例外
勇者。聞きなれた言葉だ。僕が読んできた本の中に何度も登場した。悪を倒して世界に平和をもたらす存在だってことは知っている。でも、自分が勇者になるということにおいては話が別だ。
とりあえず今、僕が言うべきことはただ一つ。
「ふざけんな家に帰せ。あと無くなった鞄返せ」
「「「 」」」
……なんだ今の間は。すべての音が消失したぞ。別に変なこと言ってないだろ。
「聞こえなかったのか?」
「い、いや。聞こえておる」
おっさんは驚いているのか目を白黒させている。
あぁそうか。このおっさん王様か。そりゃ驚くな。こんなガキに命令口調で言われたら驚く。が、遠慮はしない。呼び出したのはそっちだ。遠慮なんざするか。
「もう一度言うぞ。家に帰せ。鞄返せ」
「おい!」
僕の肩を凪川が掴んだ。何か怒っている。
「何だ」
「話ぐらい聞いたっていいじゃないか!」
こいつ、僕の突飛な言葉を聞いて理性を取り戻しやがったか。ウザったい正義感をまき散らすなよ。
だが、話しを聞くくらいなら別に問題はないか。
「……分かった。聞こう」
僕の言葉を聞き凪川は僕の肩から手を離した。確かに話を聞いたほうがいいかもしれない。そもそも帰る方法があるとも限らないか。
「実は、我がスレイク王国は滅亡の危機にさらされている」
「滅亡……?」
「ここから北にある魔族の国、ホーメウス帝国に魔王がおる」
「魔王……」
魔王か……いや、勇者を召喚するんだからそれ相応の危機があるんだろうが……
このおっさん。なんか僕たちを警戒してるぞ。異世界から召喚したんだから警戒するのも当たり前だと思うが……これはなにか違う気がする。
「つまり、ぼくたちに魔王を倒してほしいってことですか?」
王様は頷いた。魔王を倒せ、か。
「しかし、困ったことがあるのじゃ」
「困ったこと?」
「うむ。召喚される勇者は四人のはずなんじゃが…」
四人?いや六人いるが……
「つまり、二人は巻き込まれたってことか……」
僕の言葉に全員が互いの顔を見合わせる。この中に勇者じゃないのが二人。そいつらって戦えるのか?
「確かめる方法はないんですか?」
「うむ。心の中で念じてみよ。ステータスが現れるはずじゃ」
「ステータス……」
それなんてゲーム。まぁ確認できるのはいいことだが。
心の中でステータスと呟いてみる。すると頭の中に情報が表示された。
トーギ=アサカミ
男 17歳 Lv 1
HP 100/100
〈スキル〉
魔導書館
魔導書館ってなんだ。だがとりあず勇者ではないな。
「どうじゃ?スキルの中に勇者はあるかの?」
「あ、あります」
「あるな」
「わたしもあります」
「あたしも」
ふむ。どうやら巻き込まれたのは僕と土屋のようだ。土屋は全員を見回し、最後に僕を見た。
僕は土屋から目をそらしこれから先のことを考える。
「勇者じゃない……」
「僕も違う」
王様は一つため息をついた。周りの大臣は一斉にひそひそと話し始める。どうやら巻き込まれたのは僕と土屋らしい。