出発
お正月です。新年です。よろしくお願いいたします。
次の日の朝、ネイスの家の前に人が集まっている。僕たちが王都に出発するのだ。
「わたしも後から合流する。頼んだぞ」
「そっちもな。しっかりやれよ」
トーレイに別れを告げる。トーレイなら権力に屈せず最善の選択をしてくれるだろう。そうしないと僕に爆弾を落とされかねないからな。
ほんと、同情するよ。
「トーギ少しいいか」
「なんだ?」
「これを」
トーレイから箱を手渡された。箱は木でできていて軽い。僕は出発前に貰ったネイスお手製の鞄に入れる。
「なんだこれ」
「お守りだ。役に立つ」
お守りか。魔法も神をあるのなら確かにご利益ありそうだ。
「出発するって!」
「今行く」
王都までは転移魔法を繰り返していくらしい。距離は大体五百キロで、移動魔法で移動できる距離は限られているので中継地で休憩しつつ移動するするらしい。
「トーギ、ミツキ、頑張って!」
「うん!ネイスちゃんも元気でね!絶対また会おうね!」
移動魔法の魔法陣の上に乗りみんなからの応援の声を受けつつ出発する。
「トーギ、頑張れ」
移動が始まる瞬間にトーレイが僕を応援した。その言葉は嘘偽りのない言葉であり、信頼しきっている目をしていた。
意味が分からない。あいつは僕の本性を知っているはずなのに…藁にもすがりたい気持ちなのだろうか…
考えても分からないので人の心は複雑怪奇であると結論をつけ考えるのをやめて、悪神のことに集中することにした。
最初の中継地は森の中だった。移動魔法は一度使うと二時間の空きが必要らしい。中継地には食糧庫とログハウスも四件ほどあり兵士もあらかじめいた。木の柵がはられていてモンスターも侵入してきそうにない。ここで一夜明かしてもいいんじゃないか。
「さてと…」
ログハウスに入り一人であることを確認して鞄からトーレイから貰った箱を取り出し開けた。そこに入っていたのは一枚の折りたたまれた紙。
「これがお守りってわけじゃないよな…」
紙を広げてみるとそこには誰かに当てた手紙のような文章が書いてあった。
トーレイ宛だ。…世話の仕方?ミルクの作り方ってこれネイスを預かってた時のメモか。
「へぇ、なるほど」
だからトーレイは僕にこれを渡したのか。お守りだと偽ってこれを預け、集落に残ったのか。賢い選択だよ。
「しかし、あの日記の著者がこうも早くわかるとはな」
若干の予想はできていたもののこれは動かぬ証拠だ。
「ネイスの両親は大事を知ったから動いていたのか」
日記とこのメモの筆跡が同じだ。日記はおそらく女性が書いていたものだから著者はネイスの母親だろう。しかも堂々と渡さずお守りだと偽ったことからあの集落に敵が潜んでいる可能性がある。だからトーレイは残ったのだ。
「せいぜい僕の役に立ってくれよ」
紙を箱にしまい鞄に入れてログハウスから出る。外では兵士がせわしなく働いている。
「あっ!燈義くん!」
「どうしたんだ土屋」
「王女様が森の様子を見つつ狩りに行くって!」
何してんだあの王女。
「フォンは今どこに?」
「入口のところ!みんな強く言えないから立ち往生してるの」
「僕が行く」
土屋が言ったように入口の所にはフォンと兵士が言い争っていた。
「おいフォン」
「トーギにミツキ!森に行きたいのに許してくれんのだ!」
「当たり前ですよ王女様!」
「少し確認しに行くだけではないか!」
「確認?なんの」
「森に暗雲が立ち込めたというのだ!」
暗雲…悪神のあれか?僕はログハウスにいたから分からないが報告が上がってるのか。
「誰が報告したんだ?」
「俺だ」
声を上げたのは対策会議でやたら僕に対して怒鳴っていた男だ。
「誰?」
「ギルデ=ハイルス。集落最強の戦士さ」
「一番強いのってトーレイさんじゃないの?」
「トーレイよりも俺のほうが強い!」
土屋の質問に怒鳴る男。土屋は驚いて僕の後ろに隠れてしまった。
「…暗雲があったていうんなら見に行くのはいいんじゃないか?」
「そうだろ!」
「お前じゃなくて兵士がな」
フォンが「えー!?」と声を上げる。
当たり前だろ。総大将が出て行ってどうするんだ。
「兵士に見に行かせてお前はログハウスでふんぞり返ってろ」
「嫌だ!」
「いいから、入ってろ」
「…むー」
とても渋々ながらもフォンはログハウスに戻って行った。
「おい、人間ども」
「なんだ最強(笑)」
「おい今呼び方おかしかっただろ!」
そんなことはない。事実を言っただけだ。
「お前らも行け」
「…なんで」
「脆弱で低能な人間が使えるか見極めてやる」
へぇ、言ってくれるじゃないか。まぁ乗ってやろう。
「OK。行こう。それで信頼が得られるのならな」
「行くの!?」
「あぁ、行く」
こうして兵士+僕と土屋で探索隊が結成された。