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魔導書製造者  作者: 樹
エルフの戦争
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信者

 スキルと言うものは魔獣以外になら誰にでもあるそうだ。異世界から召喚された僕たちに限らずオアツトクに住んでいる人たちも一人一つスキルを持っている。ただスキルの強さや発動条件にはいろいろあるらしい。そしてスキルは魔導書に入力することはできない。だからこそスキルが強い人間は僕が一番苦手な相手となる。

 この少女がそれだ。


「おっと」


 少女が右手を突き出すとバン!と壁が丸くへこむ。僕は右によけて右に剣を振るう。少女は右手の剣でそれを受けるもセットウィンドの能力で風が起こり少女は少しひるんだ。少女がひるんでいるうちに剣で切りかかるものの少女が下に向けて発動したスキルで床を抉って後ろに退避したので空振りに終わる。


「便利なスキルだな」


 ギルデのように串刺しにされたくないので常に動き回り少女の的から外れる。だが剣技はマネできても体力がマネできるわけではない。動き回っていればいずれ体力が尽きるし少女もそれを狙っている。廊下に逃げるという手もあるが廊下は一直線なので土屋を連れて逃げるのは難しい。

 なにかないか。一発逆転できる何かが…


「何をしている!」


 突然声が響いた。この声は、フォンだ。


「ナイス土屋」


 土屋がフォンを呼びに行ってくれていたらしい。フォンは少女と僕を睨む。僕たちはお互いに剣を収めた。


「城内で許可なく戦っているとは何事だ?」

「うっかり歌を聞いたんだ」

「うっかり歌を聞かれた」


 フォンは頭を押さえてため息をついた。僕と少女はお互い目を合わせ、そして気づいた。少女の違和感に。


「二人とももう勝手に戦うのは禁止だ。いついかなる理由があろうともな」


 僕たちは示し合わせたわけではないが互いに互いを指さした。


「「こいつが何もしないのなら」」

「君たち本当は仲がいいだろ」


 違う。似た者同士なだけだ。



 フォンに言われて今日はこれ以上部屋から出ていけなくなってしまった。それはいい。今日は十分な収穫を上げた。だが―


「なんでお前と同じ部屋なんだ」

「一人でいると危険だからって。二つ用意してって言ったんだけど聞いてもらえなかったの」


 そう。僕は土屋と同じ部屋にいる。エルフは男女が部屋を共同することに抵抗はなくむしろ今の僕たちの状況を考えると良い案ではある。

 だが実行されるといろいろと問題が起きるものだ。主にベッドが一つしかないとかそういう問題が。


「布団さえあるんならどっちかが床でもいいんだが…」

「無さそうだもんね」


 クローゼットや棚をすべて調べてみたが布団はなかった。


「ソファーで寝るか」

「ダメだよ風邪ひくよ!?」

「この世界って病原菌あるのか?それに毛布かぶって寝れば問題ないだろ」

「あるよ!」


 土屋が全く譲ってくれない。でも同じベッドで寝るのは僕が嫌だ。


「本当にどうしよう…」

「ま、最悪毛布敷いて床で寝るか」

「本当に最悪だね!」


 だが他に選択肢はない。


「ねぇ、あの子ってさ」

「攻撃信者か?」

「うん。なんか人形みたい」


 言いえて妙だ。あいつは人形なのだろう。言われたことをそのままやることしか存在意義を見出せない哀れな人形だ。


「同情か?」

「ううん。違うの。同情っていうよりは、心配」

「お前らしい」


 土屋もだいぶこの世界に、というよりこの世界の住人に慣れてきたようだ。ネイスを経てだいぶ学んだようだ。


「あのこ死ねって言われたら死にそうで」

「死ぬだろうな。あいつなら」


 だってそうしないと存在意義がないから。あいつは僕と似ている。だが一緒ではない。僕は自分を管理しているうえで心を閉ざしているがあいつは自分を放棄して心を閉ざしている。だからすがっているのだろう。神と言う輩に。


「あいつは解析できなかったんだろ?」

「…うん」


 土屋は申し訳なさそうに目を伏せた。どうやら土屋は自分より高レベルの生物は解析できないらしい。しかしさっき戦ったときなんとなくわかったからそれはいい。

 僕は疑問に思っていることを聞いてみた。


「なぁ土屋」

「何?」

「あいつが死んだら、悲しいか?」

「……ダメ。殺したら」

「あぁ」


 土屋はまだ覚悟ができていないか……まぁ、いい。それならそれでいい。



 夜、召使が扉越しに夕食を伝えに来た。いろいろ忙しかったから腹が減っていたので急いで食堂に向かう。その途中、大名行列のような黒い服装の奴らが廊下を通っていた。

 教会の信者だ。


「あら」


 行列の先頭にいた教皇が僕たちに気が付き足を止めた。そして妙ににこにこしながらこちらに近づいてくる。


「夕食?」

「そうだけど。何?なんか用?」

「えぇ。一人お世話になったみたいだから」


 そういって教皇は一人の信者を前に出した。

 その少女の顔を見て土屋が息をのむ。


「ひっひどい…」


 それは紛れもなくあの少女だ。が、顔が痣だらけだ。まるで誰かに殴られたような。


「あなたたちのせいでこの子にこんな傷が…かわいそうに…」


 教皇は目を手で覆う。


「おい婆、ウソ泣きやめろキモイ」


 教皇の動きが止まった。教皇は僕を睨む。


「燈義くん!」


 土屋が僕の前に出て少女の顔を撫でた。


「回復魔法とかない!?」

「落ち着け。今かけてやるから」


 初心の書の中にある初歩回復魔法ヒーラを使い少女を快復させる。完全回復とまではいかないが顔の青あざは目立たなくなった。


「なに?」


 少女は意外そうに僕たちを見る。土屋は部屋からポケットの中に入っていたらしい絆創膏を少女の青あざの上に貼った。


「絆創膏なんて持ってたんだな」

「軽いケガなら手当できるようにしてるよ!ていうかもう一回!」

「ちょっとあなたたち!?」


 フリーズしていた教皇が動いて混乱している少女から土屋を引き離す。


「わざとケガさせて治療して恩を売るつもりなのね!」

「わっ私たちはそんなことしません!」

「黙りなさい!教会はあなたたちに―」

「決闘か?いいぜ乗ってやるよ」


 教皇は驚いたように僕を見た。僕は少女の前に立ち少女の目を見る。


「お前と僕の勝負。パートナーなしでもちろん場外からのサポートや攻撃無し。魔法ありで武器あり。五秒以上立ち上がれないか気絶、降参で決着。決闘は明日の正午でどうだ?」

「…望むところ」


 少女は少し驚いたものの決闘に応じた。


「浅守燈義だ」

「フェル=テン」


 互いに名乗り僕は土屋の手を引いて行列の中を堂々と進んだ。信者は左右に分かれ僕たちの通り道を作る。

 …フォンに怒られるんだろうな…

とうとう燈義くんが決闘します。

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