会合
城の壁が爆発させた。下にいた兵士が慌てた声を出して逃げまどっている。やったのはもちろん僕たちで兵士たちが集まるようにわざと大きな音を立てる魔法を使いつつ歩いて廊下を移動する。
僕たちを見つけた兵士たちが僕たちに向かってくるもののフェルとキクウが吹き飛ばしたりして近づいて来られる兵士はいない。この国の軍事力の低さに正直驚いている。
「警戒すべきは勇者か」
勇者、凪川裕也と光海恵梨香の能力は谷川から聞いている。岡浦美鈴が破壊の勇者だとすればここにいる可能性は少ないからこの二人には要注意だ。
僕は召喚された日に通った道を通って愚王のいた王室に向かうことにした。愚王はおそらくいないだろうが王室を破壊すれば結構目立つはずだ。
「燈義さん」
フェルが廊下の前方を見て僕を制止する。僕は廊下の前方、壁が破壊されたことにより月明かりが差し込んでいる廊下の先にいる人物を見て、天蛇の書を構えた。
「久しぶりだな。凪川裕也」
「何をしているんだ…!浅守燈義!」
凪川が怒鳴り、剣を構えて僕を睨む。フェルとキクウは打ち合わせ通り来た道を戻り破壊を再開した。
涼しい顔をしている僕に凪川が恨みのこもった目線を送る。
「変わったな凪川。そこまで殺気を出せるようになるとは、驚くよ」
「君こそ変わったじゃないか!こんなことして!」
「こんなことって」
僕は後ろから襲ってきた兵士の心臓にウィンドスピアを刺した。兵士は少し後ろに吹っ飛び鎧と手に持っていた剣を残して消えた。
そして僕は凪川を嘲笑する。
「こういう事か?」
「―っ!」
凪川が声にならない叫びをあげて剣に光が集まる。そして全速力で突っ込んできた。僕も魔法を発動させる。
光が僕の眼前に迫り―
私たちは姫様が囚われている場所を探しながら廊下を走っていた。ほとんどの敵は燈義くんが引きつけてくれるし、私のスキルがあれば誰がどこにいるのかが大体わかるから敵対しなくて済む。
「止まってください!」
私は思わず声を上げた。長く続く直線状の廊下の真ん中あたりに赤い水晶が置いてあった。赤い水晶からは魔力が出ていて、光る。
そこから出てきたのは、教皇だった。
「久しぶりね」
「ギアトさん、これ映像だよ!」
襲い掛かろうとしたギアトさんを制止して教皇と向き合う。教皇はにっこりと笑った。
「この先に大きなドーム状の部屋があるわ。そこに弓の勇者がいる。その先に姫様がいるわ」
「恵梨香さん…」
悠子ちゃんが呟く。
恵梨香さんか…燈義くんからは容赦しなくてもいいって言われたけど、話し合えるんなら話し合いで解決したいな。
そんなことを思っていると質問を受け付けることなく教皇は消えた。水晶は割れている。
「行こう!」
悠子ちゃんとギアトさんが頷く。私たちは先に進んだ。
教皇の言った通り部屋の先にはドーム状の部屋があり、その先の扉の前に弓を携えた恵梨香さんがいた。
解析できない。恵梨香さんのレベルは私よりも上だ。だから私と悠子ちゃんは柱の陰に隠れた。ウルの弓は必中。姿を見せれば撃ち抜かれる。
「あなたは、誰ですか?」
「ギアト。その先にいる姫の従者じゃ」
「そうですか」
そう言うなり恵梨香さんは矢を構えて放った。矢はギアトさん目がけて一直線に飛んでいく。ギアトさんは動じることなく少し体をそらして矢をかすらせた。かっすた矢は失速して落ちる。
燈義くんの読み通りだ。当たれば必中の効果は失われる。だったらかすらせればいい。傷が増えたら悠子ちゃんが治してくれるし、恵梨香さんが使った魔法は解析できなくても放った矢の本数と方向ならなんとか分かる。それとギアトさんの戦闘能力が合わされば必ず勝てる。
