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魔導書製造者  作者: 樹
獣人族の攻防
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制裁

 私がギアトさんに矢の情報を教え、悠子ちゃんが回復させる。そんなことを繰り返している。

 どうしよう!何か打開策を見つけないとジリ貧だよ!それに…


「あはははは!役に立って見せますよ!勇也!」


 なんだか恵梨香さんが怖いよ!狂気というより狂喜の目をしてるよ!勇也くんと何があったの!?

 さすがに悠子ちゃんも疲れてきてるし、恵梨香さんの矢の本数も増えてる。どうにかしないとやられちゃう。


「どうする!?このままじゃ埒が明かんよ!?」

「そんなこと言ったって!」


 恵梨香さんを見て考える。

 燈義くんならどうする!?考えなくちゃ!この部屋の形、持ってる武器、敵の数、スキルと味方!どうすれば…!……あ!


「二人とも!耳塞いで!」


 私は初心の書を取り出して二人が耳をふさいだのを確認し、ソングウェーブを発動した。フェルちゃんとの戦いのときに使った魔法で、ドーム状のこの空間なら効果は抜群のはず。それに『酔い』は異常状態に含まれないから回復はされない。


「ギアトさん!」

「よくやった!」


 突然の酔いに混乱している恵梨香さんにギアトさんが迫る。ギアトさんは剣の柄の部分で恵梨香さんを殴った。恵梨香さんは気絶して後ろに倒れる。

 た、倒した…?やった!?


「先を急ごう!」

「そうやね!」

「今行きますぞ!姫様!」


 三人は扉を開けて先に進む。


 やっぱり負けたか。とマリアは恵梨香を担ぎ上げた。気絶している恵梨香を治療して予定通りの地点へ移動を開始する。次は凪川裕也だ。マリアは姿を消した。



 僕はフェルとキクウと合流し廊下を歩いている。土屋たちは無事救出できたらしく先ほど連絡が来た。これで無事に帰れれば作戦は成功だしここにいる意味もほぼなくなったが、城内に入れることはそうなさそうなので愚王に勇者召喚についていろいろと聞くことにした。


「いませんね」

「いないな」


 愚王は隠れているらしく全く見つからない。護衛の兵士を構えて「迎え撃てー!」くらいのことをしていそうだが、小心者だから隠れているのか。よくそんなんで他国と戦争しようとしたもんだ。


「そろそろ帰還時間です」

「そうか」


 時間が経ってまた勇者が起きると困るからそろそろ移動するか。

 僕は城を出ようと壁から飛び降りようとしたとき、赤いマントが城の横を通り過ぎるのが見えた。

 見つけた。

 僕はすぐに飛び降りて愚王が通り過ぎたであろう道を曲がってみると目の前に鎧と剣を構えた男がいた。


「我こそは騎士長―」

「どけ」


 ウォーターカッターが男の体を貫いて男は倒れた。死んではいないがとどめをさしている暇はないので先を急ぐことにした。フェルが後からついて来る。キクウは追ってきている兵士を空から倒しているらしい。


「見つけたぞ愚王」

「ひ、ひぃぃぃぃ!?」


 愚王は壁に阻まれて僕たちに追い込まれた。愚王は僕たちを睨んで腰のやけに豪華な剣を抜いた。しかしその剣はフェルによって弾かれた。

 本当に、くだらない人間だ。


「愚王、僕を覚えているな?」

「な、なぜ貴様…!死んだのでは…!」

「残念。生きてるよ」


 僕は愚王に詰め寄り腹をけって倒し、鳩尾を踏んで起き上がれないようにする。

 さて、尋問タイムだ。


「知っていることを答えろ。それ以外の行動は敵対行為とみなす」


 僕の言葉に愚王は涙目になりながら答えた。


「一つ、勇者召喚の魔法は誰から教えてもらった?」

「か、影と呼ばれる魔導士だ」

「どんな奴だ?」

「分からない!何も知らない!」


 愚王は喚いて必死に命乞いを始める。「金ならいくらでもやる」だの「望むものはそろえる」だの「雇われないか?」だのテンプレともいえる命乞いを続けている愚王を見下しつつ僕は足を振り上げ、振り下ろした。

 用済みだ。


「行くぞフェル」


 僕は歩き出す。フェルの横を通り過ぎてその場を後にしようとして、フェルが付いてこないのを疑問に思った。呼びかけてみても反応がない。

 おかしい…フェルだけじゃない。これは…音がない!騒いでいた兵士の声も、燃えている城の音も、風の音さえもない。

 それに、落ちている木の葉が空中で停止している!これはまるで時間が―


「止めたよ」


 空中で声がした。ぐもった男の声だ。僕が見上げるとゆらゆらと黒い何かが浮いていた。

 あれが影か、と理解する。僕は魔導書を構えようとしてやめた。

 勝てない。マリヤよりも上だと思う。敵意を見せないのが一番だ。


「いい選択だ」


 影が黒い腕のようなものを空に向かってあげた。すると街から、貧民街のほうから光の柱が何本もたって貧民街を埋め尽くして消えた。何が起きたのか理解ができず影を見てみると影は変わらずそこに浮かんでいる。

 なにをした!?


「世界を書き換えた」

「書き換え…?」

「ここは、自分の世界だ」


 自分の世界という言葉が僕の脳に染み込むように沈んでいく。

 自分の世界。つまるところの、こいつこそが創造主。この世界を創った存在で僕がいつか踏破しなくてはいけない存在。しかし、なぜだろうか


 この影から、親近感がわいてくるのは。


「では」


 影は消えて、世界は動き出す。音があふれ出して木の葉は下に落ちる。フェルも動き出した。

 世界を操った。僕の目の前で。


「どうかしましたか?」

「…ラスボスの恐ろしさをな」


 冷や汗をかきながら答える。

 あいつを倒さなくちゃいけないのか…


「燈義くん!」


 前から声が聞こえる。土屋が焦った声を出しながら僕たちのほうに近づいてきた。


「どうした?」

「止まったよ!」


 土屋の言った言葉に僕は驚いた。しかし考えてみれば当たり前のことだ。あいつが操れるのはこの世界であって、異世界から来た僕たちは操ることはできないのだ。おそらく勇者も止まっていないのだろう。


「冗談じゃないぞ…」


 もし、あいつを倒すのに勇者たちの力が必要なのだとしたら、この状況はかなり不味い。

 僕はできるだけそのような未来を考えないようにしながらその場を離れた。

 そういえば、勇者たちはどうなったのだろうと一瞬思ったが特に気にするとこでもないと思えたので考えないようにした。

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