知識
案内されたのは資料室のような場所だった。
さすがに大図書館はいかないか。でも十分に資料はそろっているようだ。
「ありがとう。一時間半後にまた来てくれ」
「まだどこかに…?」
「会議だよ。国の重要な会議。聞いてたろ?」
「そうでしたね…」
ルースはなにかぶつぶつ言いながら出て行った。資料室は集落の図書館と同じくらいの大きさで所狭しと本が並んでいる。
「調べるか」
近くにある本を手に取る。
一時間半後、呼びに来たルースに案内してもらって会議室に移動する。
資料室ではいろいろなことが分かった。この世界の名前がオアツトクだということ、人間とエルフ、魔族を合わせて七つの種族がいること。魔獣の生息地域がオアツトクの三割に及んでいるということ。そして、地球に残っているものが多すぎること。
例えば海上都市アトランティス。エルフよりも魔法文明が発達していて神との交信もエルフよりもうまくやっているらしいが人間と同じで鎖国状態にあるらしい。
アトランティスといえば地球上にあった伝説の大陸だ。もちろん実際にあったとは思えない。でもここには、オアツトクにならある。
「オアツトクって変な名前だね」
「異世界のネーミングセンスにどうこう言っても仕方ないだろ。それよりもこの世界が地球の神話に登場するものが実際にいるっていうことのほうが気になる」
この世界の人は地球に行ったことがあるのか?召喚魔法があるなら時空を超えることくらいできそうだが…
「着きました」
「ん?…あぁ、ここか」
「おっきい…」
入口が大きかった。この入口なら部屋はあの公民館くらいあるんじゃないか?
「あの…ぼくはこれで…」
「お疲れ」
「ありがとうございました」
「いえいえ…」
ルースは走って行ってしまった。まだ時間はあるが会議室に入るか。
扉の前に立つと頑丈そうな扉は自動で開いた。
「失礼します」
「お邪魔しまーす…」
会議室の中にはもうすでにフォンがいた。会議室には大きな円卓がありフォンは円卓の上に資料を散乱させ一つ一つ読み漁っている。
「一国の主も大変だな。王はいないのか?」
「…両親が早くに亡くなって幼いながらに王座についたら忙しくてプライベートの時間がとれないのだ。まぁ結婚は考えていないからいいんだけどね」
「大変ですねー…」
「誰かの役に立てることはいいことさ。わたしにはそれくらいしかできないし」
「そうか」
僕は円卓の上にある資料を手に取る。資料には教会でから発表された悪神の情報について書かれている。
『悪神は太陽を憎み太陽神様に守られている我が国を攻撃する。悪神に実体はなく唯一実体化するのは日食のときだけである。日食時には太陽が隠れるため太陽神様の力で守られているこの王都は無防備な状態となり悪神はその時を狙い攻撃を開始する。攻撃時間は結界が回復する十時間程度である』
さすが王都。ずいぶんと詳しい資料がありやがる。
「何年前の資料だ?」
「百年前だ。わたし個人が保管しているものだから自由に見て構わんぞ。というかもう見ているな」
え?資料見るのに許可って必要なの?
「すごい詳しく書いてあるね」
「そうでないと困る」
いくら知っているとはいえ実際に戦うとなるともっと情報が必要だからな。
しかし、アペピを倒せそうな弱点を知っているとはいえ用意できなければ意味がない。
「なぁフォン」
「なんだ?」
「猫っているか?」
「ネコ?誰だ?」
あぁ。ダメだ。
僕はがっくりと肩を落とした。