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魔導書製造者  作者: 樹
エルフの戦争
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仮説

 僕は兵士たちに教皇の顔を見せた。

 教皇を残して王都に帰った兵士たちを見てこの教皇がどれだけ薄っぺらい忠誠心の元成り立っていたのかということがよく分かった。


「ま、この姿を見たら一発で忠誠心も揺らぐな」


 教皇の顔は、というより体はみずみずしい美女から枯れ木のような老婆に代わっていた。土屋の言った通り幻想魔法を自分にかけていたらしい。

 老婆となった教皇はいまだ縛られて気絶している。もし目を覚ましても真実を知られたことを知ったらすぐにまた気絶してしまいそうだが。


「教皇が美女だから忠誠を誓っていたとは…虚しいものですね」

「そんなもんさ」


 フェルが教皇の顔を冷たい顔で見下す。

 さてと、教皇に言ってもそう簡単にスキルを解除してくれるとは思えない。だとしたらやはり管理室に行かなければいけないか…教皇は縛って放っておこう。

 僕は縛られて気絶している教皇を部屋の柱に縛り付ける。そろそろフォンも戻ってくるだろうか。戻ってきたら遺跡に潜ろう。


「結局これは誰からのメッセージなんだろうな」

「分かりません。周りには気配がありませんでしたし」

「うん。解析でも見えなかった」


 残った謎は壁に刻まれたメッセージ。誰が刻んだのか、どうやって刻んだのかもわからない。

 魔法を使ったのなら解析をしていた土屋が気づかないということは、土屋よりも高レベルの奴の仕業。だがたとえ高レベルでも体温はあるはずだし気配もあるはずだ。僕は目を向けていない方向にはフェルが警戒しているはずだが。


「教皇の手下って可能性は低いな」

「どうして?」

「あいつらは教皇に薄っぺらくとも忠誠を誓っていた。だったら僕たちを殺せる状況下にいて攻撃を仕掛けてこないとは思えない」


 本当のところはどうだか分からないがもしかしたら僕たちが、教皇が知らないところで何か面倒な計画が進行しているのかもしれない。何の証拠もないが僕はなんとなくそう思った。



 教皇は一向に目を覚ます様子はなく、フォンも帰ってくる様子はないので僕たちは教皇の監視を交代しながら休むことにした。といっても今ここにいるメンバーでしっかり見張れるのは僕とフェルだけだから僕とフェルで交代することになる。


「それでは、お先に失礼いたします」

「お休みー」


 話し合いの結果、僕が最初の監視役となった。二時間したら交代だ。僕は教皇の前に椅子を持ってきて座り、暇つぶしに窓から夜空を眺めていた。

 夜空は綺麗に煌めいていて地球にいた時には見えないであろう夜空がそこにはあった。


「…あれ、北斗七星?」


 異世界の夜空に北斗七星があった。…なんだろう見間違いだろうか。もう一度目をこすって見てみるけれど確かに北斗七星はそこにあった。

 ここは地球と同じ銀河系にあるのか?いや、宇宙開発が発達している現代でこんな発達した文明を見つけられないとは考えにくい。

 だとしたらここは一体何なのだろう。魔法文明に人間以上の知性を持った種族に地球と同じ星座のある夜空。


「パラレルワールドってやつか?」


 そしてようやくたどり着いた仮説がこれだ。我ながら突拍子もない意見だと思うがそうでなければ説明がつかないことが多すぎる。

そもそも異世界というのはパラレルワールドみたいなものだろう。ありえたかもしれない世界。地球とは違う文明と文化。召喚魔法とは次元を超えるものなのだとしたらそれもあり得る。


