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魔導書製造者  作者: 樹
エルフの戦争
43/258

侵攻

 僕はトーレイの家に全員を集めて暗号の説明を始めた。僕の回答にフォンは怪訝な顔をしていたがそれ以外の回答は見つからないので納得はしてくれた。

 にしても、本当に子供みたいな暗号だな。難しく考えてたら絶対わからなかったぞ。


「正解と決まったわけじゃないがこれ以外考えられないからな」

「だとするとかなりくだらないことで時間を取られたことになるが…今日にでも管理室にたどり着けていただろうに」

「過ぎた時間は戻らないさ。それよりもあの遺跡の攻略を―」

「大変だ!」


 息を切らしてトーレイが入ってきた。僕たちの目線がトーレイに集まる。トーレイは息を切らしながら叫んだ。


「転送魔法を使える奴が逃げた!」

「なにしてんだ」


 閉じ込めておいた奴らの中には当たり前だが転送魔法が使える奴らがいる。そいつについては誰だかわかっていたから注意して監視するように言っておいたんだがな…目を離したすきにやられたらしい。

 まずいな…明日一杯帰らないくらいなら不審に思われないと思っていたが報告されれば教皇が攻めてくる。最悪、集落ごと消されるぞ。


「どうするの!?」

「落ち着け。逃げたのは一人か?」

「あぁ…捜索隊を出そうか?」

「転送魔法使ってんのにどうやって探すんだよ。それより避難だ。集落の住人全員をほかの集落に一時的でいいから移せ」

「簡単に言ってくれるがそんなこと」

「フォン、手伝え」


 フォンの力があればなんとかなるだろう。戦力を失うのはきついが最初から僕たちは遺跡に潜ればいい。


「ほかの集落はここからどのくらいだ?」

「徒歩で、二時間」

「よし行け。今すぐ出発しろ」

「…分かった」

「では、わたしも」


 トーレイとフォンが出ていく。王都からここまで転送魔法を使っても片道三時間ほどかかる。二時間もあれば避難には十分だろう。

 問題は攻めてきたときに僕たちがどう対応するかだ。さすがに百人くらいで攻めて来たらカバーできない。


「フェル、罠つくるぞ」

「はい」

「土屋も手伝え」

「いいけど、何つくるの?」

「落とし穴」


 土屋はきっと子供っぽいと思っただろう。だが教皇が攻めてくるころには辺りは真っ暗だろう。その場合落とし穴の効果は絶大だ。侵攻を止められるし士気を減らすこともできる。深く掘っておけば兵も脱落させられるし。


「フェルの望破帝で深く穴を掘る。僕たちはその上に木を敷いて土をかける。魔法を使えばすぐできる」

「あのさ、私魔法使えないんだけど」

「肉体労働で頑張れ」


 土屋はため息をつきつつ木を探しに行った。フェルがすごい音を立てて地面を破壊している間に土を掘り返しておく。一時間半もする頃には住人は全員移動をして落とし穴も作れた。

