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魔導書製造者  作者: 樹
獣人族の攻防
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終結

 魔物が封じられたことにより戦況が一気に悪化した人間軍は人間をそのまま突撃させてさらに魔族と電脳種も参戦を始めた。

 というか魔導科学道具を使い始めたな…フォーラスも限界が来たってことか。でも想定内だから問題はない。そろそろ魔物も狩りつくされる頃合いだ。


「戦況はこっちがやや有利…でも足りないな。なにか決定的な一打があればいいんだけど…」


 …いや、待て。別に勝つ必要はないんだ。僕たちの役割は援軍が到着するまでルグルスを守ることであって人間軍に勝つことが目的じゃない。それに、これ以上戦っても泥沼となっていくだけ。これからの戦いのことを考えると戦力は減らさないほうがいい。


「土屋」

『なに?』


 水晶を使って土屋に問いかける。


「ここらで開けた場所、人間軍が全員入るような場所はあるか?」

『えっと…あるよ。五キロくらい東に』

「分かった。そこに魔導書部隊とフォーラスを向かわせてくれ。そして今から言う事の準備が整い次第連絡を」


 僕は土屋に指示を与え、土屋は司令部から魔導書部隊に指示を与える。おそらく地上はこれでひと段落するだろう。もう一つの問題は、空だ。空の戦況は何とも言えない状況だ。下から撃ち落とそうにも味方に当たると困るし、かといって味方を下げたらこちらが狙われる。

 何かないか…空の戦況を覆す作戦は…


「谷川」

「なに?」

「お前、僕に回復魔法を使用し続けろ」

「え、あ、うん」


 谷川に回復魔法をかけてもらい、僕は天蛇の書を開く。

 天蛇の書はアペピの魔法が入っている。しかし今の僕には使えない。でもそれは僕のレベルが足りないからではなく僕の体力が足りないからだ。上級魔法を使えば体力が足りず途中で倒れる。

 でも今なら使える。


「…下げさせろ」


 僕はつぶやき、空にいる味方を下げさせる。空の敵は勝ったと思ったのか僕たちに向かって突撃してくる。


「天候変換、成雷」


 空に雨雲が集まり、ゴロゴロと音を立てる。空の敵は天候の変化に気が付き、敵の顔色が一気に青くなった。

 さすがに気が付いたか。まぁいい。

 雷は落ち、空のいる獣人を撃ち落とす。鉄の鎧を身に纏い、鉄の剣と槍を持つ彼らは雷に狙い打たれ、即死、あるいは気絶し地面に落ちて絶命する。隊列を乱せば後はこっちのものだ。再び自軍が空へと上がり混乱する敵兵を飲み込むように倒していく。


 空のほうはどうにかなった…


 僕は安心してしまい、後ろに倒れかける。谷川に支えてもらいつつ前線の戦況を見る。

 さすがに上級魔法はつらいな…谷川に体力を回復してもらってなければ途中で気絶していただろう。


「無茶しすぎや」

「無茶するのが戦争だ」


 何とか立ち上がり、東に配置していた魔導書部隊が準備完了の連絡をくれたのでため息をつく。

 ようやく終わる。


「タマモ」

『分かってるわよ!』


 タマモは水晶の向こうで楽しそうに叫んでいる。すぐに前線部隊から東のほうに少しずつ移動を開始する。人間軍は気づくことなく東のほうにずれていく。


 しかし、人間は気が付かなくとも魔族や電脳種は気づいたようで既に逃げる準備をしている者もいる。

 というか、ここまでが全部創造主のシナリオのような気がする。

 そろそろ確認しておくか。


「土屋、聞こえてるな」

『うん』

「フェルもいるな」

『はい』


 本当は破壊の勇者の事件が終わったときに聞くつもりだったが、すぐに何かしらの事件に巻き込まれそうなので自由に動ける今、聞いておくことにした。


「フェル、この戦争、というか破壊の勇者のことも全部、創造主に仕組まれていたんだな?」


 フェルは答えない。


「そしてこの先のことも、そいつらが仕組むんだな?」

『フェルちゃん…』


 フェルはやはり答えない。僕は一言一言をかみしめるように言った。


「答えろ」

『はい。その通りです』


 フェルは決心したように肯定した。

 全く…本当に…


「くだらないシナリオだ」


 僕は吐き捨てるようにつぶやく。

 最悪だ。こんなシナリオ、今まで読んできた物語の中でも最低だ。登場人物も多すぎるし魔法もテンプレ。異世界に召喚され事件に巻き込まれる?ありきたりすぎる。


「フェル」

『はい。いかなる罰でも』

「全部教えろとは言わない。だから、僕たちを信じろ」


 そう言うとフェルは小さく返事をした。

 そうだ。まだ全部知る必要はない。時が来れば向こうからネタバレしてくれるだろう。展開が予想できるなんて、本当に最低なシナリオだ。というか黒幕の正体がこんな中盤でばれるなんて手を抜き過ぎだろう。


「ま、そんなシナリオでも乗るしかないんだよな」


 自分の無力さに嫌気を覚え、自らを嘲笑する。


「つまらないんだよ!」


 開けた広場に出て、僕は合図を送る。タマモたちは空にのがれたり全力で後方に下がってきたりして巨大な魔法陣から逃れる。


「谷川!」

「了解!」


 谷川が特大の結界で人間軍を囲む。人間軍は動くこともできず、魔法陣から発せられる光に飲み込まれた。

 しっかり返したぞ。


「転送!」


 僕と土屋が最初に森の中に転送されたように人間軍をあの砂漠に転送する。食料も水もなくしかも疲労している状態での砂漠。それも魔獣が大量にいる場所だ。

 生き地獄を味わってくるといい。


 人間軍が転送され、転送しきれなかった敵兵はことごとく捕えられた。捕虜をどうするかはタマモが決めるだろう。


 何はともあれ、この戦争は僕たちの勝ちだ。

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