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魔導書製造者  作者: 樹
獣人族の攻防
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連帯

 恋愛というものを考えていた時期がある。僕が読んできた本には勿論恋愛を主題とした本があり、それについて考えていたことがある。

 しかし結論は出ず、また出さなくても問題ないということに気が付き考えるのをやめた。僕は必要最低限の人間関係しか作っていなかったし作るつもりもなかった。だからこそ、この状況に混乱している。

 そんな僕の状況をを知ってか知らずか土屋はにっこりと笑った。


「好きだったんです。百年間、ずっと」

「百年…?」


 僕が疑問の声を上げると土屋はまたにっこりと笑って目を閉じた。そして僕のほうにもたれかかってくる。


「…どうした?」

「…すぅ…」


 寝ていた。寝息をたてて気持ちよさそうに寝ている。僕は困惑しつつも起こすために土屋の頬をつねった。土屋が痛みで目を覚ます。


「あれ?どうしてこんなところに…燈義くん?」

「覚えてないのか?」

「?なにを?」


 土屋はきょとんとしている。どうやら本当に覚えていないらしい。僕は未だぬぐいきれない混乱を隠しつつ「何でもない」と言ってベンチを立った。

 あの土屋は一体何だったんだろう。百年前?何のことだ?百年前にはもちろん僕も土屋も存在していなかったはずだ。まさか生まれ変わりとかそういう類か?


「おかしくは、ないよな」

「だから、何が?」

「こっちの話だ」


 僕が歩き出すと土屋も後からついてきた。特に変わったこともないようだしさっきのことも覚えていないようだ。だからこそ僕は混乱しているのだけど。


「百年…?」


 思い当たる節はない。僕は答えが分からない恐怖に惑いつつ帰る。

 明日に備えよう。忙しくなるのだから。



 中庭、城の復旧作業が進む中、タマモが肩を押さえてうずくまっていた。


「肩がぁ!!」


 タマモの足元にはデュランダル刺さっていてタマモの目の前にはすっぱりと斬られた岩がある。

 状況を説明すると、凪川がギアトと修業した後にデュランダルの使い方に慣れておこうと素振りをしているとタマモが来て、興味本位で凪川にデュランダルの貸し出しをねだり、貸してもらって岩を切ってみたらあまりに切れ味がよすぎて思いっきり切ったデュランダルはタマモの勢いそのままに地面に突き刺さり、タマモの肩は向いてはいけないほうに向いてしまって肩を痛めたのだ。

 一言でいえば、自業自得。


「これが獣人族のトップなんだよな」

「そうですね」


 僕の独り言にフェルが返事を返す。魔物が復活してかなり面倒な状況になっているというのに平和なものだ。


「それで、今日は何するんだ?」

「もうすぐ全員揃うわ。話はそれからよ」


 肩を治してもらったらしいタマモが僕に説明する。今は正午、土屋と谷川も魔法の授業を終えてこちらに向かっているそうだ。


 そして五分後、土屋と谷川、フォーラスとべリアが中庭に来て全員が揃った。タマモは僕たちの前に出て一つ咳払いをする。


「今日は魔物の捜索、およびチームについての確認よ」


 どうやら連帯での戦いについていろいろと検証するらしい。ルグルスに集まった面々はほとんどが初対面、初対面でなくても一緒に戦ったことはないらしい。破壊の勇者との戦争が激化することを考えてもチームとしてどれくらい機能するのかは調べなくてはいけないことだ。


「それじゃ、フロウズ砂漠に向かうわよ」

「砂漠?」


 そういえばルグルスの外には砂漠があったな。そんなことを思い出していると足元に巨大な魔法陣が出現し、一瞬で景色が切り替わった。

 ここは、洞窟か?目の前に三本の道がある。

 複数人で転送魔法を使うことで転送距離を伸ばしたのか。そんなこともできるんだな。


「それじゃ、この腕輪を着けて」


 タマモは僕たちに腕輪をつける。腕輪は銀色で特に変わったところなど見受けられない普通のアクセサリーだ。

 しかし、タマモが一つ手を叩くと腕輪が光り、僕の腕輪は赤くなった。なんだこれ?


「同じ色の人とチームを組んでね。そしてあの先にあるオアシスを目指すの」

「成程」


 見るとタマモの腕にも腕輪がついている。色は青だ。僕とは別チームなんだな。僕は赤の腕輪を持っている人物を確認する。

 赤いのは…リュートとフォーラスか。青がタマモとギアトと谷川。緑は凪川とべリアと土屋だ。こえれはまた面白いチームになったものだ。前後衛で上手く分かれている。そういえばフェルがいないな…向こうに残ったのか?

 僕たちはそれぞれ三本の道の前に立つ。僕たちは一番右の道だ。


「それでは、スタート!」


 タマモの合図で全員が一斉に走り出した。



 洞窟内の道は案外広く、三人でならならんで走れるほどだ。約一名浮いているが。


「そういえば何の準備もしなかったけどいいのか?」

「過酷な環境でのサバイバルレースなのだ。すべで現地調達でいかなくては」

「この先、湖があります」


 フォーラスの目が車のライトのように光って暗い道を照らしてくれる。さらにナビまでしてくれるのだからこいつと一緒でよかったと思う。

 まぁどこも同じようなものか。 タマモはここらの地形は詳しいだろうし土屋も解析を使えば水源なども見つけられるだろう。


「後衛の条件は五分五分。ならば勝因は」

「我々前衛だな」


 走りつついつでも戦えるように天蛇の書を準備しておく。不意にフォーラスの目が赤く光り、目の前を赤く照らした。

 その先には、緑色の大量の蟹のような魔獣。どうやらこの洞窟に住んでいるらしい。


「クロークラブだ。この先に水があるぞ」

「それじゃ、こいつら倒して水汲みに行くか」


 数は大体五十匹くらいだろうか。僕とリュートは槍を取り出し、フォーラスも警戒態勢に入る。

 この調査、結構長くなりそうだ。

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