召喚
誰もいなくなった放課後。僕はエッセイを読んでいた。明日には図書館に返さなければいけないので今日中に読まなければいけない。
『最終下校時刻です。校内に残っている生徒は速やかに下校しましょう』
「もう最終下校時刻か……」
気づけば午後五時を過ぎていた。
机の横にかけてある鞄をとりエッセイをその中に入れた。席を立ち、教室を出ようとしたところで扉があいた。そこにいたのは生徒会の面々だった。
「やぁ、今帰りかい?」
「……あぁ」
生徒会長の凪川勇也がにこやかに話しかけてくる。その後ろには書記の岡浦鈴美鈴。会計の谷川悠子。副会長の光海恵梨香。庶務の土屋美月がいる。
全員黒髪でピアスなどもない。光海以外は短髪で身長も体格も平均くらいだろう。そのせいで光海が大学生に見える。
そして生徒会唯一の男子である凪川勇也は文武両道のイケメンだ。男子の敵らしい。どうでもいいが。
「最近は何かと物騒だからね。早く帰ったほうがいいよ」
「……どーも」
凪川の横を通り抜け教室から出ようとすると岡浦に右手を掴まれた。
「何?」
「手伝いなさいよ」
そう言って岡浦は凪川を指さす。凪川は机を整頓していた。他の役員もそれぞれずれている机やいすを整頓し始める。
でも僕がやる義務はない。早く帰ってエッセイを読みたいんだ。
「断る」
簡潔に返し帰ろうとすると岡浦はさらに腕の力を強くした。……なんだよ。お前もやれよ。大変そうだろ?
「ちょっと手伝ってくれたっていいでしょ!」
岡浦が僕に対して怒鳴る。僕は顔をしかめた。
「早く帰ったほうがいいって言ったのは生徒会長だぞ」
「あんたねぇ!」
面倒だなぁ。僕は生徒会長の助言を素直に受けているだけなのに。まぁそもそも岡浦美鈴とはこういう女だ。何事においても自分の思い道理にしたがる面倒な性格だ。
「喧嘩はやめたほうが…」
おずおずといった感じで割って入ってきたのは土屋という女子だ。こいつは何かと世話焼きで同学年で僕に話しかけてくるのは土屋ぐらいなもんだ。ウザいだけだが。
「ちょっと土屋。あんた何様?勝手に入ってこないでよ」
「でも早く帰りたそうだし……」
「ちょっとお願いしただけじゃん」
「お願いじゃなくて命令だったがな」
「なんですって!?」
事実言われたからって怒んなよ。どうする?机の整頓だなんて面倒なだけだし早く帰ってエッセイの続きが読みたいし。ここは強行突破しよう。
「まぁまぁ美鈴。彼も早く帰りたがっているんだからいいじゃないか」
「……勇也がそう言うなら」
凪川の言葉で岡浦が僕の手を離した。強行突破する必要はなくなったらしい。
「それじゃ、とっとと終わらせよか」
「そうですね」
谷川と光海が机を整頓し始める。僕は教室から出ようと一歩踏み出した瞬間、目の前が光に包まれた。
「……あぁ?」
強烈な光に目をつぶり、だんだんと視力が回復してきて見えたのは、見たことのない豪華な場所。
そう。まるで物語に出てくる王宮のような…
「ここは……」
後ろから声がしたので振り向いてみると、生徒会の五人がいた。全員状況が把握できていないようで周りを見回している。
状況が把握できてないのは僕も同じか…ここはどこだ。エッセイを入れたカバンもないし……
「何が起きた……」
周りには派手な服を着た大人が何やらひそひそ言っている。そして僕の目の前にいるひときわ派手なおっさんが両手を広げて言った。
「ようこそ!勇者様!」
……事実は小説よりも奇なりっていうけどさ。
どうやら僕たちは勇者らしい。