交渉
弓やら剣やらを構えて睨んでいるエルフの男性たち。面倒なことになった。
「答えろ人間!貴様何者だ!」
「名乗るんなら自分から名乗れ」
「なんだと!?」
さらに殺気が込められる。エルフはざっと二十人。弓が十三人に剣が七人。僕たちの圧倒的な不利だ。だがこっちにはガキがいる。
「おいガキ、あいつら説得しろ」
「………」
ガキは無言で僕たちの前に立った。エルフの男たちはガキを見て少し力を緩めつつも殺気は緩めない。いつでも殺せるという意思表示か。
「ネイス!大丈夫か!?」
「ん。だうじょう、ぶ」
ネイスというらしい。ネイスの父親らしき男がネイスの元に駆け寄った。
「人間に変なことされなかったか!?ケガしてるじゃないか!」
「これ、ちが、う。ミツキとトーギ、たすけて、くれ、た」
「助けてくれた?この非力な人間が、か?」
所々から「バカな」だの「ありえない」だの聞えてくる。エルフは人間を見下しているのか。確かに魔法戦においてはエルフのほうが強そうだ。
「おい人間。どうしてこんな所にいる!答えろ!」
「それはこっちが聞きたいもんだな。気が付いたらここにいたんだよ」
「なんだと?」
「転移魔法ってのがあるのか知らないが、多分森に捨てられた」
「そうなの!?」
土屋が驚きの声を上げる。なんだ気づいてなかったのか。
「違うと思うか?」
「お、思いたい…」
「無駄だやめとけ」
土屋はうつむいてしまった。僕は構わず続ける。
「エルフ、僕たちは異世界からきたんだ」
「異世界?バカな」
「スレイク王国が勇者召喚しやがったんだよ。それに巻き込まれたんだ」
「勇者…?」
ネイス父は近くのエルフに何か耳打ちし、エルフは水晶らしきものを取り出した。その水晶は少し光り、エルフはまたネイス父に耳打ちした。
「本当のようだな…」
「…見えたのか?」
「エルフの魔法技術は人間を凌駕している」
「成程。だからお前らは僕たちを見下しているわけだ」
「当たり前だ」
魔法至上主義か。そういう世界なら人間は一体どういう位置にいるのだろう。案外そこらへんが勇者召喚をした理由なのかもしれない。
「おいエルフ。答えろ」
「なんだ」
「勇者ってのはお前らに魔法で勝てるのか?」
「……勇者はそれぞれ特殊は能力を持っていると古文書にあった。戦ってみないと分からないが、ありうるだろう」
そうか。ならいい。交渉材料があってよかった。
「勇者の情報を教えてやるから僕たちを保護しろ」
「いいのそれ!?」
「黙れ土屋。死ぬかどうかの瀬戸際なんだよ」
土屋を黙らせネイス父を見る。
「……貴様らが勇者の仲間だという証拠はない」
「証拠ならある」
僕は制服の内ポケットにあるケータイを取り出した。
「僕の通信機器だ。これでいいか?」
ネイス父は僕から渡されたケータイを見て唸る。この世界は魔法があるから科学はあまり発達していないのだろう。ケータイなんて見たことがないはずだがどうだろうか。
「……ネイスの言い分もあるし勇者のことも知っているようだから取りあえずは信じてやる」
「それはどうも」
「だが妙なことしたら殺す」
「心得ておくよ」
協力とはほど遠いものだがエルフに保護してもらえた。初めての交流にしては十分すぎるほどの成果だろう。