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魔導書製造者  作者: 樹
獣人族の攻防
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獣人

 三体に襲われてから歩き始めて十五分。どこまでも続いている草原の景色に飽きつつ土屋の話を聞き流しているとまた上空から誰かが飛んできた。

 敵か?

 飛んできたのは二体。黒い翼で両方とも槍を持っている。足は三本あり男だ。八咫烏か?


「獣人側の使者です!」


 案内役の運転手が声を上げ、両手を振ってこちらに呼んでいる。二体の烏男はこちらに下りてきた。

 二十代半ば、トーレイと同い年ぐらいだ。顔がそっくり…双子か。


「我ら、ルグルスの外務官、八咫烏のハヤノとキクウという」

「使者殿、なぜ歩いておられる?」


 二人は自己紹介をして運転手は道中で襲われたことを二人に話し、証拠であるフォンから預かっていた紹介文を使者に見せ使者は紹介文を見て一つ頷いた。


「破壊神の下僕の手がここまで伸びていたのか。すまない。我々の失態だ」

「破壊神ってのはヒュガスを占領した女のことなんだよな」

「そうだ。一夜にしてヒュガスを占領してしまった力にあやかろうと一部の者たちがヒュガスに移動している。もう破壊神と接触して下僕を名乗り調子に乗って旅人を襲う者もおる」


 だからさっきの三体は襲ってきたのか。しかし早いな。兵力を整えるにはもう少し時間がかかると思っていたが予想よりも早く戦争になるかもしれない。

 使者は車を呼んでくると言って飛んで行ってしまった。それから五分もしないうちに車が来た。僕たちは車に乗り込みルグルスへ向かう。

 予想以上に面倒なことになりそうだと感じつつルグルス行の馬車は揺れる。



 ルグルスは日本のような街並みだった。歴史ドラマに登場する江戸時代の街並み。今まで現実離れした街並みを見てきたので正直、面食らった。

 車は大通りを一直線に進んでいき着いた先は、城。まさに日本の城。


「「江戸城…?」」

「違うはずだ」


 土屋と谷川が疑問の声を上げる。確信はないが。しかし、見事に再現してあるな。この城だけでなくこの街並み。まさに地球を基準としている。違うのは魔法と人間以上の種族と文明があること、そして神話が反映されているということ。


「この世界の秘密っていうのと関係あるんやろか…」

「多分ねー…」


 二人は見慣れすぎている光景に圧倒されている。車は城の前で停止して、城門がゆっくりと開いてから中に入って行った。城の中は日本庭園のような庭が広がり、頭に猫耳やら背中に羽やらをはやした獣人が忙しそうに通り過ぎていく。


「到着いたしました」

「ご苦労様」


 僕たちは車から降りて周りを見回す。池とか岩とか、しっかり日本庭園だ。枯山水までありやがる。

 それに、あれは五重塔か?


「修学旅行みたい…」

「そんだけ楽しかったらええんやけどね」


 実際、観光を楽しめる状況じゃない。谷川と土屋は気づいていないようだがさっきから城の中にいる獣人がこっちを見ている。悪意のこもった眼でこちらを見ている。

 とことん嫌われてるな。人間って種族は。破壊神が勇者だとしたらさらに嫌われるんだろうな。


「愚王、大変だな」


 僕は呆れて呟いた。今回の事件が解決しても勇者はほかの種族に受け入れられそうにない。



 城内に入り階段を上がっていく。最上階である天守閣によく時代劇などで見る殿様がいるような大きな部屋があった。そこには人間とアトランティス以外の三種族の代表がおり、静かに座っている。獣人の代表はまだ来ていないらしい。

 小妖精の爺さんに電脳種の少年、そして魔族と思われる女。

 電脳種とは人間と同じような体格をしているロボットだ。発明を生業とする種族で、分析能力に長けていている。その頭脳はオアツトク一で独自に開発した魔導科学道具という地球でいう科学製品を行使する。ただ動力は電気ではなく魔力なのだが。


「エルフの使者は噂に聞く人間かの?」

「そうだ。エルフの使者としてこの会議に参加するトーギ=アサガミとミツキ=ツチヤ。従者のフェルとユウコ=タニカワだ」


 谷川たちは従者ということで入れてもらった。用意されている椅子に座りこれで獣人族の代表を待つばかりとなった。


 五分後、獣人族の代表が入ってきた。

 九尾の狐だった。


「獣人族代表にして族長であるタマモという者です。今日は集まっていただきありがたく存じます」


 族長は丁寧に頭を下げた。見た目は二十代半ばでフォンよりも少し上か。しかし九尾の狐、タマモ、玉藻御前といえば数々の物語で登場する伝説の妖怪。今まで読んだ小説のことを考えるとかなり長生きなのだろうか。

 タマモも座布団に座り会議が開始される。議題はもちろん破壊神、破壊の勇者を名乗る女について。


「破壊の勇者とは、最近人間が召喚した勇者ではないのかと言われておるし、ワシもそう思っておるが、どうじゃ?」


 最初に話し始めたのは小妖精の爺さんだった。爺さんの質問は僕たちに向けられておりその場にいる全員が僕たちのほうを向く。

 僕は少し考え「証拠がないのでお答えしかねます」と答えた。全員は納得していないものの証拠がないのも事実なので黙る。

 今度は僕の番だ。


「小妖精の代表に問います。破壊の勇者は一体どのような力を使いましたか?」

「槍じゃ。赤い槍を持った女が現れて槍を振るうと周りが火の海になった。我々は逃げまどい多くの民が殺され、また服従させられた」

「問います。服従した民たちはどのような目的で使われると思いますか?」

「おそらく武器の生成じゃろう。小妖精は武器を売って生きておる」


 なるほど。まずは武器を作っている小妖精を抑えて自分の戦力を上げようとしているのか。こいつは本当に急がないとな。人間と戦う前に滅んでしまうかもしれない。


「では、わたしからも質問を」


 発言したのは魔族の代表だった。質問されるのは僕たちだけではなく全員に向けてのようだ。


「この戦い、勝つ見込みはありますか?」

「ある」


 真っ先に答えたのは僕だ。全員の目線が僕に集まる。僕は堂々と言い切った。


「皆さんだけでは勝てなくても、僕たちが居れば勝てます」


 僕の確信めいた発言に全員が目を丸くした。

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