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魔導書製造者  作者: 樹
獣人族の攻防
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動揺

 私、土屋美月は今、結構限界である。洞窟を出て三十分ほどだろうか。砂漠の暑さに体力と水分はどんどんと奪われていき本当に干からびるのではないかと危惧してしまうほどだ。


「あぁ…川が見えるよ…」

「川なんてないよ!?」


 幻覚を見ている私を正気に戻そうとべリアちゃんが私の頬を叩いてくれる。正気に戻った私は力なく笑うが、べリアちゃんはまだ不安そうだ。


「水を飲ませたほうがいいんじゃない?」

「ダメですよ!砂漠で水は生命線です!」


 勇也くんの進言もべリアちゃんは聞き入れようとしない。

 まぁ当たり前だけどね…水がなくなったら行き倒れ必至だし。


「それにしても…暑いなぁ…」

「日照りが絶好調だね…」


 他のみんなは…大丈夫なんだろうな…燈義くんが困ってるところは想像できないし、この世界の人たちは特に問題なく進んでいそうだし。

 私も頑張らなくちゃ…!燈義くんの足を引っ張らないためにも!


「ミツキ」

「?何?」


 べリアちゃんが私のほうを見ている。どうしたのだろう。


「ミツキはトーギのこと、好きなの?」

「へ?えぇ!?」


 自分でも驚くほど動揺してしまった。私の声に反応して勇也くんも私のほうを見ている。

 おそらくべリアちゃんは何か話して気を紛らわせてくれようとしたんだろうけど…って、なんでこんなに動揺してるの!?


「あ、あれ!?おかしいなぁ!あはは!」

「あんまり興奮すると体力が減ってくよ?」


 べリアちゃんが慌てている私を見て不思議そうに首をかしげている。

 なんで!?なんでこんなに胸がドキドキしてるの!?ていうかどうして私は燈義くんとこれからも一緒にいたいって思ってるの!?


「大丈夫?顔が真っ赤だよ?」

「だ、大丈夫だよ!あははは!」


 勇也くんが心配そうに私を見ているから私は笑ってごまかす。

 というか本当に勇也くんってこの手の話に鈍感だよね…


「うん、大丈夫。落ち着いた」

「それで、ミツキはトーギのこと好きなの?」

「続けるのその話!?」


 せっかく落ち着いたのにまた胸の動悸が激しくなる。私は話をごまかそうとして周りを解析し始めた。

 当然のように障害物は…あった。


「右から何か来るよ!」

「ユウヤ!」

「あぁ!頼む!」


 私の言葉に反応して勇也くんはべリアちゃんの胸から出てきたデュランダルとエクスカリバ―を構える。右のほうからは土煙を上げて何かが迫っている。

 出てきたのは…大きな蟻。


「ジグルアント!」


 べリアちゃんが叫ぶ。ジグルアントは巨大な蟻のような魔獣で、鋭い牙とお尻にある毒針で攻撃してくる。力も強くて体を守っている皮膚も鎧のように堅い。そしてなにより、ジグルアントは五体ほどの群れで行動するので一体に発見されるとすぐに仲間が集まってくる。


「五体か。囲まれたね」


 すぐに四体のジグルアントが現れて私たちを囲むように迫ってくる。私は目くばせをして二人に合図を送り、初心の書を取り出した。

 そして二人がしっかり耳栓をしたのを確認して魔法を発動する。

  

「ソングウェーブ!」


 ジグルアントは視覚が退化しているが聴覚が発達している。そして私たちがした耳栓は買ってきた魔導科学道具の一つで『ノイズキャンセラー』と言うものだ。効果は単純。魔力を流せば耳に入ってくる音が全て遮断される。主に睡眠時に使用されるものだ。

 よって、ジグルアントは超音波によってその足を止め、その隙に勇也くんが斬りかかる。私もソングウェーブをやめてウィンドスピアで怯んでいるジグルアントの弱点である腹部の皮膚の裂け目を攻撃する。


「ふぅ…」


 ジグルアントは全て消え、私たちは少し水分補給して歩き出す。

 結構簡単に倒せた…強くなってるんだよね!


 日も傾いてきて砂漠が寒くなってきたとき、私たちは泊まれる場所も見つけることができた。

 

「あっ!洞窟!」

「本当だ!」


 洞窟を発見し、解析してみたけれど魔獣も魔物もいない。私たちは入口に簡易式の結界と魔導科学道具である『イマジン』という幻覚を移す鏡を設置して入口を隠し、休むことにした。


「疲れたね…」

「そうですね…寒くなってきましたし…」


 夜の砂漠は昼間が嘘のように寒くなった。砂漠の夜はマイナスになることもあるとテレビで聞いたことがあったけど、本当なんだ。と思った。

 勇也が火を起こし、暖を取りながら今日のことを思い出す。


「ミツキ」

「何…?」


 さすがに身構える私を見てべリアちゃんは少し笑った。


「ユウヤの好きなものって何?」

「勇也くんの好きなもの?そうだな」


 勇也くんの好きなものを考えてみる。他人からもらうものは酷いものじゃなければ大体喜ぶけど…でもそんな漠然としたものじゃ答えになってないし…


「…お守りかな」

「お守り?」

「うん。危険なことが沢山起きてるでしょ?」

「そっか」


 私がそう答えるとべリアちゃんは嬉しそうに笑う。

 燈義くんにもお守りとか渡したら喜ぶかな…って、なんでまた燈義くんのこと考えているの!?

 再び動揺した私をみたべリアちゃんはにっこりと笑う。


「何…?」

「なんでもない」


 ベリアちゃんは嬉しそうに笑ったまま勇也くんの隣に寝袋を敷いた。私はなんだか負けたような気がしつつも寝袋に入る。疲れもたまっていてすぐに眠りに落ちて行った。



 べリアが俺の隣に寝袋を敷いて嬉しそうに笑っている。

 うぅ…俺ってこの子と婚約したことになってるんだよね…心なしかギアトさんも容赦がなくなってるし。いやそのほうがありがたいんだけど。


「ミツキ、寝ちゃった」

「そうみたいだね」


 今日は疲れたんだろう。ゆっくり寝られるといいけど。


「ユウヤ」

「?どうしたの?」

「婚約者って、どう?」


 唐突な質問に俺は固まってしまう。

 どうって言われても…まだ実感わかないなぁ。今は恵梨香さんと美鈴を探さないといけないし。正直、そういう事を考えていられる状況じゃない。

 俺が答えられずに黙っているとべリアは「やっぱりいいや」と言った。


「ユウヤは別の世界の人なんでしょ?」

「そうだよ」

「それじゃ、いつかその世界に帰っちゃうの?」


 べリアは心配そうに俺を見ている。

 地球に帰るかどうか、か…それも考えてないけど…


「帰りたくないかも」

「そうなの?」


 べリアの顔が明るくなる。

 そう。これが俺の気持ちだ。勿論両親に会いたいし友達にも会いたいけど、こっちの世界も結構楽しい。むしろ勇者をしているほうが自分に合っているような気がする。こんなことを思っていると浅守あたりになにか言われそうだがそう思っているのだから仕方がない。

 べリアは満足そうに頷いて寝袋に入る。俺もそろそろ寝ようと思って火を消し、寝袋に入る。


「お休み」


 べリアは俺のほうによってきて、俺のほうに一つキスをした。俺は戸惑いつつも少し笑い、目を閉じる。

 明日も頑張ろう…と思いながら眠りに落ちて行った。

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