床下
土屋を連れてきたのは図書館の奥。あのネイスの両親が殺された部屋だ。
「お疲れトーレイ」
「あぁ…本当にできるんだろうな」
「安心しろよ。王都も救ってフォンも救う。僕にもエルフにも利益があるはずだぜ」
「成功したらな」
「するさ。僕は知っているからな」
既知。それが僕の強みであり僕が化け物である証拠。
「土屋、この部屋を解析してくれ。視覚、聴覚、嗅覚の全部で」
「うん…」
土屋の目に眼鏡が、耳にヘッドホン、鼻には…フリーズライト?
「鼻づまりが治ったところで嗅覚は発達しないと思うぞ」
「うるさいよ!鼻につけるものってこれしか知らなかったの!」
まぁ使えるなら何でもいいか。僕は部屋の外に出て結果を見守る。
「それじゃ、いくよ」
土屋の能力で部屋の中を解析する。部屋は隠されていた。証拠が完全に消せるなら隠す必要なんてない。
「これは…床の下に空洞がある…」
「よし。ちょっとどけ」
土屋を部屋の外に出し床に風のウィンドコントロールという魔法をかける。風を操るという初歩魔法だ。隙間から風を侵入させ上に持ち上げる。バキバキという音とともに床が少し盛り上がった。
「トーレイ、手伝え」
「分かった」
盛り上がった床の端をもって持ち上げる。バキッと床がはがれて床の下にある土が見え床の中心部に木でできた蓋があった。
「これ、魔法がかかってる」
「解析できるか?」
「うん。蓋の下にある土をクラッシュって魔法でで圧縮して固定したみたい。結構堅いよ?」
「でも土だろ」
リモートウォーターを発動させる。さっきのウィンドコントロールと同じ水を操るという初歩魔法だ。そして水で蓋の下にある土を柔らかくした。
「せぇの!」
蓋を踏み抜くと蓋は割れて下に落ちて行った。その下にあるのは人一人が通れる程度の梯子。
「地下か…モンスターとかいないよな」
「今のところ見えないけど…」
「よしトーレイ先に行け」
「…分かった」
トーレイが梯子を下りる。そのあとに僕、そして土屋が続く。梯子は深く下についたのは十五分後だった。
「地下通路というよりは地下部屋だな」
「こんな場所があったのか…」
地下は上の部屋と同じくらいの広さで土屋に確認してもらったが隠し通路等は無い。その部屋にあるのは地面に放置されている多少の本だけ。
「これは…日記だ」
「日記ですか?」
トーレイは本の中身を確かめている。本はざっと五冊くらい。すべて日記かはわからないが調べてみるしかない。
「順番に調べるぞ」
「うん!」
「そうだな」
近くにあった本を拾い上げた。これも日記だ。
『十四日目
今日も図書館の改装。大事というものに備えて管理室を作り始めはや四日。そろそろ娘や夫とゆっくり過ごしたいものです。しかし弱音を吐いてはいけません。未来のために、エルフのために大事に備えなくてはいけないと夫は言っています。ならばその意志に寄り添いましょう』
『十五日目
夫がようやく大事について明かしてくれました。いまだに信じられません。一刻も早く管理室を作らなくては。悪神がエルフを壊す前に。エルフが壊れる前に何としても』
日記はそこで終わっていた。おそらく十五日目のあとにこの日記の作者はこの上の部屋で死んだのだろう。日記の裏についている血痕がそれを物語っている。
「大事…か」
悪神問題が起こることは五年前から知られていたのだ。この日記の作者は悪神をめぐる陰謀に巻き込まれたのだろうか。
「管理室に行ってみないことにはわからないか」
日記を閉じて周りを見回す。トーレイは食い入るように日記を読んでいて土屋は眉間にシワをよせている。
「どうした土屋」
「これ、なに?」
土屋が見せた日記の頁は所々破れていて読めそうにない。だが、日記の端のほうに一言書かれてあった。
「朝の使者に訪ねよ。か」
何の話かは分からないがどうやら暗号のようだ。『大事』か『管理室』を刺す暗号かそれ以外か。調べてみるしかないがフォンに提出する証拠は見つかった。
「悪神に乗じて反乱ってのは正しそうだな」
会議で発言した僕の考えはどうやら間違っていないらしい。