 後するべきなのは…


「フェル、しっかり休んでおけ」

「はい」


 疲れた様子のフェルを休ませ、僕と土屋は魔鏡をもってきて仕掛ける。

 よし、罠はこれでいいだろう。元々これだけで抑えようとは思っていない。管理室を起動させれば教皇の偽装も解除されるはずだ。


「いつでも来い!だね!」

「できれば来てほしくないけどな」


 トーレイの家に入りいつでも遺跡に潜れるように準備しておく。

 ま、頑張ってみようか。



 深夜一時ぐらいだろうか。熱探査で窓から外を眺めていると集落の周りにいきなり何人か出現した。しかもどんどん増えている。


「来たぞ」

「分かった…」

「状況を開始します」


 最終的に兵士は百人前後まで増えた。ゆっくり音を立てずに進んでくる。


「じゃ、誘導開始」


 魔鏡に魔力を込めて光を放つ。光は設置した魔鏡に反射して膨れ上がった。光は兵士を覆い兵士からは怒声が聞こえる。


「何をしているの!隊列を組みなさい!」

「あ、教皇もいる」


 何でいるんだよあいつ。普通王都でふんぞり返ってるだろ。


「何でいるんだろう…」

「さぁな。大方、誰かの助言に飲まれちまったんだろうよ」


 確証はないが多分そうだろう。教皇がいくらバカだからと言って王都からそう簡単に動くとは思えない。

 やはり教皇の一件にはなにか面倒なことが絡んでいそうな気がする。


「理由はどうであれ教皇がここにいるのはチャンスだ」

「そうですね。どうします?」


 さて、どうしようか。教皇の居場所が分からなければどうすることも…

 どうしようかと考えていると僕たちの隣の壁からバン!とすごい音がした。攻めてきたのかとそちらを見てみると壁が削られていた。

 『教皇は一番後ろ』と書いてあった。


「これ、罠?」

「…どうだろうな。罠ならこんな手の込んだことするか?」

「そうですね。周りに気配も致しませんでしたし」


 フェルの言う通り、僕の熱探査にも引っかからなかったのは気になる。その気になれば僕たちの誰かを殺せたかもしれないのに。

 …どっちにしろ退路は一つしかないんだ。だったら賭けてみようか。


「フェル、行ってくれるか?」

「仰せのままに」


 フェルはいつも通りの無表情で返事をした。



 フェルがいなくなり土屋と僕だけになってしまった。外では兵士たちが落とし穴に落ちて騒いでいる。


「落とし穴って役に立つね…」

「立ってもらわなくちゃ困る」


 飛び交う怒声、剣を振りまわす兵士とそれを止めようとして剣を振る別の兵士。フェルをあの軍の中に潜り込ませちょっと暴れさせた結果があれだ。当のフェルはもうあのカオスから離脱して安全なところでチャンスを狙っているだろう。


「カオスだね…」

「暗くて急に明るくなったと思ったら落ちて仲間割れ。疑心暗鬼のもなるな」


 所詮は偽装しているだけで兵士が教皇に忠誠を誓っているわけではない。きっとフォンにも忠誠を誓っている兵士も少なかっただろうから権力者が変わったところでそれが変わるわけではない。

 現に兵士は自分だけは生き残ろうと味方をなぎ倒している。


「長い間戦争がないと兵士ってこうなるんだね」

「それもあるが、偽装のスキルの効果が薄いんだろ」

「なんで?」

「悪神、アペピはラーの敵だからな。多分アペピが近づいているからラーの加護が薄くなっているんだろ」


 フォンもそれを警戒していた。日食は結界が完全に消えてしまう。それに今日は新月だ。ただでさえ弱くなっている加護のに新月でさらに弱くなっている。

 そして芽生えるのは戦いを無理強いする教皇への恨みと保身のみ。


「そろそろだな」


 散り散りになった隊列を教皇が必死に整えようとするがもう戻らない。あとはフェルだけで十分だ。


「おい!教皇様がいないぞ!」

「なんだと!?」


 兵士からそんな声が聞こえてくる。

 あぁ、成功したのか。よく見ると誰かを抱えた誰かがこっちに走ってきている。その誰かはすぐに僕たちのほうに来た。それは当たり前だがフェルと教皇だ。それじゃ、この戦いを終わらせようか。


「よく聞け兵士!」

「おい!あそこだ!」


 僕が窓から叫ぶと散り散りになっていた兵士は僕のほうを見た。僕は縛った教皇を窓から見せると兵士に動揺と戦いが終わるかもしれないという安心が広がる。


「教皇は捕まえた!抵抗しなければ攻撃しない!武器を置いて王都に帰れ!」

「少し待ってほしい!」


 一人のエルフが前に出た。


「教皇様をどうするつもりだ!」

「安心しろ!教皇は殺しはしない!」


 兵士は信じられないのかひそひそと話している。

 これで交渉が決裂すればまた攻撃が開始されてしまう。


「ルース!いるか!!」


 僕がルースの名前を呼ぶと兵士たちの間にざわめきが広がるすぐに気絶しているルースを前に転がした。


「そいつを残していけばいい。そいつのスキルは知っているだろ?」

「…しかし」

「くどい。こっちには戦力があるんだぞ」


 そういって土屋に僕のケータイに入っている猛獣の鳴き声を叫鳴で強化して聞かせると兵士たちは震え上がりすぐに武装を解除した。

 一見ピンチに思えた侵攻は一時間足らずで終わってしまった。



 影は諦めている兵士と気絶している教皇を見てため息をついた。

 やはり変わらないな。と呟く。


「次はアペピか」


 影はアペピが侵攻している空を見てつぶやいた。

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