反乱
翌朝、怒っている土屋の激しいノックで僕は目を覚ました。半ば寝ぼけていたのもあり無防備に扉を開けてしまう。
「燈義くーーん!」
「…朝からうるさい…」
朝から土屋が叫んでいる。扉を閉めようと思ったが土屋の後ろにいるフェルの焦った顔を見て外に出た。
「…妙に静かだな」
外に出てそう思った。悪神が近づいているというのに妙に静かだ。
「反乱です」
「…なに?」
フェルの言葉で思考が一気に冴えわたる。
反乱…フェルが僕に負けたから状況が不利になって事を急いだか。となるとフォンは…
「フォンは死んだか?」
「いえ、拘留されて地下牢に」
ならいいや。とりあえずフォンを助けて、あとルースも必要だ。あいつのスキルはこれから先確実に必要になる。
「地下牢はどこに?」
「場所でいえば体育館の下です」
あそこか…地下に下りるのはリスクが大きいし地下に下りるためのルートは押さえられているはずだ。だとすれば…
「トーギさん、敵です」
「みたいだな」
廊下の曲がり角からエルフの兵士が五人ほど出てきた。その中にはあの集落から来た奴らもいる。兵士は僕たちを確認すると腰にさしてある剣を抜いた。
「問答無用か」
「そのようですね」
僕は魔導書を、フェルは剣を握って兵士と向き合う。
「土屋、フォンの兵士の場所の解析しろ」
「うん!」
土屋が解析に入る。兵士が襲い掛かってきた。一人目をウィンドコントロールで顎を撃ち気絶させ、二人目はフェルが剣の柄の部分で頭を打ち気絶させた。三人目と四人目は同時に襲い掛かってきたもののウィンドスピアの威力を弱めたものを鳩尾に撃ち二人とも悶えている間僕が後頭部とフェルが腹を踏む。最後の一人はがむしゃらに突っ込んできたので二人で顔面と鳩尾を殴って気絶。
ここまで三十秒だった。
「制圧完了」
「武器ゲット」
しかし、面倒なことになった…
兵士から身ぐるみはがして縛って部屋のクローゼットの中や棚の中に突っ込んでおいた。兵士から奪った鎧を着て廊下を歩く。廊下では兵士がせわしなく動いている。
「地下牢まではどうやって行けばいい?」
「階段は一つしかありませんが封鎖されているでしょう」
「だろうな」
でなきゃおかしい。
「でもフォンを支持するエルフもいただろ」
少なくとも集落の奴らの何人かは教会に不信感を持っていたはずだが。
「多分、教皇のスキルだと思います」
「教皇のスキル?偽装か?」
「はい。おそらく全てのエルフの記憶を偽装したんだと思います」
「全て?そんなことできるのか?」
「はい。太陽神の結界発生装置である『ラー』を使えば」
ラーか。エジプト神話の太陽神の名前だ。そういえば結界発生装置は教会が操っていたんだったな。
「ラーの結界は魔力によってできています。そこに偽装のスキルを流して加護を受けているエルフに何かしらの偽装を施したのでしょう」
「そんなことできるの?」
ようやく土屋が話に交じってきた。解析が終わったらしい。
「できます。スキルの性質は魔法と同じ、いうのなら個人が持っている特別な魔法と言えます」
「なるほど。その結界のはられている範囲は全部敵ってことか」
仕掛けたのはフェルと僕が決闘しているときか。教皇はフェルが負けようと勝とうとこの計画を実行するつもりだったのだろう。
だとしたら王都を脱出しなければいけない。フォンは連れていくとしてルースは諦めるしかないか?
「一体どんな偽装をかけたんだ?」
「分かりません。しかし偽装は真実がないと成り立ちませんから」
成程。偽装は真実に嘘を重ねているわけか。だとしたらその矛盾をつくか、もしくはラーのほうをどうにかしなくてはいけない。
「どうしてフェルは影響を受けてないんだ?」
「一度影響を受けた者は耐性ができるんです。所詮、真実を隠しているだけですから種が明かされれば影響は受けません。嘘つきは露見した瞬間に信じられなくなりますから」
「なるほど」
だがこれだけのエルフ全員の矛盾を指摘して偽装を解いていくのはほぼ不可能だろう。取りあえずは結界の範囲外、トーレイのいる集落まで行こうか。
「幸い僕が転移魔法を使える。フォンと、できればルースを助けて転移するぞ」
「分かりました」
「了解!」
方針が決まったので動く。まさかこんな形で集落に帰らなければいけなくなると思わなかった。
「フェル、お前より強い奴はいるのか?」
「どうでしょう。教会の中では私が一番強かったですが兵士と戦うことはありませんでしたから」
教会の中ではフェルが一番強いのか。なら教会の人間に一対一で負けることはないだろう。だが兵士の中でフェルよりも強い奴がいた場合面倒なことになる。なるべく戦わないようにしないとな…
「あっ、そこから二人来るよ」
土屋が廊下の曲がり角を指さす。すぐに二人の兵士が走ってきた。僕たちは歩みを止めず堂々としていると二人は走って行ってしまった。
「案外ばれないもんだね…」
「堂々としてるからな」
堂々としている犯罪者は普通いない。だからばれにくいものだ。このままフォンのいる地下牢に続く道へ行けるといいのだが。
「おい、そこの三人そこから先は立ち入り禁止だ」
…しっかりしているじゃないか。立ち入り禁止にしておけば通ろうとする奴を捕まえるなり殺すなりすればいいからな。しかもこいつ顔隠してないし。
「フェル、この先はもう地下牢へ続いているのか?」
「はい」
「土屋、敵は?」
「解析しただけで十人。でも教皇はいないよ」
多分ラーのところにいるのだろう。だが好都合!
「強行突破だ」
「了解!」
「うん!」
フェルが声をかけてきた兵士を吹き飛ばし地下牢へ突き進む。途中で出てきた兵士をなぎ倒しながら進んでいくと後ろから怒声が聞こえてきた。騒ぎを聞きつけた兵士がどんどん集まってきている。
「フェル!天井を崩せるか?」
「できます」
フェルが天井に向けて右手を上げると天井が丸くへこみ、亀裂が走り落ちてきた。兵士は叫び声をあげながらそれをよける。
これで少しは時間稼ぎが―
「オォォォォォォ!!」
ドゴォ!という轟音とともに崩れ落ちて積まれた天井の壁が破壊された。そこには体中傷だらけのオーガがいた。
「なんで王都の中にオーガがいるんだよ!」
「テイマーです」
フェルがオーガの首を指さす。オーガの首には光る首輪のようなものとそこから後ろに伸びている光る手綱のようなものがあった。
「モンスターを操るスキルです」
「そんなやついるのか?」
「噂でしか聞いたことありませんでしたけど、いるみたいです」
まぁいるんじゃしょうがない。
「土屋、オーガの解析できるか?」
「で、できるけど…する?」
「いや、できるならいい」
僕は初心の書を構えてオーガをみる。そしてリモートウォーターとクラッシ、ウィンドコントロールを使う。
「ウォーターカッター」
少なくとも地球では一番切れる刃物である圧縮して発射した水をオーガが腕を振り上げテイマーであろう男が見えた瞬間に天井に当て男に天井の一部が落下する。男は天井の一部の下敷きとなりオーガの首にあった首輪と手綱が消えた。
「よし逃げるぞ」
僕たち三人はすぐに走り出した。後ろから怒声やら悲鳴やら聞こえてきたが気にしてはいけない。
歴史は勝者がつくるのだ。僕たちが負けたら存分に非難してくれ。
ウィンドコントロールが万能すぎてヤバいです。