使者
城の王室、フォンの言葉に突っ込みを入れた後に僕たちは椅子に座った。フォンも水を飲みながら一息ついている。
入室してすぐに「獣人族の国に行ってくれ」と言われた僕たちは話を聞くべくフォンと向き合っていた。
「獣人族の国、ルグルスへ使者として行ってほしい」
「理由は?」
「早朝、このような手紙が送られてきた」
フォンは一枚の手紙を僕たちに渡した。差出人は書かれておらずフォンによれば資料整理しているといきなり出現したらしい。
僕は手紙を開いてみた。
『宣戦布告』
『三番目に国をもらいます。
破壊の勇者』
たったこれだけの文だった。三番目ってことは一番目と二番目があるってことだよな。
「一番目と書いてあった岩窟国ヒュガス、小妖精の国はもう占領された」
「…いつ?」
「報告が上がったのは深夜。およそ二時間で占領され逃げられた住民は五百人程度らしい」
「ヒュガスの人口は七千人ちょっとだよな…」
随分とやってくれたらしい。一番目が潰れたとしたら二番目はルグルスってことか。
でもなんで僕たちを?
「破壊の勇者というのは分からんが勇者と名乗っている以上君たちの仲間である可能性は高い」
「情報提供してこいと?」
「それも理由の一つだ。丁度、勇者様もいることだしな」
フォンは谷川を見る。谷川は何か反応をするかと思ったが手紙の文章を凝視して何かつぶやいている。たまに聞こえる「そんな…」という言葉からどうやら本当に勇者たちに関係のあることなのかもそれない。
何やってんだよあの生徒会長様は。
「この件に関して、獣人族も人間の勇者が犯人だと睨んでいる」
「だろうな」
「そしてエルフにも人間が、勇者様と巻き込まれた者がいる。まぁ…そういうことだ」
フォンは言葉を濁したが僕たち全員が理解できた。エルフはは悪神襲来で大打撃を受けて復興の最中だ。もし人間に加担していると思われでもして攻められでもしたら対処しきれない。だから僕たちを使者として使わせて無実を証明するつもりなのだろう。
ま、この国が戦争になるといろいろと困るから僕たちはそれでもいいけど。
「分かった。受けよう」
「ありがとう。礼についてはまた」
「それより」
僕はフォンをしっかりと見て言った。
「大図書館、入れろ」
「…許可証、あるよ」
僕の言葉に「相変わらずだな」と笑うフォンから許可証である丸く、緑色に光る石をもらって王室を出る。
相変わらず落ち込んでいる谷川を土屋とフェルに任せて僕は大図書館の入口がある地下道へと急ぐ。
地下道というのは地下牢や地下室がある場所と、大図書館につながる二つがある。大図書館の規模は王都全体に及び、悪神襲来でえぐれた地面よりもさらに地下にあるらしいので被害は受けていないらしい。
大図書館は建国した当時、百年かかって造り様々な国から本や石版を集めているらしい。だから内蔵されている書物はエルフのものだけでなく魔族のものや人間のものもあるらしい。
だが、アトランティスの本はないらしいが。
「大図書館に行くにも一苦労だな…」
人一人が何とか通れる程度の地下道を下り始めてもう十五分にもなる。正直こんな地下に図書館があることに驚いている。よく造ったなと褒めたくなるほどだ。
「あ、扉だ」
下り始めて三十分、ようやく踊り場とその先にある扉が見えた。巨大な扉の前まで行って扉の隣にある石版の中央に穴が開いている部分があり、そこに通行証をはめ込んだ。すると重々しい扉がゆっくりと開く。
目に飛び込んできたのは、輝く黄金の、部屋。
「すごいな…」
目を疑う光景だ。黄金の部屋はどこまでも続いていて暗い場所などなく、松明もないのに部屋全体が見渡せるほどの明るさだった。魔法か。
僕は近くにある木でできた本棚から本を手に取った。その本はエルフの古代民話の原本ようで、悪神のことや昔から伝えらえている民話や伝承が書いてある。
「できることなら毎日通いたいな…」
僕は本棚の間を歩きながら本を手に取っていく。ここになら何週間でもいられる気がした。
燈義くんが大図書館で本を読んでいる間、私は悠子ちゃんやフェルちゃんと一緒に部屋に戻っていた。俯いている悠子ちゃんを何とか元気にしようと色々と話をしたが一向に元気になってくれない。
大丈夫かな…
「悠子ちゃん、破壊の勇者って…」
「うん…鈴っちのことやね」
鈴っち、岡浦美鈴さん。勇也くんの幼馴染の気の強い女の子。
悠子ちゃんによれば美鈴さんはグングニルという槍を使っているらしく、その槍は触れたものすべてを破壊する槍を使っているらしい。
だから、破壊の勇者。
「信じられへんよ…確かに気の強いとこはあったけど…」
「うん…だよね」
二人で落ち込んでしまった。
って!ダメだよ!私が励まさなくちゃ!
何とかして面白い話題を見つけようとしてもフェルちゃんはあんまり話すほうじゃないからあてにならないし、この世界に来て別々に行動してたから共通の話題も…
「浅守くんって、どんなん?」
悠子ちゃんが話しかけてくれた。
燈義くん…えっと…
「なんていうか…変な人」
「確かに変やね」
浅守燈義は変や人だというのは私たちの共通認識らしい。何考えてるかわからないし指示を出すかと思えば一人で何でもしちゃうし…変な人。
「でも、優しいよ」
「そうみたいやね」
悠子ちゃんはくすくすと笑う。その後、学校の話題などで盛り上がった。
悠子ちゃん、少しは元気でたかな…
僕が大図書館に入って三時間ほどが過ぎた。本を読んでは戻し、読んでは戻しを繰り返し、様々な国の民話や伝承、経済学や軍記物語、ファンタジー物語に至るまで読み漁りこの世界の大体のことは分かった。
この世界の根幹は地球である。これが事実であるとしたら今まで読んだ本の内容の説明が、地球の神話に基づいていることに説明がつく。
「あー…なんなんだよ…この世界は…」
頭を抱えるが考えてもしょうがない。さらに知識を集めるために僕はもっと本を読み漁ることにした。
大図書館から出たのは、夜になってからだった。
明日には使者として獣人族に会うんだ。今日は休んでおこう。