管理
五階の端に、管理室と扉に刻まれた部屋がある。今まで罠ばかりだったのでこれも罠ではないかと警戒している。
五階では特に罠が多かった。土の壁からいきなり巨大な両手が生えて攻撃してきたり骸骨が上から降ってきたり鉄球が振ってきたり壁に挟まれそうになったりドラゴンの幻覚を見たりした。そしてたどり着いたのが、ここ。正直これも罠だったらキレるかもしれない。
「……怒」
フォンが。
鉄球が振ってきたあたりからかなりヤバい感じになっていてここにきて『怒』を口に出して言うようになってしまった。そんなフォンをなだめる土屋ももう涙目になっている。
「ここで立ち止まってたら何が起こるかわかんないし、入るか」
「そうだね…」
僕は慎重に扉を開けた。その部屋に待ち構えていたのは、まさに管理室。
「は?」と、僕とおそらく土屋も思ったと思う。パソコンは一台ではなく、よくSF映画などでよく見る近未来的な感じだ。壁に張り付いているいくつもの大きなモニターには遺跡の各階の様子が映し出されている。管理室という言葉がこれ以上なくぴったりくる場所だ。
「…なんだこれ?」
「SF映画…?」
僕たちは呆然としながら部屋に入っていく。そして目の前に広がっている光景を認識するのにかなりの時間を要した。
ここは、管理室なのだろう。それは分かる。だがこんな高度な科学がなぜ異世界に、科学の鱗片しか見せなかったような異世界にあるのだろうか。
ありえないことではない。だが、理解不能だった。
「なんなんだ、この世界は…」
僕がそう呟くと、モニターにノイズが走り、今まで別の場所を映していた映像が真っ暗になった。そして再びノイズが走り映し出されたのはフードをかぶった誰か。
『こんにちは』
男だ。
フードを被った男は抑揚のない機械のような声で僕たちに向かって語り掛けた。
『浅守燈義に土屋美月、君たちは混乱しているだろう』
「僕たちを知っている?」
フードは確かに僕たちの名前を呼んだ。
『目の前に広がる光景が納得できないだろう。今はそれでいい』
「今はって…」
全員がモニターに注目するフードはこっちが見えているのか、僕はフードが僕と土屋を見ている気がした。
『ヒントはすでに表示されている。この装置を動かしたければパスワードを打つんだ。それは答えでありこれからの問題でもある。』
フードの男はこう締めくくった。
『世界を解いて創造主を倒せ。全てが終わる』
フードがそういうとモニターに再びノイズが走り遺跡の映像に変わった。だが僕たち全員驚いて動けない。
世界を解け?創造主を倒せ?全てが終わる?何を言っているんだあのフード男はどうかしている。などと思うにはあまりにも状況があのフードが言ったことと合致しすぎている。
この映画の中のような管理室に所々で登場する地球に存在する神々の存在。この世界で使われているマヤ文字にピラミッドのような遺跡。
「ヒント…」
なんだ?ヒントとは何だ表示されているのなら忘れるはずがない。考えろ。考えろよ僕。今までこの世界に来て知った知識の中にヒントがあるはずなんだ…!
この地球に残っているものが多すぎる世界のヒントが…!
「地球…世界…ヒントはもう…」
あっ…あぁ…なんだこれなんだこれなんだこれ!意味が分からない考えたくもない可能性だでもこれしかない気がする!
「オアツトク!」
「へっ!?どうしたの!?」
「オアツトクなんだよ!」
思い至った。だが信じられない。これがヒントだとしたら答えはなんだ!
「オアツトクをそれぞれ五十音順で何番目になるかというと5番目、1番目、18番目、20番目、8番目!それをアルファベット順に置き換えて表すと5番目はE、1番目はA、18番目はR、20番目はT、8番目はH!つまりEarth!」
「ち、地球…?」
これが僕の思い至った結論だ。僕は愕然としている土屋を無視してパソコンの前に行きそれを打ち込んだ。
そして表示された『CLEAR』の文字。
「はは…」
僕は思わず尻餅をついてしまった。渇いた笑いが口から洩れる。
これが答えであり、新たな問題、か。
「この世界の根幹は地球だとでも言いたいのかよ…!」
大きな問題が解決され、新たな問題が提起された。頭が混乱してしまった僕と土屋を心配してフェルとフォンが心配そうに声をかけてくるが僕は返事を返すことができなかった。
理解不能という事態を、目を背けるわけにはいかない事態に恐怖して何もできなかった。
転送魔法が使えたので集落に帰ることにした。集落にはもう人が戻ってきていて僕たちはトーレイの部屋で休むことにした。それぞれの部屋に戻った。僕も部屋に戻り布団に寝転がる。が、眠れない。
当たり前か…落ち着いたとはいえまだ混乱している。悪神問題を気にしなければいけないのにさっきの提起された問題ばかり気にしてしまっている。
「あぁ…クソ…」
ダメだ。完全に気がいってしまっている。気になって眠れもしない。外でも歩いて来るか。
外はもう昼間だ。管理室は深夜しか使えないがあの場所には転送魔法で行けるようになったから問題はない。王都の兵士も教皇がこちら側にいると思っているだろうから問題はないだろう。
「それでも、前途多難だな」
僕は部屋の扉を開ける。そして目に入ってきたのは、
水の入った桶を持った土屋。
「そりゃー!」
土屋は水の入った桶を振りかぶり中に入った水が僕にかかった。不意打ちだったので避けられなかった。
「…何しやがる」
「み、水も滴るいい男…あぁ!ごめんごめん魔法使わなひぎゃー!」
僕はリモートウォーターで自分にかかった水を集めて土屋にかけなおした。ベタベタになった土屋はそれでも笑っていた。
なんなんだよ…!こいつは!
「私は、難しいことはわかんないけどさ」
土屋は笑ったまま、僕の目を見て言った。
「今自分がするべきことをするべきだって、そう思うよ」
それだけ言って土屋は行ってしまった。
自分にできることをするべき、ね。その通りなんだがあの問題が気になってそれどころじゃないんだよ。って、あぁ。
「…仕返しかよ」
冷水は人を起こすのにいいらしい。
目を覚ませってことか。
「土屋にそこまで言われるとはな…」
上等だ。やってやるよ。
この世界の謎も何もかもを解いてやるよ。