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魔導書製造者  作者: 樹
獣人族の攻防
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夢現

 アペピは校舎を破壊している。僕はその光景を見ながら凪川の姿を探している。校舎にはもう生徒はおらず、ただ校舎が崩れる音とアペピによって引き起こされた爆発の音が響いていて映画のような光景になっている。

 よく撃退できたな。と思う。


「お」


 凪川が校舎の中から出てきた。僕はそれを確認して アペピの上から飛び降りる。僕がやられたらアペピが消えてしまいそうだし。

 凪川はアペピに斬りかかった。しかしアペピを傷つけることはできない。凪川は雷に打たれても止まらないが、アペピには勝てないだろう。


「これが知っている者と知らない者との差だよ」


 僕はアペピが死なないことを知っている。首を切られようが胴体を引きちぎられようが死なないことを知っているし、アペピに勝てる存在が同じ神だということも知っている。

 神様を気取っても神にはなれない。


「燈義くーん!」

「なにこれ!?」

「土屋と谷川か」


 土屋と谷川が走ってきた。僕と合流してあーだこーだと言っているが気に留めることなくアペピを操作する。校舎は破壊され凪川の声が響く。

 一言で言うと、カオスだった。まさに悪夢。


「私たちがスカイツリー行ったり京都に行ったりしてる間に何があったの!?」

「そうやて!北海道で流氷見て沖縄で首里城観光してたんよ!?」

「お前ら何してんだよ」


 夢の中だからって自由すぎるだろ。なんで僕が戦ってる間に修学旅行に行ってんだよ。しかも結構豪華じゃないか。


「夢を覚ます」

「どういうこと?」

「悪夢は見たくないものだからな」


 そう言って僕はボロボロになっている凪川に向かってウィンドスピアを撃ってすぐに隠れた。凪川は僕のいた場所にいる土屋と谷川がいて、凪川は唇を噛み二人のほうに右手を向けた。そして二人は消える。

 弾きだされた。


「計画通りっと」


 夢がアペピに壊される。凪川の望まぬ夢に形を変えることでディストピアの能力をある程度無効化できた。後はこの夢に干渉して僕の思い描いたものを具現化するだけだ。

 僕は思い描いた。この学校の生徒、教師、生徒会の面々、親、市民に至るまですべて。その住人達がアペピによって蹂躙され、殺され、時には食われながら逃げまどう。


「己の無力を呪え」


 僕は低い声でそう言った。凪川は泣きながら、嘆きながら戦っているが人は目の前で死んでいくばかり。

 これは凪川じゃなくても大体の人間が発狂するレベルの惨劇だ。


「悪夢だな…」


 この状況を創っておいてなんだが若干僕も引いている。

 まぁ、でもこれで凪川は起きるだろう。


「おっと」


 急に地震が起きた。アペピの攻撃かと思ったが空が崩れているし登場させた人間もだんだんと消えている。地面は剥がれアペピも光の粒子となって崩れていく空へと消えている。

 夢の世界が崩れている。


「ようやくか」


 長い夢が終わる。僕の体も消えていく。だんだんと意識が空に向かって上がっていくような感覚がして僕の意識は途切れた。


 そして目を覚ました。ここは城の診療所。どうやら現実世界に帰ってきたようだ。


「あ、起きた」

「あぁ…」


 まだ少しボーっとする頭をなんとか活性化させて土屋に挨拶を返す。凪川は…


「うわぁぁぁぁぁ!!!」


 凪川がすごい悲鳴を上げて飛び起きた。尋常ではない寝汗をかいていて息も荒い。目には涙が浮かんでいる。

 あれだけの悪夢を見たのだから仕方のないような気もするが。


「こ、ここは…」

「ルグルスって国の診療所やよ!大丈夫!?」

「悠子…」


 谷川がいまだ息の荒い凪川を心配して話しかけている。凪川が起きたことにより発生している怒声の中で電脳種の少年と目があった。少年は親指をグッと立てる。

 作戦成功か。



 十五分後。何故か僕と土屋と谷川が凪川と一緒に診療室に残っている。凪川はだいぶ落ち着いたようで谷川の質問や励ましに笑顔で答えている。

 僕には目を合わせようともしないけれど。


「凪川」


 僕が話しかけると凪川は笑顔を少しひきつらせつつも僕のほうを見た。いろいろと思うことがあるのだろうが今僕が言えることはただ一つ。


「あの悪夢こそ現実だ。力と覚悟と知識がない奴は周りの人間まで失うことになる」

「…あれは君が見せたのか…」

「できるだけ残虐に演出してみたが、効果は抜群だったみたいだな」


 凪川はあの夢を思い出したのか口元を手で押さえた。診療室に沈黙が満ちる。凪川はため息をついた。


「……守れなかったんだ」

「勇也くん…」


 土屋と谷川が凪川を心配そうに見つめる。 


「みんな、守れなかったんだ!」


 凪川はドン!と床を殴る。土屋と谷川が驚いて凪川を見ている。凪川は僕を睨む。


「君がそんなに強いなら俺の存在意義は何だ!」

「知るか」

「何のために俺は戦っているんだ!」

「知るか」

「どうしてなにも守れないんだよ!」

「知るか」


 凪川の怒声に僕は全て「知るか」と答える。

 存在意義?戦う理由?どうして守れないか?そんなもの僕の知ったことではない。それは凪川の実力が引き起こしている事態で何も考えずに教えられていたことだけやり続けた結果だ。

 最初は教えられたことだけをやっていればいいかもしれない。だが自分で何もしなくていいというわけではない。むしろ考えない限り利用され続けるだけだ。


「お前の存在意義は誰かに決定されるものじゃないだろ。そんなもの僕たちに求めるな」

「―っ!」

「それに、世界を知ろうとしない人間が世界を背負おうとするな」

「……っ!」


 凪川はうつむいて、目から涙が落ちている。勇者と言う肩書に舞い上がっていたただの子供はいつか痛い目を見るんだ。いい勉強になっただろう。


 夢も実力が伴っていなければただの妄想。そして妄想に取りつかれて夢は悪夢に変わるんだ。それこそ、さっき凪川が見た夢のように。強くもないやつが全てを守ろうとした結果があれだ。


 傲慢なのは大いに結構。だが傲慢なだけならば駄々をこねている子供と変わらない。そしてこの世界は子供に背負えるほど簡単な世界じゃない。


「古今東西地球異世界夢現実現在過去未来凡人偉人天才秀才動物人間障害者健常者どこにおいても何においても自分の身を亡ぼすのは身の丈に合わない願望を実現させようとした奴だ」


 僕の言葉に凪川はうつむいたまま、肩を震わせる。そして顔を上げて思いっきり笑った。

 なんだ。壊れたか。


「そりゃそうだ!楽な道を進んでいた俺が険しい道を進んだ君に勝てるはずがない!何を夢見ていたんだ!」


 凪川は大声で笑い、そして自分の頬を両手で叩いた。パン!と言う音が診療室に響く。


「だったらやってやる!死ぬほど足掻いて俺の夢を実現させてやる!」


 凪川は立ち上がりる。決意したように立ち上がる。


「俺は、勇者だ!」


 そう、高々と宣言した。

 端から見るとかなりアレな人間の発言だがこの場合は間違ってはいないので特に何も言わないでおく。


「それで!浅守くん!」

「なんだ」

「俺はどうすればいい!?」

「知るか」


 立派なのは決意だけのようだった。何はともあれ凪川は起きた。戦力拡大にはなるだろうから結果オーライだろう。

 そういえばもう一人の生徒会役員である光海恵梨香はどこにいるのだろうか。

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