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魔導書製造者  作者: 樹
獣人族の攻防
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戦局

 前線で戦っている敵の兵が吹き飛び空中で光となって消える。凪川やギアトやタマモが一騎当千の働きをしている。しかし敵は怯むことなく突き進んでくる。


「ねぇ…相手、ちょっと様子おかしくない?」

「そうだな。薬でも使ってるんだろ」


 谷川が笑いながら剣や槍を振り回して笑い声をあげて吹き飛ぶ敵を見て顔を青くする。おそらく人間の兵士のほとんどはあの刺客と同じで薬か何かで興奮状態にさせられているのだろう。そうなった兵士は止まらない。死ぬまで止まることがない。

 お手軽に作れる狂戦士ってことか。厄介なもの使いやがって…あの愚王が。


「一応聞くが、あいつらは異常状態じゃないんだよな」

「違うよ。興奮と混乱は違うやろ」


 だったら異常状態を治すことはできないか…まぁ、こんなことで狂戦士化が解けるはずないか…だとしてもこの状況は少しまずいな。痛みで止まってくれればいいけれど止まってくれそうにない。

 それに、まだ使いたくないんだよな…


「許容量を超える痛みを与えられればだが」

「難しそうやね」


 許容量を超える痛みを与える前に絶命する。でも十人くらい一気に絶命するわけではないので何人かは立ち上がってまた攻めてくる。手の骨を折っても武器を口でくわえて攻めてくるし足の骨を折っても這ってでも攻撃してくる。

 何かないか…相手の動きを止められる何か…


「薬か…」


 僕は麻薬の症状を思い出し、思い至る。しかしこの世界の麻薬に通じるかわからないし、何度か服用していないと効果がないかもしれない。

 でも、やってみる価値はある。


「伝令!」

「何の用だ」


 伝令を呼び作戦を伝える。伝令は頷いて空へと上がっていき、僕の伝えた作戦を忠実に実行した。


「貴様らの体にぃ!虫が湧いているぞぉ!!」


 空から大音量の声が地上に降り注ぐ。叫鳴で強化した声は確かに敵味方両方の鼓膜を振動し、脳に声を伝える。


 そして始まる人間側の兵士の絶叫。武器を捨てて体を掻きむしり、ひどい人間は自分の腕を切り落としたり、自殺する者まで出てきた。


「効果抜群やね…」

「薬物中毒者の末路なんてあんなものだ」


 よくテレビなどで見る特集で報道される薬物中毒者よりもひどい光景だった。さすがに剣で刺されたり魔法で吹き飛ばされたりする痛みを感じなくする強度の麻薬の影響は強かったようで人間の前衛はもうめちゃくちゃだ。


「殺せ」


 タマモの非情な声に反応して兵士たちが苦しんでいる敵兵を殺していく。しかし薬物をあまり服用しなかった者、薬物の影響をあまり受けていない者ももちろんいるので油断はできない。

 崩したのは敵の一角。まだ一万七千強の敵がいるし、味方の数ももちろん減ってきている。そしてなにより…


「その首もらった!」

「甘い」


 上空から僕たちを狙ってくる獣人を撃ち落とす。

 一番厄介なのは戦っているのが人間だけじゃないということだ。人間だけならいくらでもやりようはあるのだが…


「獣人族はともかく魔族と電脳種が厄介だ」

「でも電脳種の魔導科学道具はフォーラスくんが封じとるんやろ?」

「そうだが、いつまでもかわからんだろ」


 そう。フォーラスのスキル『過動』により魔導科学道具のバッテリーが使い物にならなくなり今のところ魔導科学道具が使われていない。しかしスキルは無限に使えるわけではないので早めに電脳種を落としておきたいのだが、人間が盾になってなかなか思うように戦ができない。


『燈義くん』

「土屋、どうした?」

『敵後方からゴーレムが出始めたよ』


 水晶を通して土屋の情報が届く。

 ゴーレムか…来るとは思っていた。だから対策もしてある。


「魔導書隊!」


 僕が叫ぶと鳥形獣人が十五人ほど空中へと飛び出し、上空からゴーレムに向かってウィンドスピアなどを放つ。ゴーレムに攻め入られた時から魔法がある程度使える兵士に権利を譲渡し、初心の書や天蛇の書を量産しまくった結果だ。

 本当は電脳種や魔族に使いたかったが前線に出てきていないので仕方がない。それにゴーレムの破壊は僕たちに有利に働くはずだ。


「それにしても、よくあんなに魔導書ができたな~」

「魔導書を創ること自体は簡単だ。問題はそれを扱う魔力」


 空を飛んで自分の身を守りつつ魔法を放つ。それができなければこの作戦は成功しない。だからこそ後衛と専門部隊である魔導書隊しか有効活用できない。


「さて、どう出る…」


 ゴーレムは崩され魔導科学道具は現在使用不可能。戦況としては人間側が不利に見えるが…


『燈義くん!』

「なんだ」


 土屋の切羽詰った声が水晶の向こうから聞こえてくる。


『魔物が接近してる!』

「そうか…」


 人間側を見てみると人間は攻撃をやめて逃げようとしている。多分、誘っているのだろうな。追いかけさせて固まったところを魔物で一掃するつもりなのだろう。

 いいだろう。その愚策、鼻で笑ってやる。


「追え」


 人間軍を獣人軍が追いかける。人間の中にはちらほら笑いをこらえている奴が見えたりしている。

 多分、圧倒的に有利だと思い込んでいるんだろうな。


『魔物、来るよ!』

「合図を送れ」


 土屋の通信を聞いて僕は指示を出す。城のほうから空砲が鳴り響くと同時に僕たちを囲むように十体ほどの魔物が姿を現した。容姿は黒い蛇だったり龍だったり狼だったりする。魔物の出現とともに人間も逃げるふりをやめ、こちらに向かってきた。


 しかし、その行動は計算済みだ。


「全軍、人間に集中!」


 軍は魔物に目もくれず人間とぶつかり合う。人間の多くは驚き、魔物のほうを見るも魔物は動こうとしない。それどころか誰かと戦っている。

 人間軍に疑問が広まる。その疑問の答えはすぐに姿を現した。


「我ら義勇兵!国を救った友のために参上した!」


 魔物と戦っているのはエルフだった。僕はあの会議の場でトーレイとフォンに連絡を取り、義勇兵を募るように頼んだ。そして参加した義勇兵を連れて今日の明朝、ルグルスに転移してきたのだ。

 その数、五百。魔物を倒すには十分すぎる人数だ。正直これだけ集まったことに僕自身驚いている。


「感謝するぞ、トーレイ!」

「なに、恩を返しているだけだ」


 義勇兵を束ねるトーレイに礼を言い、僕たちは僕たちの戦争に戻る。

 役者はそろった。盛り上がっていこう。

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