遺跡
灯台下暗しという諺がある。意味は日本国民の大多数が知っていると思うがあえて言おう。要は苦労して探したものがすっごい身近にあった。という話だが。
今回はそれが当てはまってしまった。
「なんでわたしの家なのだ!?」
「予想外だな」
管理室を探すためにトーレイが行った実験で分かったこのだが、どうも管理室はトーレイの家の地下にあるらしい。
「ミツキ!トーギ!」
「ネイスちゃーん!」
視界の端で再会を喜んでいるネイスと土屋は放っておくとして…いやこれホントどうする?家ごと破壊するか?
「おい、お前物騒なこと考えてないか?」
「考えてねーよ」
破壊するまでもないか。家の床を剥がせば何とかなるだろ。
それにしてもネイスの両親、遊び心ありすぎだろ。
「ま、トーレイの家ならなんの遠慮もなく踏み込めるな」
「少しは遠慮してくれ!」
トーレイの家に入り家の床を踏みつつ調べる。リビングに来たあたりで床の音が変わった。
まるで下が空洞になっているように。
「いつも地下だな」
「見つかりにくくはあるな」
床を剥がすとあの床下と同じような入口があった。入口の蓋を壊すとあの床下の部屋とは比べものにならないほど深く暗い階段が続いている。
これ行先ダンジョンとかじゃないか?
「そういえばここらにはエルフの古代遺跡があるらしいな」
「エルフに古代文明とかあるのな」
「当たり前だ。わたしたちは突然発生したわけではないからな」
それもそうか。
「行くしかないか」
日食まで一週間と二日。時間はあるとは言えないが国が乗っ取られてしまえば対抗もくそもない。教皇が悪神問題をどうするつもりなのかは知らないが任せておくと僕たちが不利になることは間違いない。
「遺跡攻略と行こうか」
「うん!」
「はい」
「分かった」
トーレイとネイスを上に残しフォン、フェル、土屋と僕でダンジョンに続く階段を降りる。階段は結構深く十五分くらいかけて降りた。
そこには松明があり、そのうちの一本を手に取り火をつけた。周りが一気に明るくなり結構奥のほうまで見渡せるようになった。
「骸骨とかありそうだね…」
「ゾンビとかミイラ男とか出るかもな」
「怪談話に出てきそうな場所だね…」
…なぜ二人とも僕の服を持っているの?
「怖いのか?」
「怖くなんて!」
「全くない!」
「じゃぁ離せ」
二人は目をそらしてしまった。話せよ歩きにくい。
「フェル」
「はい。分かりました」
何を思ったのかフェルまで僕の服を掴む。何か言おうとしたものの皆が目を合わせてくれないので何も言えなかった。
仕方ないのでしばらく進んでいくとガシャガシャという音がたくさん聞えてきた。
「敵か?」
「臨戦態勢に入ります」
音のしたほうを照らしてみるとボロボロの鎧を着た骸骨が錆びた剣や槍を持ってこちらに歩いてきた。
すごいテンプレモンスターだ。こういうモンスターってたいていは音を聞きつけて大量に表れるんだよな。
「望破帝」
「ファイアウィップ」
骸骨が剣や槍で襲ってくる前に敵を倒す。だがバラバラになった骨が再びくっついて再生した。
厄介だな…モンスターの特性なのか?だったら地道にHP減らすしか対応できそうにないな。
「トーギ!」
「おっと」
骸骨は口から黒い球を発射して僕たちを狙う。ギリギリで避けたもののその黒い球は近くにあった松明に当たり、松明はカラカラになってしまった。
「即死魔法だ!発動率は低いが発動したら即死だぞ!」
「ウソだろ…!?」
即死魔法!?確かにアンデッド系列はそういうの使うものだがここはゲームの中じゃない。リセットボタンもなければ蘇生魔法もない。当たったら終わりだ。
「ど、どうしよう燈義くん!逃げる!?」
「逃げる!」
対策しなくては迂闊に進めない。僕たちは全速力で階段まで走り、駆け上がった。そして大急ぎで蓋を閉める。トーレイが「何があった!?」と驚きながら聞いてきたので中で起こったことを離した。
「厄介だな」
「あぁ…なんとか対策を立てないとな」
しかし自分の家の真下に遺跡があったうえに即死魔法を使うモンスターが生息していたというのはトーレイ的にどういう心境なのだろう。
「アンデッド系列に有効なのは光属性の魔法だ」
「例えば?」
「光円とかだな」
光円とは光属性の魔法を剣に宿す魔法で、セットウィンドの光属性versionのようなものらしい。だが残念なことにこの中で使える者はおらず解析結果が書き込めないので使用することができない。
「王都からなにかあったか?」
「何もない。いつも通りだ」
教皇はフォンを捕まえる以外にもやることがあるらしい。そっちに集中してくれれば何とかなるんだがな…そううまくいくといいけど。
アンデッド対策には光が必要だとしても光属性が使えないんじゃ意味がない。となるとヒントになるのはあのメモだ。
「朝の使者に訪ねよ。この意味が分からなければ遺跡攻略は成しえない」
「そうだな。だが王都の文献にも『朝の使者』という単語はなかった。おそらく造語だろう。無論、わたしが見落とした可能性はあるが」
「この文章を書いた著者は王都に行ったことがあるのです。だとしたら教会に分からないような、文献などとは全く関係のない文章であるという可能性のほうが高いと推測できます」
「でも造語なら何かを意味しているってことだよね。一体なにを…」
全く分からない。だがこの文章を解かなければ前にすら進めない。
朝の使者…これはまず人なのか?もの、あるいは時間を表しているのかもしれない。だとしたら『朝の使者』というのは固形のものではないかもしれない。
しかもこれ、『訪ねる』という文章から推測して…
「時間帯だ」
「時間帯?なにが?」
「だから、朝の使者っていうのは多分時間帯を指した言葉だと思う」
「何で?」
「この訪ねるっていうのは誰かを、もしくはどこかを訪問するってことだろ。だったらこの朝の使者ってのはそこを訪ねる時間帯のことを指すと思う」
「成程。訪ねる場所というのは地下遺跡のことだろう」
「そうですね」
つまりあの遺跡にはいくべき時間帯がある。
「あっ」
「どうかしましたか?」
「なぁ、トーレイ」
「…なんだ?」
「あの魔鏡、貸してくれ」
思いついた。これならあの骸骨を、即死魔法を無効化できるかもしれない。
トーレイに魔法を取ってこさせる。魔鏡は合計五枚。これだけあればおそらく十分だ。
さて、骸骨を地獄に落としてやるとしようか。