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魔導書製造者  作者: 樹
獣人族の攻防
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偽装

 全員の、谷川と土屋の目線までもが僕に集まる。別に変なことではない。持っている情報とこいつらの戦力を合わせれば不可能なことではないのだ。ただ情報がないと犠牲者と負ける可能性が増えるが。


「では、君たちには必勝の策があるとでも?」

「戦に必勝はありません。ですが、勝つ可能性を限界まで引き上げることはできます」


 全員が僕の話に食いついた。もったいぶるのもなんだし言ってしまおうか。どちらにせよ全員が大体の予想はついているようだし。

 だからこそ、僕ははっきりと言い放つ。


「人間側に召喚された勇者を拉致しましょう」

「…時間がない」

「ですね。だから拉致のほうは僕たちに任せてください。顔知ってますし」


 各部族の代表が考えこんでいる。案としては悪い案じゃないと思う。少数精鋭なら潜入も楽だろうしフェル以外は人間だ。城に入るにしても谷川が居れば何とかなる確率が増える。

 それに、岡浦に何があったのかを知るには絶好の機会だ。


「できるのか?」

「できなければ生意気な人間が減るだけのことですよ」


 再び全員が考え込む。

 そして、結論が出た。



 会議が終わり僕たちは部屋に案内された。部屋には畳が敷かれており四人部屋となっている。従者付きでルグルスに来たのはエルフ代表の僕たちと小妖精たちだけらしい。

 とはいっても小妖精は使者としてきたのではなくここに逃げ込んできたのだが。


 会議の結論は、僕たちは勇者を拉致することに決定し、見張り役としてあの八咫烏の二人が付き添うことになった。作戦決行はいろいろ準備があって明後日になる。


「男女が同じ部屋なんて…不潔や!」

「私たちにとっては今更なんだよね…」


 谷川が喚いているが放っておこう。

 それにしてもこの世界、どうして男女で部屋が一緒なんだ。使者だからか?僕はどっちでもいいけれど土屋と谷川がうるさいのが癪だ。


「外に出てくる」

「あ、私も―」

「一人でいたいんだよ」


 ついて来ようとする部屋に残して僕は部屋の外に出た。廊下を歩きつつ窓から外を見る。

 本当にタイムスリップしてしまったような街並みだな。獣人族も江戸時代の人間のような生活をしているし。ドラマなどでしか見たことないから本当にそういう生活を送っていたかどうかはどうかわからないけれど。


「おや、エルフの方、散歩かね?」

「小妖精の爺さんか」


 目の前の曲がり角から曲がってきた小妖精の代表である爺さんとばったり会ってしまった。爺さんは朗らかに笑っている。

 そういてば小妖精も従者がいたんだよな。爺さん一人ってことは従者は部屋で待機しているのか。


「ワシはギアトと言う」

「そうか。それで、ギアトの爺さんは何してるんだ?」

「気を、紛らわせようとな」


 ギアトはどこか遠い目をして呟いた。占領された母国を思い出しているのだろうか。


「破壊の勇者を、人間を恨んでいるのか?」

「恨んでおるよ」


 はっきりと言った。

 まぁ、恨んでいるんだろうな。自分の住んでいた場所を急に破壊され、占領されたなら恨むもの仕方がないことか。


「俺も憎らしいか?」

「お主はエルフの使者じゃろう?」


 ギアトはまた朗らかに笑った。

 公私混同はしてはいけないとはいえ俺のことをここまではっきりと区別できているのは凄いと思う。


「そういえば、ギアトの従者は誰なんだ?」

「いや、ワシが従者なのじゃよ」

「ほぉ?じゃ、あんたの主は誰なんだ?」

「小妖精の姫君とだけしか言えんし、会わせんよ」


 急に真剣な顔になったギアトが僕を睨む。僕は怯むことなくギアトの通ってきた廊下の先を見る。その先の部屋に小妖精の姫がいるんだろうか。興味はないが破壊の勇者のことを聞くのなら会っておいたほうがいいのだろうか。

