勝利
二本の解放されたエクスカリバーがぶつかり合い、地面が抉れていく。俺と勇者の戦いは一歩も引かないきり合いだ。
斬られた場所は瞬時に回復してもらう。ずるいかと思ったが勇者も悠子と同じくらいの回復能力を持っていた。
おそらく、死んだ三人の武器を大道魔法で自分の物にしたのだろう。よく考えたら大道魔法って本当にチートだよね。
「おおおぉおぉおおおおお!!!」
「あぁあああっぁぁあああああ!!」
最終的には力いっぱい、何の技術もないただのぶつかり合いになった。互いに言葉になっていない声で叫びあいそんな状態が十分ほど続き俺たちは互いに距離を取った。
遠くで爆発音が絶えず響いている。燈義たちも互角に戦ってるようだ。
「さすが…伝説の勇者…!」
「君こそ…!強くなったじゃないか!」
勇者は俺の成長を喜ぶように笑った。そして剣をしまい槍を取り出す。
あの槍は、美鈴の…!
「壊せ、グングニル!」
「壊しなさい!グングニル!」
勇者と美鈴が同じタイミングでグングニルを投擲する。しかし勇者のグングニルのほうが威力があり、美鈴の投擲したグングニルと空中でぶつかり、強い衝撃波を発生させた後美鈴のグングニルを打ち破って俺の方に飛んできた。俺はそれを避けることなく、真正面から受け止めた。
ずざざざざざ!と衝撃で後ろに下がりながらもグングニルを受け止めた俺はギリギリで首に刺さらなかった穂先をみて冷や汗をかく。
あ、あぶねぇ…!
「まさか破壊の槍を受け止めるなんてね。想定外もいいとこだよ…しかもちゃんと闇核で侵食してるし……」
「これくらいの無茶しないと勝てないでしょ……」
強がりつつも内心俺はかなり焦っている。美鈴のグングニルを弾いたということは、もし悠子と恵梨香さんの武器を持っているとしたら二人の力を上回っていることになる。
しかもあの二人の武器は勇者の手元から離れることはそうないだろうし……直接触れて侵食しようにもそう簡単にできるはずがない。
まずいなぁ…!
「顔が笑っているぞ、勇也」
「君こそ笑ってるよ、勇者」
無意識に俺は笑みを浮かべていた。
よく考えれば、自分のためだけに考え戦ったことはそうなかった。いつも王様のためとか、仲間を取り戻すためとか、世界を守るためとか、そんなかっこよくもありきたりな理由でで他人の理由で戦ってきた。
だから、自分のためだけに、自分の都合で無理を押し通して戦えるこの戦闘が、面白くてたまらない!
「美鈴、恵梨香さん、悠子」
「何?」
「何ですか?」
「どうした?」
「最終手段でいく」
三人は俺の言葉にそれぞれため息をつき、そして笑った。
「ありがとう!」
「礼を言うのは速いわよ!」
「そうやね!まだ裏面のラスボスが残っとる!」
「頑張りましょう!」
俺はエクスカリバーを持って勇者にぶつかっていく。勇者も逃げることなく俺の攻撃を受け止めた。
「勇者、この世界に未練はない…?」
「ない…!勇也がいるんだ!あるはずがない!」
ありがとう。
俺は満足そうに笑っている勇者に向かって感謝の言葉を言い、そして悠子の抱擁が発動した。抱擁の力で体力を回復した俺は勇者を押すため力を込める。しかし勇者も同じように体力を回復して押し返してきた。
「その程度か…!」
「まさか!」
「こっちよ!」
美鈴がもう一度グングニルを投擲する。射線上にいる俺は避けることなく勇者とぶつかり合った。
「しま…!」
勇者が俺の作戦に気が付いたのはグングニルが俺の背中に当たる三十センチほど前のことだ。俺は勇者の背後に移動していた。恵梨香さんの大道魔法である跳躍だ。
「やるなぁ…!」
勇者は焦ったがすぐに冷静になり、先ほど俺がやったようにグングニルを真正面から受け止めた。一歩も下がることなく受け止めた勇者はにやりと笑う。
しかし、勇者の笑いが凍った。
「こっちが本命よ!!」
「しまった…!これはさっき侵食された!!」
気が付いても遅い。グングニルを受け止めることに必死で気が付かなかっただろうがもう一つ、というか本命のグングニルを持った美鈴が目の前に迫っていた。美鈴は破壊の力をグングニルに乗せて勇者の胸をついた。勇者は回復の力を総動員して抗い、そして勝った。美鈴は弾かれた衝撃で地面に転がる。
しかし美鈴の顔には笑みが浮かんでいた。
「とったわよ」
美鈴はこれ見よがしに見せつけたのは悠子の杖であるアスクレピオスだ。アスクレピオスは折れておりもう使えないだろう。
「回復力がなかろうがそう簡単に倒れるかよ…!」
「倒れるとは思っていませんよ」
すぐさま恵梨香さんのウルが勇者の四肢を正確に撃ち抜く。そして膝を折った勇者を見た俺は全力で上に跳んだ。
「おおおおおぉぉぉおおおおお!!!」
全身に力を込める。決して間違わないようにエクスカリバーを両手で持って前に突き出す。
そして、空気を蹴った。
悠子の力で回復した体力と魔力のほとんどを全身の強化に回し物理限界をこえた速度で空気を蹴った俺は音速で勇者に激突した。俺自身も何が起きたのかわからず見事に骨が突き出した両手がまず目に入った。
次に目に入ったのは、満足そうに笑って消えようとしている勇者だった。
「負けだ…俺の負け。いや、楽しかった」
勇者…勇也の魂は俺のほうまで近づいてきて、そして俺の腕を治した。
こんな力が余ってるのかよ…
「じゃ、頑張れよ」
勇也は世界から消えた。
俺は勝ったぞ燈義。お前はどうだ…?