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魔導書製造者  作者: 樹
獣人族の攻防
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奇襲

 光海の攻撃を合図として中庭の地面が盛り上がり、剣を持った泥人形が大量に出てきた。おそらく破壊の勇者が奇襲を仕掛けてきたのだろう。城の中からも悲鳴と怒声と戦闘音が聞こえてくる。


「ゴーレムか…!」


 ギアトが焦ったようにつぶやく。ゴーレムと言うのは魔力を宿した宝石である魔力石を核として創られる戦闘能力を持った泥人形のことだ。魔力石を壊さなければ倒しても何度でも復活する厄介な代物だ。


「どうする?」

「ゴーレムがいるのなら近くに術者がいるはずだ!そいつを倒せれば止まる!」

「その前に上のをどうにかしないとね…キクウ!ハヤノ!」

「「御意!!」」


 タマモが叫ぶと武装した八咫烏のキクウとハヤノが城の窓から飛び出して海光に向かっていく。光海は空中に止まっていて矢で応戦しているもののキクウとハヤノは対処法を知っているので難なくやり過ごしている。

 そもそも弓矢は前線に出てくる武器ではないので二人で攻撃していれば何とかなるだろう。


「それで!どうやって術者を探すんですか!?」


 凪川が向かってくるゴーレムを破壊しつつ叫ぶ。

 術者ってことは、魔力を流してこのゴーレムを操っているんだよな。


「土屋の解析なら魔力の元を探れるかもしれない」

「決まりね!二手に分かれて探すわよ!」


 タマモの指示で僕とタマモと凪川、リュートとギアトに分かれて僕たちは城の中に入る。

 城の中はもう戦闘の跡があり、四方八方から怒声が聞こえている。


「魔法石は心臓部分にある!一撃で仕留められそうにないのなら手足を崩して隙を作れ!」


 タマモは狐火を出して向かってくるゴーレムの心臓部を撃ち抜いている。僕もウィンドスピアやウォーターカッターで応戦する。凪川も光の鎖で複数を拘束しつつ倒していく。


「手ごたえがないね」

「多分僕たちの実力を見るためだろう。光海はあいつがこちら側にいるという意思表示。勇者に不信感を持たせるためとか、そんな理由だろう」


 まぁ凪川にはこの城にたくさんのファンがいるからな。そういう事はあまり意味がないと思うが。

 一階の廊下を走りながらゴーレムを倒していく。しかし、妙だな。これだけ弱いゴーレムを仕向けても僕たちが本気を出すとも思わないだろうし…だとすればこれは、陽動。敵は何かを手に入れようとしている。


「おいタマモ。ここ周辺になにか戦争に役立つものはないのか?」

「役立つもの?そんなもの…あっ、ある」


 あるらしい。しかもどんどんタマモの顔が青くなっていく。これは相当ヤバいんじゃないか。


「天岩戸…!」

「天岩戸?天照大神が引き込もったあれ?」

「そう。天照大神様が引きこもり、今は千を超える魔物が封じられている場所だ」


 魔物は魔族並みの知識を持つ魔獣のことだ。魔獣も魔物が退化した姿と言われていて場所によっては妖や悪魔などと呼ばれている。魔物はかつてこの世界を飲み込む勢いで繁殖し、その事態を受けて今まで戦争ばかりだった全種族が協力したといわれている。そして世界を巻き込む戦い、勇者を創ることとなったラグナロクやアルマゲドンと呼ばれる戦争を引き起こした。


「魔物は戦争で滅びたんじゃないのか?」

「さすがにすべてを滅ぼすことはできなかったんだ!悪神であるロキや八岐大蛇を倒したから繁殖能力はなくなったもののそこにいた魔物は数万体だったのだ!千体ほど封印したとしてもおかしくはない!」


 成程。確かにそうだ。魔物の正確な数字はどこにも記されていなかったがタマモの焦りっぷりを見る限り相当数にのぼるだろう。

 マズイな。勇者は今分裂状態でしかも魔物を復活させようとしている奴が勇者の一人の可能性が高いんだ。光海も敵側にいるみたいだし…


「でもそんな重要な場所なら何かしらの封印が施されているのではないんですか!?」

「その封印は勇者の武器よりも、破壊に特化した伝説の武器よりも強いのか?」

「あ…!!」


 もし岡浦が破壊の勇者だとすれば封印を壊すことができるかもしれない。今すぐにでも止めに行くべきなんだろうがこの城はゴーレムで溢れかえっているし封印のほうにも人員を割いていないとは思えない。むしろそっちが本体の可能性が大きい。それが分かっているからタマモは焦っているのだろう。

 こうなれば一刻も早く土屋たちと合流しなければ。


「ツチヤ=ミツキは死んでいないでしょうね…!」

「死んではいないだろうな。土屋は凪川よりよほど死にかけてる」


 そういえばフェルはどこに行っているんだろう。長時間も僕から離れているのは結構珍しいことだが…


「トーギさん」

「うわぁ!?」


 いきなり背後から現れたフェルに驚いた凪川が声を上げる。噂をすればなんとやらだ。


「どこ行ってたんだ?」

「頼まれて買い物に」


 そう言った土屋の手には買い物袋がぶら下がっている。そういえば土屋がなにか買ってきてほしいと言っていたな。魔法に使うらしいが。

 何はともあれ戦力が増えてよかった。


「町の様子はどうだった?」

「城の外は被害がありませんでした」


 ゴーレムが発生しているのはこの城の中だけか。だとしたら術者は城の中にいるのか?


「止まれ!」


 タマモの耳がピクっと動き、僕たちに制止を呼びかける。僕たちが立ち止ると天井が少し膨張して破裂した。そこからエンジン音がして何かが降りてきた。


「これが魔導科学道具か…」

「そうです」


 降りてきたフォーラスは親指を立てる。無表情だがどことなく誇らしげだ。


「土屋たちは?」

「不明。席をはずしていた」


 どうやら奇襲を受けた時は席をはずしていたようだ。

 僕たちは合流したフォーラスに土屋の場所を探してもらいつつ前に進む。

 しかし天岩戸の封印が壊されるという事態はもうすぐに迫っていた。

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