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魔導書製造者  作者: 樹
獣人族の攻防
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戦後

 目を覚ますと、やはり夜だった。前に僕たちに用意された部屋に寝かされておりおそらく時間は十二時。右隣には土屋が寝ていて左隣にはフェルが寝ており、どちらも僕の胴体に抱き着いている。

 これは、誰もが羨む状況とでもいうのだろうか。僕は体を起こしてあの魔導書を取り出す。

 『天蛇の書』と名付けたアペピの能力を宿した魔導書を開いてみる。予想通り、ほとんどの魔法は使えなかった。魔導書は僕のレベルによって魔法が解放される。今の僕のレベルでは中級魔法が使える程度だ。天候を操ることなどできない。


トーギ=アサカミ

 男 17歳 Lv 30

HP 1000/1000

 〈スキル〉

 魔導書館

 

 レベル30か…HPも四桁台に突入し、どんどんと強くなっていることも分かってきた。

 アペピは討伐していないので経験値には入らなかったらしい。入ったらレベルがカンストしそうだけど。


「本当によく生きてるな」

「そうですね」


 フェルが起きていた。それでも寝転がっていて僕の胴体に抱き着いている。

 離す気力すら起きなかったのでそのままにして話を進めることにした。


「状況は?」

「日食が終わり、結界が完全復活するまで十時間の時間を要しましたが無事回復して兵士の皆さんは警戒態勢を解いて就寝しております。城は半分は半壊し、大聖堂は全壊。王都自体は二割が破壊されたものの全員でかかって一か月で復興できるそうです。避難していた住民も明日一日かけて戻ってきます」

「そうか」


 フェルは状況説明を一通り終えた。

 王都放棄まで考えていたのに結構いい状況じゃないか。復興には一か月かかるらしいが無限の資源が約束されている魔族と貿易しているのなら資材に関しては問題ないのだろう。

 あとは人手だが…面倒な奴が街に入り込まないといいけど。


「直接見てくる。土屋を見ておいてくれ」

「お一人で大丈夫ですか?」

「問題ない。寝すぎて眠くないからな」


 僕は部屋を出て壊れている廊下の壁から外に飛び出した。城の周りは瓦礫と化していて兵士たちは誰もいない。休んでいるのだから当たり前なのだが。


「随分と壊されたものだ」


 街中を歩き、そう思う。今夜は満月なので暗くなく街中がよく見えた。どさくさに紛れて不審者がいないかと思いつつ熱探査を使ってみる。アペピはあの蛇型モンスターの生みの親のようなものなので熱探査は普通に使えた。

 そしてヒットした。瓦礫の中をこそこそと隠れるように進む奴が一人。体の構造から人間の女子と推測できる。持っているのは…杖か?


「捕まえればわかるか」


 気づかれないようにそいつの後ろに回り、拘束魔法を使用する。光の網のようなものがそいつに覆いかぶさった。


「えっ?これなに!?」


 ひどく、聞き覚えのある声がした。聞き覚えがあるといってもかれこれ一か月以上会っていないしまさかエルフの王都で会うことになるとは想像していなかった。

 僕は確認のため網の中でなんとか抜け出そうともがいているそいつに近づいてみた。月明かりに照らされたそいつは、やはり予想通りだった。


「谷川悠子」

「へ?なんでうちの名前…あぁ!」


 谷川が僕を見て驚きの声を上げた。



 拘束魔法を使ったまま近くの瓦礫に座り、谷川の話を聞くことにした。


「お前は凪川と一緒に行動していると思っていたんだが」

「三日前まではそうだったんやけど…みんな変わっていって」

「変わった?」

「うん…みんなモンスターを倒すとき狂気じみとるっていうか、乱暴になってきてるていうか」

「調子に乗ってモンスター殺しているうちに楽しくなったんだろ。そういうお前は違うのか?」

「後方支援やから」


 胸を張って言うな。

 しかし、勇者陣営は見事に戦闘中毒者になってるな。強大な力を振るってモンスターを倒すことが楽しくてしょうがなくて、戦争になったら真っ先に飛び出して殺しにかかるんだろう。


「それで、近くにあったこの国まで転送魔法を繰り返して逃げて来たら戦争みたいなことしててどさくさに紛れて入ったのか」

「そういうこと」

「不法入国だな」

「ちょ!?」


 谷川は水晶を取り出した僕を慌てて止めようと叫ぶ。この声量で叫んでいたらどちらにせよ誰か来るだろうからとりあえずフォンに連絡しておいた。

 場所を伝えたから十分もすれば来るだろう。


「静かになったな」

「通報してまったもんね…それより!美月は!?」

「一緒に飛ばされた。今は城で寝てる」

「飛ばされた?」


 あぁ、こいつは知らないのか。僕は簡単に今まで起きたことを説明した。特に人間の愚王のところを中心に。谷川はショックを受けていたものの思い当たる節があったのか黙り込んでしまった。


「お前は僕の味方か?それとも愚王の味方か?」

「…君の、というより自分の味方やね。人間不信になってまいそう」


 谷川は自嘲交じりにそう言った。

 自分の味方、というのは正しい答えだ。僕の知る限り他人のために生きているのはフェルぐらいなものだろう。まぁ、あいつは僕と土屋に使えることでしか存在証明ができないのだからしょうがないのだけれど。


 そろそろフォンが到着するころだ。


「裏切ったら容赦なく殺す」

「浅守くんこそ、裏切らへんでね」


 裏切らないよ。利用価値がある間は。

 こうして勇者の一人を仲間に加えた僕はフォンと一緒に城に戻った。

 しばらくの尋問の後、谷川の身柄は僕たちに預けられた。



 翌朝、僕は別に部屋を用意してもらってそこで起きた。今日から城や城下町の修理など忙しい日々が始まる。谷川は杖を取り上げられ地下室に監視付きで閉じ込められている。今日、僕が迎えに行かなければ出ることはできない。

 土屋とフェルを起こし地下室へと行く。


「ねぇ、誰を捕まえたの?」

「勇者」

「へ?」


 僕から話を聞いて驚いている土屋に特に説明することなく地下室へと階段を降りる。地下室の警備をしている兵士に案内をしてもらって地下室のカギを開けてもらった。

 そして谷川と土屋が対面する。


「美月ー!」

「え!?悠子ちゃん!?」


 谷川が涙目になりながら土屋に抱き着いた。土屋は状況が呑み込めないらしく少し戸惑ったものの谷川を抱きしめる。二人は目に涙を浮かべつつお互いの無事を喜び合った。


「あー!太陽が気持ちいいわ!」

「言っておくがお前の身柄は僕が預かっているから、勝手な真似はするなよ」

「分かってますー!」


 分かっていない気がする。まぁいいや。とりあえずフォンに何をするべきか聞きに行くとしよう。

 僕たちはフォンのいる王室まで足を運ぶ。その間、たくさんの兵士が修理や住民の整理などに奔走しているのを見て、あぁ戦の後始末も大変なんだな。と思った。なにしろ一国を挙げての戦など画面の向こう側でしか経験したことがなかったのだから。


「みんな大変そうやね」

「大変なんだよ」


 事情を話でしか聞いていない谷川は気楽なものだった。こればかりは実際にあの戦いに参加していないと理解できそうにないので特に何も言わない。

 フォンのいる王室の前に着いて、ドアをノックした。中から「入っていいぞ」という声が聞こえてきて僕たちは王室に入る。


「獣人族の国に行ってくれ」

「それが第一声か」


 次の目的地が決まった。それもかなり唐突に。

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