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魔導書製造者  作者: 樹
獣人族の攻防
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解呪

 凪川に封印がかけられているらしいと、昼頃になって分かった。寿命を縮める類のものではないらしいが解呪しないと永遠に目覚めないらしい。

 魔法名は『ディストピア』。見たくない現実から目をそらし続ける魔法。今の凪川に合致しすぎている魔法だ。


「解呪するにはどうしたらええの?」


 城の診療所に僕たちは集められ、谷川が土屋が解析で協力しつつ様々な魔法を試しているが一向に目を覚ます気配がない。

 色々試すこと三十分、とうとう二人がうなだれる。


「ディストピアは望む夢を見続ける魔法。故に夢に入って現実のほうがいいと思わせることが必要」


 電脳種の代表である少年が無表情にそういった。

 夢の中に入るか…いやだな。バカみたいな理想像ばかり見せられそうで。

 僕がどうにかしていかない理由を考えていると電脳種の少年はガチャガチャと機械らしきものをセットして、僕と谷川と土屋を残した全員が部屋の外に退避していた。


「あ」


 やられた。そう思った瞬間には僕たちの意識は消えて行った。



 目を覚ますと学校にいた。僕は教室の自分の席に座って授業を受けている。谷川と土屋はおらず校庭からは体育の授業を受けている生徒の声が聞こえた。


「なるほど」


 凪川はこういう夢を見ていたわけだ。何事もない学生生活を夢見ていたのだ。勇者召喚ではしゃいでいたやつが勝手なものだ。僕は席に座ったまま魔導書を呼び出してみた。天蛇の書は問題なく出現した。さてと…


「?どうした浅守」


 僕は立ち上がり教師とクラスの生徒の目線が集まる中天蛇の書を開いた。


「エクスプロージョン」


 教室が爆発する。生徒と教師は爆発に巻き込まれて吹き飛ぶ。教室には僕しか立っている人間がおらず僕の周りの生徒は原型すらとどめていない。教壇の上で教えていた教師も黒板や壁に血をまき散らして体の所々が破裂して血が噴き出していた。


「死ぬのか」


 意外にリアルだ。そう思ったら教室が光ってすべてが元通りになった。やっぱり夢は夢か。


「?どうした浅守」


 教師の質問を無視して僕は教室を出た。向かう場所は生徒会室。おそらく凪川はそこにいる。目を覚さまさせる方法は分からないが会いに行くことにした。それに凪川を殺したら何かあるかもしれないし。



 生徒会室に着いて扉を開けた。中では生徒会役員の面々、土屋と谷川までもが書類の整理をしていた。

 こいつらも夢の一部か?


「あ、燈義くん!」

「ようやく来てくれた!」


 二人が僕のほうに駆け寄ってくる。どうやら夢の一部ではないようだ。危うく焼き尽くすところだった。


「それ、どうする?」

「お前らほかに変なとこないか見て来い。話してみる」

「あ、うん」


 二人は僕の指示に素直に従って廊下をかけて行った。

 さて、あんまり音を立てないようにしないと。


「凪川」

「なんだい?」

「ちょっと死ね」


 ウィンドスピアで生徒会室に残っている三人の頭をぶち抜こうとして、凪川に止められた。と言うのも、凪川がいつの間にか僕の目の前に移動していて剣を僕の首筋に当てていたからだ。


「へぇ」


 僕は感心して思わず声を上げてしまう。手加減はいら無さそうだ。


「疾風迅雷」


 生徒会室どころかここら一体を吹き飛ばす勢いの威力を発動させたが凪川が剣を一振りしただけで消えてしまう。

 ここは凪川の夢だから凪川の思い通りにできるか。なんという面倒な空間だ。


「誰も、傷つけさせたりしない」

「それは現実で言ってくれ」


 僕は屋上にジャンプで移動して校舎を見回そうとするが、先回りしていた凪川に斬られかけとっさに飛び降りたもののもうすでに下で凪川が待ち構えていた。


「ちっ」


 どこにジャンプしても先回りされる。凪川が放った光の斬撃を疾風迅雷で相殺しつつ僕は勝つ算段を立てる。

 土屋と谷川は…いないな。弾かれたわけではないだろうが助けに入れる状況ではないらしい。


「これで終わりだ!」

「しまっ―」


 考え事をしていると目の前に凪川が現れ、僕は光の斬撃をモロにくらってしまった。激しい痛みと息苦しさを覚えつつ地面に落下して激突。受けたことない衝撃を受けて僕は肺の空気をすべて外に吐き出したような感覚に襲われる。


「世界は俺が守る」


 そう言い残して凪川は消え、戦闘で破壊された場所も元通りになった。

 痛い…夢だから死ぬことはないだろうが痛覚は再現されているらしくかなり痛い。


「居心地よすぎるだろ…」


 このふざけた空間では凪川は神に等しい能力を発揮する。そんな場所から引っ張り出すなんてできるのかよ。


『通じました』

「あ?」


 頭の中に声が響く。この声はあの電脳種の少年だ。


『すいません。回線を繋げるのに時間かかりました』

「みたいだな」


 僕は体を起こし、近くにあったベンチに座った。


『通話の時間も限られているので短く話します。勇者が絶対に勝てないと思うものを思い描いてください』

「どういう…切れた」


 通話は終了してしまった。

 凪川が勝てそうにないものか…神に等しい能力で僕のよく知っている存在…


「あいつか…」


 正直、気が進まない。だが他に手があるわけでもない。やるしかないか…


「楽しい夢を悪夢に」


 僕はそいつの姿を思い浮かべる。ほどなくして空が黒く染まり、それが姿を現した。

 思いっきりぶっ壊してやる。僕はそれの頭の上に移動して教室から顔を出している生徒を見る。


「全力でぶっ壊せ。アペピ」

「オォォォォォォォォ!」


 アペピが咆哮を上げると校舎が揺れた。

 仕返しだ。クソッタレめ。

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