 一つの可能性の世界からもう一つの可能性の世界へ。


「しかし、魔法があったとして次元を超えられるのか?空間移動はできても次元移動なんてマネたとえ魔法でも…」


 そもそも人間が勇者召喚なんて技術を身に着けることができたことが不思議だ。フェルに聞いた限りではエルフにはできそうない。

 だとしたらおかしい。エルフにできない魔法がなぜ人間にできるのか。だとすれば…


「人間側に、というより愚王に協力した奴がいる…次元移動すら可能にさせたふざけた存在が」


 いたとして、そいつの目的は何なのだろう。

 いや、仮説をもとに考えるのは早急か。仮説は立てようと思えばいくらでも立てられるしなんの証拠もない状態じゃ考えたって無駄に決まっている。


「本質を間違えるな…」


 そう。間違えてはいけない。重要なのはここに来た方法ではなくここがどういう世界なのかということだ。エルフや魔族など地球には存在しえなかった存在がここにはいる。一体どうやって発生したのだろう。神に創られたか、僕たちのように猿から進化したのか。そしてどのタイミングで魔法というものを発見したのか。どんなきっかけなのか。

 そして、そもそも『神』と呼ばれる存在が、地球の神話に登場する神々の姿を模しているのか。


「摩訶不思議とはこのことだ」


 夜空を見上げながら、思う。僕たちが来てしまったこの世界、オアツトクの謎こそが一番の難関ではないかと。

 そしてそれが解けた場合、この世界の真理を理解してしまった場合、神と肩を並べる、もしくは神すら超越してしまったら僕たちという存在は一体何なのだろう。


「解は出ない」


 ふぅ…とため息をついた。思考の海に沈んでいた僕は考えるのを中止する。考えても無駄だとわかっていても考えることくらいしかやることがないので仕方ない。

 僕は椅子から立ち上がり、初心の書を取り出した。そしてリモートウォーターを使い少し水を集める。

 そして教皇の頭から思いっきりぶっかけた。


「何すんのよ!」

「起きてんなら動け」


 教皇は僕を睨んで叫ぶ。僕は椅子に座りなおす。


「で、なんでわざと捕まったんだ?」

「…何のことかしら」

「しらばっくれるなよ。仮にも一国の主がそうそう前線に出てくるはずがない。お前は何を考えている?」


 再び水を、今度は人間の顔がすっぽり収まるくらいの量を集めて聞く。教皇の顔はみるみる青くなっている。


「質問に答えろ。でなければ水死か斬殺か圧殺か焼殺か射殺のどれかを選べ」

「こ、答える答えます!」


 それを聞いて僕はとりあえず水を分散させた。だがそれが失敗だった。


「おバカさん」


 教皇はそういって自分の頭を潰した。クラッシュを使って、自殺した。悲鳴を上げることなく頭を潰した教皇の首から下は粒子状になって消えていく。


「えっ…?」


 僕は目を丸くしているだろうと、客観的の思った。想定外の出来事過ぎて思考がまとまらない。

 死んだ?なんで?教皇は死にたくなかったはず。でも死んだ。なぜだ?僕のせいか?だとしたらどうしてだ。捕まる可能性は教皇も考慮していたはずだ。


「偽装…いやでも…」


 僕は教皇が嘘つきであると知っている。偽装のスキルは僕に効かないはずだ。それに一応発動した熱探査でも僕の視界に移るものは無機物ばかり。教皇が逃げた可能性は低い。では転送魔法か?


「土屋!」


 急いで土屋を起こす。土屋は眠たそうに起きてきてその後からすぐにフェルが来た。


「この部屋の解析を頼む」

「いいけど…」


 土屋は早速解析に入った。そして土屋の目が細くなる。


「なにこれ…光の粒子がいっぱい…」

「光の、粒子」


 多分、教皇の魂だ。それを即座に理解した僕はある仮説を立てる。それはさっきのパラレルワールドよりも質の悪い、笑い話にもならないような思いつき。

 教皇が自殺したということは教皇には自殺してもいい理由があった。それこそアトランティスを諦めてもいいような理由が。

 そしてそんなもの、この世にあるはずがない。つまり、教皇は死ねば楽園に行けると確信していた。だから、僕はこう思った。

 

 教皇の協力者、そいつは神か、それ以上の存在だと、そう思った。

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