開扉
二百話です。物語は最終場面。拙くありきたりな物語ですが最後までお付き合いください。
動きの止まったフェンリルは憎らしげにフェルイを睨む。フェルイは小さく笑った。フェルイが太陽の力で縛っているのだ。そして、今のフェンリルには不死性がない。
うまく作動した。勇者を探すときについでに作ってもらった魔法を組み込んだ装置、『世界情景』。能力はアースエフェクトと生命流動を合成させ弱体化し、それを改悪したものだ。
つまり、ある一定の空間において存在そのものを弱体化させる魔法だ。つまり、今のフェンリルは莫大な魔力を食わせることなく顎を引き裂けば死ぬ。だが当たり前だがこれほどの魔法は世界に影響を与えられるあの場所じゃないとできないししかも十数人単位で最大級魔法を扱うだけの魔力を使ってもフェンリルそのものを消すことはできなかった。
だが、これで十分だろう?
「亜音速砲、撃て!!」
オレの声に合わせて亜音速砲が一斉発射される。フェルイに被害を及ぼさないように少し上に向けて撃ってしまった。
舌打ちしても遅い。フェンリルは不死性を失っているしフェルイが太陽の力で縛っているもののこの角度の亜音速砲を避けるくらいの力は残っているだろう。予想通りフェンリルは傷ついた足を引きずって避けようとした。
しかし、起き上がったガルムが足にかみつきその場にとどまる。亜音速砲は見事フェンリルに直撃した。
フェンリルは叫び声をあげる。しかし顎は裂かれていない。ガルムは動けないし、他の奴らの世界情景の制御で精いっぱい。フェルイも動けるはずがないし、前線の奴らは全て上に行っている。
…いや、こんな無理な言い訳を考えるのはやめよう。
「オレ肉弾戦は得意じゃないんだけどなぁ…!」
オレは剣を構えてため息をついて持ってきた剣を抜く。転移魔法を繰り返してフェンリルの上まで飛んで、そしてフェンリルが顔を上げると同時に爆発魔法を起こして斬りかかった。
フェンリルが大きく口を開ける。剣と体に魔力を込める。しかし、フェンリルのほうが速い。
間に合わない…!
「グゥウ!??」
突然フェンリルの顔で爆発が起きた。ルグルスのほうから大量のミサイルが飛んでいた。そしてオレの体が誰かに抱えられたように浮いた。いや、実際抱えられている。飛翔装置を付けたフォーラスに抱えられている。
「何特攻してるんですか死ぬ気ですか。アレ相手に訓練も受けてない人が肉弾戦とか何考えてるんですか」
「フォーラス!?電脳種は世界情景の制御してるはずじゃ…」
「一人抜けたくらいじゃ変わりませんよ」
「いや、お前は最重要ポジションだろ…」
「いいんですよ。自分が抜けても五分はもちます…そんな剣じゃ役に立ちませんよ」
そう言ってフォーラスは剣を渡した。
「光剣。魔力によってのみ構成された剣です」
「よく造ったな…」
「半年くらい前にトーギさんが向こうの世界で有名な物語にでてくる武器を再現したそうです。魔力切れがない限り出現できますし普通の剣より格段に斬れますよ」
「そうっぽいな…」
ヴォンと音を立てて青色の光の剣が出てきた。
そして、フォーラスは背中の加速装置を稼働させフェンリルの攻撃をかわしつつ顎を狙う。
「甘いですよ」
フォーラスが腕から発射したミサイルは爆発した瞬間に白い粉が噴き出した。フェンリルは動きを止める。
「さすが痺れ薬を強化しただけはありますね」
フォーラスは全速力でフェンリルに近づき、そしてオレは持っている剣を水平にしてフェンリルの顎を切り裂いた。
加速装置の限界が来たのはフォーラスともどもオレも地面に激突する。最後に飛翔装置の残った力で衝撃をできるだけ殺したので擦り傷程度で済んだ。
「どうですか…最悪の敵を倒した気分は」
「もう二度とこんなことしねぇ絶対にしねぇ…!!」
もう絶対に肉弾戦なんてしない。マジで無駄死にするところだった怖い!!
「まぁ、これが戦場の常識なんですけどね」
「…戦争が終わったら思いっきり休暇をやろう…」
そして金でも渡してゆっくり過ごしてもらおう…オレも悠子と過ごそう絶対にそうしよう。
「そういえば、上はどうなっているんでしょうね」
「さぁ、な」
上を見上げる。相変わらず爆発音が続きたまに武器や防具が落ちてくる。
そしてフェンリルを見る。フェンリルはフェルイがいる方向とは反対側に倒れて、その死体が消える前に傷だらけのガルムが加えて、そのまま穴から帰って行った。冥府にでも連れて行ったのだろうか。
とにかく、地上の戦闘はこうして終わった。
「頑張れよ…」
オレは上空にむけて小声でつぶやいた。
神殿のキメラの力が弱くなった。そしてアンチキングダムのスキルの発動も中断された。
地上でなにか動きがあったのか…フェンリルが倒されたのか、僕たちが負けたのか…いや、多分前者だな。
「トーギさん、何か」
「地上での決着がついた、と思う」
「どっちが勝ったの!?」
「さぁな、まぁでも僕たちの勝ちだろ…上の戦争も終わらせるぞ」
神殿の奥へと進んでいく。そして、最奥まで来た。
「燈義!」
「勇也!うまくいったのか!」
「あぁ!」
そして走ってきた勇也たちと再会した。
「この先、だね」
「あぁ、いるな」
とてつもない魔力と悪意、そして殺気が扉の向こう側から感じられる。
最終決戦にしてようやくそろった。
「それじゃ、勇者らしくラスボスを倒そうか」
「そうね」
「最終決戦やね!」
「頑張ります!」
勇也がそう言って扉に触れた。それに続いて岡浦と谷川と光海も触れる。
「ま、僕は巻き込まれただけだがな」
「でもよかったでしょ?」
「そうだな。よかった」
「わたしも、お二人に会えてよかったです」
僕と美月とフェルも扉に触れる。
そして全員で一斉に扉を開けた。