 しかし、僕は目の前の老人を倒せる気がしなかった。殺気とかで表現されるであろう気配が僕の全身を叩いている。

 強いな。と自覚させられた。


「会わないよ。殺されたくない」

「利口で助かる」


 無抵抗を表すために両手を上げるとギアトの殺気は消えた。特に話すこともなくなったので先に行こうとする。

 ドン!とすごい音がして振り向くと、ギアトはいなかった。ギアトの来た廊下を見るとすごい速さで走っていくギアトが見えた。

 その顔は焦りに染まっていて、ただ事じゃないことが分かったので僕もそのあとに続く。ギアトは僕がまだ廊下の半分の地点にいるというのにもう廊下の端の部屋に着いてて、襖を蹴破った。


「あら?」

「貴様ぁ!」


 そも部屋はギアトたちの部屋だったようで、壁に大きな穴が開いていた。そこには褐色の肌をした少女を担いでいる、女性。

 僕はその女性の姿と声を目でとらえ、耳で聞いて絶句した。


「教皇…?」


 おそらく人生で初めてここまで間の抜けた声を出したと思う。その女性は、まぎれもなく僕の目の前で死んだ教皇で、しっかりと僕の目の前に立っていた。


「お久しぶりね。トーギくん」

「…もう一回死ね」


 僕はこちらを見て微笑を浮かべる教皇に向かってウィンドスピアを飛ばすものの教皇に避けられてしまう。

 驚きはしたものの気にすることじゃない。こいつは敵なのだから。それにこいつのスキルは僕に効かない。

 だからこそ僕は、後方支援に回ることにした。


「ギアト!後方支援するからそいつを殺せ!」

「承知した!」


 只者ではないと感じたギアトは僕の言葉に即答する。僕は中級魔法、アウトオーバーという自分ではなく誰か一人を身体強化する魔法を使いギアトの身体能力を上げた。教皇は無表情になって担いでいる姫を外に放り投げた。


「な!?」

「罠だ!」


 ギアトが驚愕の声を上げて走り出そうとするのを僕は声で制す。ギアトは立ち止まり恐る恐る姫の落ちたであろう下を見る。

 そこに姫の死体はなかった。というより姫自身いなかった。


「転移したわ」

「…どこに、やった?」

「そうね…破壊の勇者がいたところ」


 教皇はにやりと笑った。ギアトは殺気を爆発させ教皇に襲い掛かる。ギアトの拳は教皇の体をとらえたが教皇の体は透けて消えてしまい、そこにいるのは小さな人形。

 幻想魔法…いや偽装のスキル!?僕にも効果を発揮するのか!?


「ならば全体攻撃で!」


 ギアトは体中から魔力を放出させて竜巻を作った。部屋の中を鋭い風が切り裂いていく。所々バラバラになった部屋の中の中央にギアトはいて、教皇の姿はない。どこに行った?


「ここだよ」


 僕の後ろからの言葉に反射的にウォーターカッターを発動させるものの教皇はもう僕の後ろにいなかった。

 まさか、この空間に偽装をかけて自分自身を複製しているのか?


「今日はこのくらいにしておくわ。それじゃ、頑張ってねー」


 出現した教皇は破壊された壁から飛び降りて転送された。

 完敗だな…なんだよあいつ。強すぎるじゃないか。


「破壊の勇者のいた場所ね…」


 多分、あの愚王のところなんだろうな。だとしたら破壊の勇者は岡浦で間違いないのか。どちらにせよ、人間領に乗り込まなければいけなくなったわけだ。今すぐにでも。


「ギアト。作戦を明後日から明日にするがどうする?」

「もちろん参加させてもらおう」


 ギアトは自責と決意と怒りの目で僕を見る。すぐに人が集まってきて再び会議が開かれた。どうやら教皇はこの城全部に偽装を使っていて全員僕たちが戦っていたことに気が付かなかったらしい。


 一時間の会議の後、僕たち、八咫烏の二人そしてギアトが作戦部隊となった。決行は深夜一時ごろ。

 さて、勇者やってる生徒会長を嘲笑って愚王を殴って尋問して完膚なきまでに叩き落とした後に殺しに行くとしよう。

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