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魔導書製造者  作者: 樹
獣人族の攻防
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問題

 魔物が復活した。その事実に動けなくなっているタマモを殴る。タマモのすぐ右を剣が通り過ぎて床に刺さった。


「タマモ!集中しないと死ぬぞ!」

「…分かってるわよ!」


 タマモは狐火を出してゴーレムたちを攻撃していく。銀のゴーレムは凪川が引き受けてくれているので僕たちは普通のゴーレムを倒し、何とかすべて倒すことに成功した。


「何とかなったって、喜べる状況じゃなさそうだな」

「そうだね」


 空へと昇るあの黒い柱はもう消えていた。おそらくあれは魔物が復活したことにより起きた現象なのだろう。魔物は魔獣よりも強い。徒党を組んだ魔物相手に戦争になることだって十分にありうる。

 そして魔物の封印を解いたのは破壊の勇者なのだろう。


「かなり不味い状況になったわね…」

「そうですね…お城も壊れてしまいましたし」


 状況は考えうる限り最悪に近い。城の破壊に兵力の減少、敵の戦力増加。明らかに劣勢だ。だからと言って負けるわけにはいかないのだが。


「どうする?」

「会議ね。今後の方針を決めなくちゃ」


 そいつはまた面倒なことになりそうだ。

 僕たちが外を見て話し合っている間に凪川はべリアの介抱をしている。べリアは遠慮していたが凪川はべリアを抱きかかえ、俗に言うお姫様抱っこをしている。べリアの顔が赤くなっているのは気のせいではないだろう。

 こいつのこういうところが修羅場を引き起こすんだろうな。となんとなく思った。



「姫様!」

「ギアト!」


 外に出ると生存者が中庭に集まって戦死者の確認をしていた。その中にいたギアトが僕たちを見つけべリアに駆け寄ってくる。


「よくぞご無事で!」

「ユウヤさんたちに助けてもらったの」


 べリアは嬉しそうに話している。お姫様抱っこをされているべリアを見てギアトが凪川に恨みのこもった目線を送っているのに気付かないほどに。

 というか凪川も気づいてないぞ。どんだけ鈍感なんだよ。これが修羅場の原因か。


「そうだ!ギアト!デュランダルが抜けたんだよ!」

「…なんですと?」


 ギアトの目線がさらに厳しくなった。凪川もさすがに気付いたみたいで苦笑いを浮かべつつ「どうも…」と小声で返した。ギアトは目を閉じ、にっこりと笑った。

 どうした?妙に爽やかだが。


「それはめでたい。この事態が終わったら早速式の準備をいたしましょう」


 …式?と僕たちの頭に?マークが浮かんだ。タマモは「あぁ。そうね」と納得している。

 そういえば、デュランダルについて調べた時に何かあったな…確かデュランダルを抜いた者は次の王になるとか…


「式って、結婚式のことか」

「そうじゃな」


 僕の言葉にギアトが頷く。今度は全員の顔が驚愕の表情に変わる。

 そうか。凪川はヒュガスの王になるのか。べリアと結婚するのか。そいつはまた面倒なことになりそうだな。


「ギアト」

「なんじゃ?」

「べリアの両親はどうしてるんだ?今の王がデュランダルを持っているんじゃないのか?」

「…死んだ。姫様にデュランダルを託してな…」


 僕が小声でギアトに質問するとギアトも小声で返してきた。

 そうか。死んだのか。なら次の王は凪川に決定というわけだ。本人が拒否しようともデュランダルに選ばれたのなら仕方がない。


「いやでも!俺は!」

「なにか、問題でも?」


 何とか言い訳をしようとした凪川もギアトに威圧に黙ってしまう。ギアトは歴戦の勇士なので眼力が凄まじい。

 この状況で断ったら死ぬ。と直接眼力を受けていない僕でも分かった。


「ハヤノ!キクウ!」

「「ハッ!!」」


 タマモが八咫烏の二人の名前を呼ぶと二人はすぐにタマモの前に現れた。特に目立ったケガはなく、異常状態も見受けられない。体のあちらこちらに細かい傷はあるものの特に問題は無さそうだ。


「あの勇者はどうした?」

「途中で閃光魔法を使われ逃げられました」

「すみません」


 二人は深々とタマモに向かって頭を下げる。タマモは事態を予測できていたようですぐに二人に指示をだし、二人は空を飛んでどこかに行ってしまった。


「さて、色々と問題が発生しているようだが?」

「そうだな。とりあえずあそこでおどおどしている新王様の騒動を止めようか」


 タマモと僕は呆れながらおどおどしている凪川のほうに向かう。

 これから大変な戦になるかもしれないのに平和なものだ。



 あれから結構な時間が経ち、現状把握のためタマモは兵をあちらこちらに派遣して魔物の出方を見ている。その間僕たちは新しく用意された建物に移動してそれぞれの部屋で休んでいた。

 僕は寝付けず、外を歩いていた。町は来た時ほどの活気はなく住人は不安げな表情を浮かべている。


「燈義くん」

「土屋か。フェルはどうした?」

「部屋で待機してもらってる。二人で話したかったから」


 僕を追ってきたらしい土屋は嬉しそうに僕の隣にならんだ。僕たちは少し歩いて川のほとりに設置されているベンチに座った。


「助けてくれてありがとう」


 土屋はそういってにっこりと笑った。僕は「どうも」と適当に返事を返す。土屋はやっぱり笑っている。


「変わらないよね。燈義くんは」

「変わる必要がないからな」


 またしても適当に言った僕の言葉に土屋は「そうかもねー」と返してきた。

 何が言いたいんだこいつは。話が見えないぞ。


「今日ね、一人で死にかけて分かったの」

「なにが?」

「言っておいたほうがいいかなって」


 何を?と質問する前に土屋は僕の頬をさわり、グイッと自分のほうに引き寄せた。

 土屋の、唇が、僕の唇に、当たる。これだけの事態に、僕は戸惑ってしまった。訳が分からなかった。


「好きです」


 土屋は僕の目を見てはっきりと言った。


「私は、浅守燈義くんが、好きです。ずっと前から好きでした」


 その言葉は僕の鼓膜を揺らす。

 僕は言葉を返すことができなかった。

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