驚愕
遅れて済みません
王への質問は山ほどあるが、それでも驚きのほうが大きくて質問しきれない。王はそんな僕たちを見てにっこりと笑った。
「なぁ、トーギにユウヤ。なぜ百年前の戦争でわしが総大将になった考えたことはなかったか?」
「なに…?」
「よく考えても見ろ。どの種族よりも劣っている人間代表を世界の命運をかけた戦争の総大将にする?するわけがない。知性ならば電脳種のほうが何倍もマシじゃしの」
「……特別な何かがあった、とか」
「さすが、頭の回転が速い。その通りじゃよトーギ。わしらには特別な力があった。そもそも百年前には人間は絶滅しかけておったしの」
「絶滅?弱すぎてか?」
「いや特殊すぎて、じゃよ」
王は寂しげに、しかし満足そうに笑った。
「何が特殊だったんだよ」
「時計じゃよ」
「と、時計?」
ルーが間の抜けた声を出す。しかし時計のことをしっかりと覚えている僕と勇也はあれが思い浮かんでいた。
世界終末時計。
「世界終末時計というのはその集大成にようなものでの。あれだけは失うわけにはいかなかった」
「あれさえあれば次の行動のめどが立てられるからか?」
「もちろんそれもあるのじゃが、あれは発動時から世界の終末まで常に未来を読み知らせる。故に強大な魔力を必要とするのじゃ」
「強大な魔力…」
「そう。過去の災害や戦争、国から個人までのいさかいをすべて統計し世界の終末までの時間を割り出す。それが世界終末時計の力じゃ」
「それは…維持だけでもかなりの魔力を必要とするね」
そんなもんどうやって持たせてたんだよ。今は創造主の力があるからいいとしても百年前なんてそんな莫大すぎる魔力の補給方法なんてなかったろ。
その質問はすぐに王が答えてくれた。
僕たちが、例えこの戦争が終わったとしてもたどり着けないであろう答えを。
「我々自体が、世界に影響を与えられるだったからじゃ。その情報を終末時計に打ち込めば作業効率も格段に上がるし、魔力も世界の魔力を回せば問題はない。まぁ世界に影響を与えることしかできなかったんじゃがな」
「世界に影響…?それじゃぁまるで…」
「神様みたい。じゃろ?それはそうじゃ。実際我々はそういう扱いを受けておった。神同様の技術を持ち、それゆえ狙われて滅びかけた文明。そしてこの世界では負けることに徹し姿を隠し続けてきた」
「まさか…!お前ら…!」
「こちらの世界では我々のことを、アトランティス。と呼ぶのじゃよ」
アトランティス。人間と同じく戦争に参加していない国。だが想像もつかなかった。まさか、こいつらこそが戦争の突破口。
アトランティス、そのものだったなんて。
「アトランティスというものは彼が付けた名前での。我々はスレイク王国の内部に百年前に生き残った者たちで集まり形成した軍団の名前でもあるのじゃ」
「だからホーメウスに守らせて絶対にばれないように仕向けたのか。架空の国を作り上げて」
「その通り。魔族はこの世界では他の種族よりも勝っておるからの。彼らに守られておると知られれば力づくで調べようとすることもない」
「そして一切の情報を公開しないために完全な鎖国状態にした」
「人の口に戸はたてられぬからの…さて、ユウヤ」
「は、はい!」
「そう緊張しなくともよい。ここから先は先ほど話した交換条件の話となる」
「俺に、ですか」
「そう。お前しか任せられぬ」
「分かりました」
勇也はやはり即答した。そして王様は懐から巻物を取り出し勇也に投げ渡した。そしてワイングラスを置き立ち上がった。そのまま僕たちの隣を通り過ぎ部屋を出る。僕たちは訳も分からずついていく。
ついた先は、演説などで使うバルコニー。
その先には、ほとんどの一級貴族が集まっていた。とはいえ険悪な雰囲気だ。
「全員に告ぐ!」
王はスレイク中に響き渡る声で、言った。
「ここにいるナギカワ=ユウヤを新国王とする!これは国王の決定である!」
「……はぁぁぁ!!!???」
勇也は驚きの声を上げた。僕は半ば予想できていたので驚きはしなかった。しかし当の勇也は驚きのあまり開いた口が塞がらない状況にある。
……まぁ、驚くよな。うん。
「で、どうするんだ新国王」
「いや新国王とか言わないでくれる…!?どうすればいいのこれ…!?」
「受け入れろ。お前が国王になればアトランティスの技術が手に入るかもしれない。頑張れ」
「そうだとしても一応元は一介の高校生だよ…!?戦う術は身に着けられても国王を務めることなんてできないよ…!?王様…!」
「分かっておる」
「王様……!」
「書状はユウヤが持っておる!決定事項である!」
「ちょ!?」
「黙れ」
僕は勇也の口を押える。そして無理やり勇也の持っている巻物をかざす。
「僕はユウヤの従者である!国王の言う通りユウヤは王になった!これからはユウヤに従ってもらう」
一級貴族のほとんどは僕のことを知らない。しかし貴族の反応はよくないな。愚王のころは好き勝手やれたが勇也の前では好き勝手出来ないのだろう。
まぁ、暴動は覚悟の上だ。最悪武力で抑えつければいい。
「さて…さようならだ新王よ」
「へ?」
王はにっこりと笑った。そして、バルコニーに倒れる。満足そうに笑う口からは血が流れていた。
ワインに、毒を…?
「…国王が殺された!一体誰が!許さないぞ!」
僕は声を張り上げる。いきなりの事態に誰もついてけず自分ではないと主張し始める。
「これより国王を殺したものをあぶり出し刑に処す!なにか証拠をあげたものにはそれ相応の報酬と地位を与える!」
僕の言葉を受けて貴族たちはすぐさまクーデターを企てていたやつらの名前をあげ始めた。