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魔導書製造者  作者: 樹
エルフの戦争
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逆転

 アペピは依然として僕のほうを狙ってくる。僕はなるべくラーからアペピを離すように逃げ回る。

 土屋の準備はできた。フェルの準備ももうすぐ終わる。あとは僕だけだ。

 アペピの起こした落雷は僕を絶えず狙っていて、ウィンドコントロールで電気を移動さていなかったら十回は死んでいた。

 というより、あの雷をどうにかしないと城に被害が出るぞ!今は魔導士が作った結界で何とか防いでいるけどもう限界だろ!


「はぁぁぁ!」


 誰かの威勢のいい声が聞こえてきて、屋根の上から誰かがアペピに向かって飛びかかった。

 フォンだ。フォンは自分の背丈ほどもある大剣を持ってアペピに飛びかかり、思いっきり大剣をアペピの頭に刺した。アペピはフォンを睨んで襲い掛かる。


「フォン!」


 フォンがアペピに喰われそうになったその時、フォンの体を誰かが押した。

 兵士長だ。兵士長はフォンの代わりにアペピに下半身を喰われ、消える前に渾身の力でフォンの突き刺した大剣を殴った。大剣はアペピの頭に深く突き刺さりがっちりと固定された。

 そして兵士長は「ざまぁみろ」と笑って消えた。


「よくやった!」


 兵士に動揺が広まる中、僕はフォンを受け止めて兵士長に対する賞賛を送る。アペピは再び僕とフォンに狙いを定めて雷を落とそうとするが、暗雲から落ちた雷はアペピの頭に刺さっている剣に落ちた。

 剣が避雷針になっている。これで城に被害が出ることも少なくなるだろう!


「城に戻れフォン!これからが本番だ!」

「…分かっている!」


 フォンは司令塔に向かって走り出した。僕は所定に位置につきフェルからの合図を待つ。


「全員!トーギを何としても守れ!」


 フォンの声が響く。兵士や魔導士が僕の近くに来て結界をはったり攻撃したりして注意を引く。

 さて、そろそろだろう。僕はリモートウォーターとクラッシュを使ってそれを形成し始めた。


『準備、完了です』


 水晶からフェルの声が聞こえる。僕は水晶に「いつでもいい」と返した。

 直後、城が光に包まれた。


 何が起きたのか全員が分かっていた。これから始まるのだ。自分たちの物語のような逆転劇が。

 放出された光は兵士たちが用意した大量の魔鏡によって屈折し百束ほどの光の束のようになる。それらは僕のほうに集まってきて、僕はそれらをアペピに向けて角度を調節した明鏡止水、リモートウォーターで集めて平たくした水をクラッシュで圧縮し、巨大な鏡にした。そして反射した光、ラーの内部に貯めてあったエネルギーが明鏡止水に反射してアペピを襲う。

 いわばこれは、巨大な光魔法の光線と言ったところだ。アペピは光の中で苦しみの声を上げ、光が消えて再び姿を現したアペピの体はボロボロだった。


「全軍!総攻撃!ここで仕留めろ!」

『おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』


 王都が揺れた。アペピは地面すれすれまで落ちていて兵士たちは大砲で胴体を撃ち、魔法で攻撃や剣や槍で攻撃を始める。

 アペピはなんとか抵抗しようとするものの百人単位の魔導士が放つ拘束魔法に身動きが取れなくなる。


 誰もが、僕までもが勝てると、そう思っていた。だがやはり悪神、一筋縄でいくはずがない。

 アペピの魔力が増大し、群がる兵士を吹き飛ばしながら拘束魔法を引きちぎる。体の傷も微量ながら回復しているようだ。

 ここまででたらめなのかよ…!


「トーギさん…!もう限界です!」

「もう少し持ちこたえろ!」


 ルースが朦朧としながら悲鳴のような声を上げる。

 ルースの映像までなくなったらアペピを押えておくものがなくなる!それだけは回避しなくては!


「だからって!」


 どうすればいい!?もう一度ラーに力をためように肝心の太陽が…あ。


「フォン!何分持つ!」

「よくて二分!」

「充分だ!一分持たせて教会に突っ込ませろ!」


 僕はいったん戦線から離脱してラーのある場所まで走った。ラーの場所には魔力をモロにくらって倒れているフェルがいる。

 大丈夫、息はある。悪いが緊急事態だから手当をしている暇はない。


「護光!」


 残っているほとんどの魔力を護光につぎ込んで光をラーにあてた。ラーは光を吸い取って力を増していく。

 ガクッと膝に力が入らなくなり地面に倒れた。だが護光の光はまだ途切れていない。ラーは護光を吸収し続ける。


「一分…」


 僕は何とか起き上がり天井ににラーを向ける。外からは怒声が聞こえてきてどうやらこちらに向かってくるらしい。

 僕は水晶を握りしめ、合図を送った。

 同時にアペピが天井を破壊して突っ込んできた。ラーに蓄積されたわずかな光が発射される。


「クラッシュ…!」


 最後の力を振り絞りクラッシュで発射された光を圧縮してレーザーのようにし、アペピの頭を貫いた。

 アペピは唸り声をあげて暴れだす。

 …これ、死んだか?


「うおぉぉぉぉぉ!」


 僕が死を覚悟したその時、聞き覚えのある声が聞こえた。うっすらと開いた視界の先にその声の主が特大のハンマーをもって天井から飛び降りてくるのが見えた。


「死ね!」


 ゴン!バキィ!というハンマーが当たって砕けた音とともに声の主、トーレイの足が変な方向にねじ曲がっているのが見えた。

 助けに来たのか…ナイスタイミングだ…

 アペピは突然の奇襲に戸惑い、動きを止める。それを僕は見逃さなかった。もう一人、天井にいるそいつを。

 僕もトーレイもフェルも動けそうにない。あいつに頼るか…


「フェル…!」

「…はい…!」


 フェルを呼ぶ。僕は上空に初心の書を投げた。フェルはウィンドコントロールでそれをさらに上空へと上げ、天井の人物はそれをしっかりと受け取った。


『魔導書の所有者変更を確認。名前を』

「土屋美月!」


 土屋は初心の書を掴んで僕にヒーラーをかける。少しだけ動けるようになった僕は集まってきた兵士に攻撃されているアペピに向かって新しい魔導書を投げつけ、魔導書はアペピの体に当たり光る。

 アペピの王都を揺らすほどの声が響き、消えた。残っているのは魔導書のみ。


 終わった…?


 僕は魔導書を拾い、名前を付けた。そして上空を見上げる。暗雲はまだ立ち込めていて、その中に頭をなくした蛇の胴体が見え、暗雲は空の上へと去って行った。

 殺せはしなかったが、何とかなったか…疲れ…た…


 その場にいた全員が、フェルまでもが声を張り上げて喜ぶ中、僕は限界がきて気絶した。


 アペピが王都に襲来し、三時間後に撃退。三百人が死亡し王都も城を中心に甚大な被害が出たものの復興のめどは立てられる。むしろ悪心が襲来したというのにこの程度の被害で済んだのは奇跡だった。


 今回の悪神襲来、エルフ側の勝利。

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