王都
ログハウスの扉がノックされる音で目を覚まし扉を開けると土屋がいた。
「もう行くって。次で王都に着くよ」
「そうか…大丈夫か?」
「…うん。今は落ち着いてるけどまだ現実感がないな…」
「そうだな。でも現実だ」
「…分かってる。でもやっぱり誰かが死ぬのは見たくないよ」
土屋の表情はすぐれない。だが少しは立ち直っているようだ。閉じこもられでもしたら大変だ。
「慣れろとは言わないがいつまでも落ち込まないでくれよ。これからもっと大変になるんだから」
「うん。そうだね…頑張るよ」
土屋は少し笑った。強がっていることは目に見えていたが特に何も言わないことにした。
僕たちが行くとフォンのいたログハウスの前にもう全員集まっていた。
「しっかり休めたか?」
「おかげさまで」
フォンは満足げに頷き土屋のほうを見る。土屋は「大丈夫です」と小声で言った。
「では、いよいよ王都だ。いろいろと変なことを言われたりするかもしれないが気にしないでくれ」
「あぁ。そうだな」
「頑張ります!」
移動魔法が発動する。景色が切り替わった。
目の前に広がっているのは木々と池。それと木の柱だった。日本庭園を思わせる場所に一瞬驚いたものの周りにいる貴族と思わしきエルフを見て落ち着いた。
「ようこそ。王都ジリューへ」
そう言ってフォンが僕たちの前に出て近くに寄ってきた老人に話している。老人は驚いたように僕らを見て一礼した。
「ハユウ=コーマでございます。どうぞよろしくお願いいたします」
ハユウに礼を返し僕は再び周りを見回す。
さすがエルフ。建物も木でできているし釘らしきものも使ってない。力を誇示するように豪華絢爛だった人間の王室とは大違いだ。
「では二時間の自由行動ののち会議室に集まってくれ。わたしは仕事があるので失礼する」
唐突に自由行動が決まった。ほかのエルフたちはみんな思い思いの感想を口にしながら歩いていく。
「どうする?」
「情報収集に徹するしかないだろ。ただでさえ信頼されてないんだからな」
今でも周りからの目線がひどい。どうしてここまで嫌われているのかも知りたいところだな。
「さて、兵士」
「はっはい!?」
護衛として一緒に移動してきた兵士の一人に話しかける。兵士は驚いていた。
「案内してくれ。ついでになんで人間を嫌うのかも教えてくれ」
「えっと…ぼくこれから業務が…」
「フォンを殺そうとしたときに口止めされたんだろ?バラされたいか?」
「!?」
僕が小さな声で脅すと兵士はビックと身を震わせ小さく「はい…」と返事をした。さすが爆弾。威力絶大だ。
「こいつが案内してくれるってさ」
「本当?ありがとう!」
「ど、どういたしまして…」
兵士は泣きそうな声で返事をした。
「お前、名前は?」
「えっと…ルース=アワイです」
「ルースか。覚えたぞ」
「はっはい!」
ルースには僕が恐怖の対象にでも見えているんだろう。よし、これでこいつは僕の言うことに逆らえない。
「それじゃ、なんで人間を嫌っているのか教えてくれ」
「えっと、会談のせいです…」
「会談?」
「はい…スレグルス会談です」
スレグルス会談?聞いたことがないな。
「簡単に言えばエルフと人間の間で不可侵条約を結ぼうとしたのです。当時人間がエルフに攻めてくるという噂が絶えずとうとう王族が動いたのです」
「で、スレグルス会談に人間側が応じなかったのか?」
「いえ、応じたうえで堂々と宣戦布告されたのです」
なにしてんだあの愚王。
「ちなみにそれってどれくらい前?」
「一年前ですが…」
一年前…勇者召喚の方法でも分かったのだろうか。だとしたら愚王が勇者を使って戦争を起こすのは時間の問題かもしれない。
「愚王が、余計なことしやがって」
「ほんとですよ…おかげでぼくたち兵士は毎日大忙し…もう半年も休日がありません…」
「そうか。で、図書館はどこだ?結局集落じゃ民話以外読んでないからそろそろ知識がほしい」
「超絶スルーですね…」
知りたいことの一つは分かった。あとはこの世界についての知識がほしい。
ルースはため息をつきながら案内してくれた。
「頑張って!」
「…ありがとうございます…」
土屋が慰めていた。
人間関係をうまく構築できる土屋はやはり便利だ。