「待っていてくださいね。必ず助けますから」
「へ?」
恵梨香さんの言葉に疑問を感じるものの飛んできた矢を見てすぐに思考を切り替える。
恵梨香さんの狂気に満ちた目を見ながら気を引き締めた。
僕のいた場所を光が抉った。僕は転送魔法で凪川の背後を取る。
なんだ。ただでかい攻撃を繰り返すだけか。
「その程度じゃ僕を殺せない」
「っあ!」
凪川は振り向きかなが剣を横凪に振って光の一閃が僕を襲う。僕は中級魔法であるジャンプを使ってまた凪川の背後に転移した。ジャンプは短い距離を移動する転送魔法で、再使用までの時間制限がない。アペピは自分の放った魔法をジャンプで転送させていたが、さすがにそこまでの魔法操作はできない。
「今度はこっちから行くぞ」
疾風迅雷を受けた凪川は壁を突き破って吹き飛ぶ。さすがにこの程度じゃ死なないだろうから僕はウィンドスピアにを炎を追加したバーニングスピアを五本ほど出して地面に向けて発射した。
下から轟音が響く。そして静寂。
「死んだか…?」
まさか、死んだ?凪川が死なれると結構困ることになるんだが。
僕は生死を確認しようと穴の開いた壁から下を覗いてみると、壁をすごい勢いで走って来ている凪川と目があった。思いっきり後ろに跳ぶと僕の額を光の閃光がかすめる。少し血が出たもののすぐに止まった。
「油断した…気を付けよう」
凪川が生きていたことの安堵感と危なかったという危機感を覚える。僕は壁を登ってきた凪川と向かい合った。
「クソ…!なんで勝てないんだ!」
「なんでって、決まってるだろ」
そんなことも分からないのかと、僕は凪川を見下す。そして酷く冷たい声で言い放った。
「無知がが、既知に勝てるわけないだろ。常識で考えろ」
僕は知っている。死ぬことへの恐怖を知っている。最初に蛇に追いかけられた時とアペピの時に死にかけている。正直生きているのが不思議なくらいの体験をしている。
そして、僕は今のままでは勝てない奴がいることも知っている。例えばマリアと名乗る女、例えば姫に忠誠を尽くすギアト。
「勇者こそ最強なんて概念はゲームの中だけだ」
現実見ろ。
僕はオーバーパワーを使って身体強化して凪川に突っ込んだ。凪川はとっさに剣でガードしようとするがジャンプを使って背後の回る。そして自分の足にセットウィンドを使って凪川の横腹を蹴った。凪川は吹っ飛んで壁に当たり、気絶した。
「勇者がやったことがすべて正しくなることなんてないんだよ。現実逃避者」
ため息をついて一応凪川を拘束してその場を後にしようとする。が、後ろからブチッと拘束が破られる音がした。驚いて振り向くとふらふらになりながら立ち上がる凪川がいた。
もう回復している…勇者の能力か。
「俺は、勇者だ!」
「知ってるよ」
でもお前は知らないだろ?僕が勇者に負けず劣らない存在だったことを。
剣を振り上げて光を放つ。僕はその光を避けることなく真正面から受け止めた。
「ダークホール。これが今の僕の使える最大の防御魔法だ」
光を飲み込むブラックホールのような穴に光は阻まれ、消える。その向こうに悔しそうな凪川が見えた。
「一つアドバイスだ」
「く、くそぉぉぉぉぉぉ!」
「戦いは冷静にな」
全く聞いていそうにない凪川に向かってついさっき考えた魔法を行使する。使うのはすべて中級魔法のウィンドウェーブ、クラッシュオート、ピースマジック。
「百連掌」
巨大な風が圧縮され分解される。百近くの衝撃となって凪川を襲う。凪川は後ろの壁に吹っ飛んでもなお衝撃を喰らい続け、今度こそ動かなくなった。
僕は拘束魔法を使うことなくその場を後にした。