」


 多分、これが私はフェルちゃんに与えられる最大の罰。フェルちゃんは何でも背負い込むし、私たちに心配をかけさせないために絶対に相談なんてしない。きっと私たちに心配をかけるっていうのはフェルちゃんにとっての絶対に犯してはいけないタブーなんだ。


 だからフェルちゃんにタブーを犯させる。


「返事」

「…分かりました」


 フェルちゃんは俯いて、私の罰を聞き入れた。私はフェルちゃんの頭に再び手を置いて頭をなでる。

 少しだけ、フェルちゃんと分かり合えた気がした。



 廊下に出るとタマモが待ち構えていた。僕たちの話を聞いていたのか何も言わなさそうだったので僕は無言で横を通り過ぎる。

 すれ違いざま、タマモは呟いた。


「本当の敵を、考えろ」


 僕は返事を返すことなく通り過ぎた。



 僕は再建中の城に上り、天守閣から街を眺める。

 さっきの戦争、何かがおかしかった。そもそも神との交流を絶って経済的にも乏しい人間に戦争の指揮をさせることがおかしい。人間を退場させるためだとしてもあの愚王を殺しでもして支配したほうがいいはずだ。それに、魔物を投入する意味も分からない。これから激化していく戦争に備えて魔物はあまり使わないはずだ。人間をやる気にさせたいのなら魔族や電脳種だけで十分だっただろう。


 そして何より、参加していた魔族と電脳種が戦うことなく逃げ出した。これは明らかにおかしい。


「何が狙いなんだ…」


 あいつらがしたことには意味があるはずだ…何がある?あいつらがこれをする意味…戦争、兵器、兵士……死?


「そうだ…」


 僕は急いで書庫へと向かい、そのに貯蔵されている資料の中かヤマタノオロチの記述を見つける。


『ヤマタノオロチは最強の魔物の一角。その力は死した者の憎しみで増加し、際限なく強力になっていく―』


 やられた!あいつらの狙いはヤマタノオロチの力の増大か!


「くそっ」


 僕は小さく吐き捨てるように呟く、ため息をついた。地球の伝説が正しいのならヤマタノオロチは酒で酔わせて倒すはず。だが草薙の剣が出てしまっている以上通用しないかもしれない。


「生贄に若い娘でも差し出すかよ…」


 どうだろう。ヤマタノオロチは倒せるのだろうか。神話の化け物を、アペピだって退けるのがやっとだったのに…


「考えろ」


 そうだ。考えろ。これもシナリオの一部なら、創造主が導こうとしているならどこかに抜け道があるはずだ。倒す方法があるはずだ。相手は神話。神話に対抗するには…


「神話でぶつかるしかない」


 幸い、こっちにも神話の武器がある。それらをどうにか組み合わせてこの戦局を乗り切るしかない。

 考えろ。生きるために。考えろ。創造主の導きのままに。

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